封建主義者かく語りき (双葉文庫 く 6-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575710779

感想・レビュー・書評

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  • 封建主義者の立場から近代民主主義を批判するという、著者の基本的なスタンスがよく理解できる一冊。エッセイ集とは違い、一冊を通じて同じテーマについて扱ってくれているのは嬉しい。
    しかしデビュー作という事もあり、文章がややカタい気がする。


    200円。

  • 「封建主義」という言葉には、目上の人間が目下の人間の言う事を無視する、といった漠然とした何かはあるがその実極めて曖昧である。
    それは、封建時代が終わった後に、次の時代を担わんとする民主主義者が、封建主義全般をひっくるめた雰囲気の名称として言い出したためであり、つまり封建主義は民主主義のネガといえる。

    民主主義…キリスト教から生まれ無政府共産を志向(神により迷える子羊がまとめられる)
    封建主義…鼓腹撃壌を志向(腹をぼこぼこと叩き地面をとんとん打ったりして、帝とはなんぞやと言う)
    どちらが現実的か

    民主主義…主婦。ふしだらな印象。大正に造語された際は極めて誇り高い言葉だった。それは武士の妻を連想させるから。今は主婦の大半が生産点ではなく生活点しか持たないため、緊張感がない。
    封建主義…武士の妻。凛とした印象。彼女たちも生産点を持っていなかったが、非日常的な死をも夫と共有する封建主義的倫理を持っていた。

    資本主義/民主主義…効率主義。平等という言葉がどれほどの盲人を救ったのか。
    封建主義…「礼」があるため障碍者でも十分に保護される。「メクラ騙せば7代たたるぞ」など。差別を助長するが、盲人の虐げを防ぎ、人々の心情を豊かにする。

    封建主義…身分の固定を意味しない。「分」という言葉がある。一視同仁の平等思想

  • 封建主義の復権を説く著者の立場が縦横に語られている本です。

    「封建主義」とは、「民主主義」の対概念としか理解されていないと著者は嘆きます。民主主義とは、「自由と平等を目標とする、人民の人民による人民のための政治」のことを意味します。一方著者の擁護する封建主義は、人民のための政治であり、有能な人民の力をそれぞれに発揮しうる人民による政治であるという点では民主主義と同じ理想を同じくします。しかし封建主義は、政治を人民のものではなく、神のもの、ないし天のものとする点で、民主主義とは異なっています。

    著者は、政治が人民のものだとする民主主義を求める心性は、住人によって住人のために運営できるなら十分であるにも関わらず持ち家を欲しがる「気分」にすぎないと言い、こうした心性が民主主義の堕落を生み出す淵源となっていると批判しています。

    著者の提唱する「封建主義」の中身については、まだよく分からないことが多いのですが、市民社会的な人権意識に対する個別的な批判は納得できるところが多いと感じました。

  • 封建主義者という、一見乱暴な思想と思える風ではあるタイトル。
    これが今でも新しい。
    まず、封建時代に対するネガティブなイメージを払拭するいくつかの例をあげて、民主主義の持つ不安定さを露呈させる。
    それから、封建体制というフィルターを通すことで、民主主義や人権論者の持つ欺瞞を露呈させるなど、非常に気持ちよくこの混沌とした世の中の根本を語ります。
    この本のすばらしさは、一見乱暴な思想書のタイトルでありながらも、きちんと社会システムに対する具体的な提言になっていること。
    民主主義の欺瞞を疑わないことは、思考停止に陥っていることで、ファシズムとなんら変わらないという主張には、目からウロコ!
    読書後、民主主義のよくないところは、人の心が空虚になるのではないか?という感想が残った。
    封建時代、君主たるべき者は帝王学を学び、徳を積んだ。
    平等で自由は、モラルハザードの暴走につながるだけではないかと思う。
    自由と平等が形骸化し、その意味についてすら考えない時代が来るかもしれない。
    そうなったとき、世の中は大変なことになるかもしれないなと、ひとり恐怖しました。

  • 周りと違うことを言う楽しさと勇気。

  • 今から20年近く前、高校生の頃に本書の改訂前の「封建主義その論理と情熱」を読んだ。それまで常識と思っていたことを覆され衝撃的だった。ものすごい影響を受けた本。

  •  自称日本唯一の封建主義者、呉智英がその立場にたって世間並みの良識溢れる民主主義的知識人を、痛烈かつ軽妙にこきおろす作品。処女作であるけれども、氏の思想とそのありようはおおむねこの一冊で完成されつつあるとみてよい。
     まずは、ごく一般に考えられているような、革新的で相対的に良いものである民主主義と、古臭くせまっくるしく最低な封建主義、いう二元論的認識を疑うことから本書は始まる。そして封建主義という語は結局のところ、民主主義者たちが自身の主張と相容れない、それ以前の思想・あり方をまとめてレッテル張りするのに使った「民主主義のネガ」にすぎないと結論付ける。そのうえでまるでごく当然のように民主主義と結び付けられていた「自由」「個性」「平和」「平等」といった諸概念が、決して民主主義固有の、民主主義に自動的に付随するものではなく、むしろ封建主義と考えられる思想の中にどれだけそれらが存在しているかを考察し、同時に民主主義者の害悪について具体的な例証を示しながら述べていく(というよりも一方的にあげつらっていく)。
     さて、著者は自身を本書内で「世界で唯一の封建主義者」と断言している。だが、彼は断じて封建主義者などではないだろう。ここでの封建主義とは、日本社会において(少なくとも当時は)ごく当然と考えられていた民主主義という思想を、わかりやすく相対化するための小道具にすぎない。民主主義のネガである封建主義は、同時に影の大本をはっきりと理解するのにこの上なく役に立つ。そのうえで民主主義にとらわれすぎているが故に、トンチンカンなやり取りに終始することになる三流知識人のマヌケぶりをこれでもかと笑い飛ばす。著者は特段、民主主義自体を徹底的に否定するようなことは書いていない。ただ民主主義とて絶対的なものではなく、またその理念を馬鹿に突き詰めると色々おかしいことが生じるよね。というある意味自明のことを、自ら封建主義者に扮し、おどけながら語りかけているのだ。
     なので、本書内の封建主義についての瑣末な理屈についてあれこれ突っ込むのは筋違いだろう。民主主義が絶対視されることへの警鐘は言い古された現代文明批判にも通じるが、第三者ではなく自らピエロとなってのものだけに理解しやすく、不思議と説得力が増す。著者は本書内で「学者はあまりに慎重すぎる」と書いているが、裏を返せば「職業物書き師」としての自分のあり方を冷静に理解した上での狂行(?)といえる。そしてなるほどこうした分のわきまえ方は、確かに封建主義者と言えなくもない。

  • やっぱり面白い。

  • *小谷野敦がかつて「呉主義者」とでも呼べるほどハマっていたと言っていた、多作の評論家・呉智英の処女本。なるほど、たしかに辛辣具合や圧倒的な学問的知識など文章の醸す雰囲気が似ている。

    *反民主主義、封建主義の称揚というのがこの本の主題である。ナルホドフンフンという具合にページは軽やかにめくられていくのであるが、読み終わってなにかしっくりこない感じが残る。というか、何も残っていない感じがする。民主主義がどうも面白くないのは理解る。ファシズムを封建主義とくっつけるなんてのはバカのすることだということも理解る。しかし民主主義やバカ知識人に代わる封建主義思想の肝心の全体像が掴めない。すべて民主主義のカウンターという形で語られていて、封建主義からの積極的価値提示がないように思った。封建主義思想を儒教にすべて委ねているかのように読めてしまうのも、違うと思うし。

  • 「封建」の偏見を取っ払ってみましょう。

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著者プロフィール

評論家。1946年生まれ。愛知県出身。早稲田大学法学部卒業。評論の対象は、社会、文化、言葉、マンガなど。日本マンガ学会発足時から十四年間理事を務めた(そのうち会長を四期)。東京理科大学、愛知県立大学などで非常勤講師を務めた。著作に『封建主義 その論理と情熱』『読書家の新技術』『大衆食堂の人々』『現代マンガの全体像』『マンガ狂につける薬』『危険な思想家』『犬儒派だもの』『現代人の論語』『吉本隆明という共同幻想』『つぎはぎ仏教入門』『真実の名古屋論』『日本衆愚社会』ほか他数。

「2021年 『死と向き合う言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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