「坊っちゃん」の時代(文庫版) 秋の舞姫 (第二部) (双葉文庫)
- 双葉社 (2002年11月12日発売)


- 本 ・本 (300ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575712308
感想・レビュー・書評
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関川夏央、谷口ジロー『『坊っちゃん』の時代 第二部 秋の舞姫』双葉文庫。
再読。単行本も持っており、既読ではあるのだが、先日たまたま立ち寄った古本屋で5巻揃いの文庫版の美本を目にし、少し迷いながら購入した。第1巻とこの第2巻が270円で、ほかの3巻は470円だった。全5巻で1,950円というのは妥当な価格かな。
関川夏央と谷口ジローの名コンビによる大傑作漫画である。夏目漱石が『坊っちゃん』を僅か11日間で書き上げた明治という時代を中心に文豪たちの生き様と近代日本がテーマだ。
この第二部では、冒頭、森鴎外と不思議な関わりを持った二葉亭四迷の死が描かれ、森鴎外の青春と共に『舞姫』のモデルになったエリーゼ(エリス)・バイゲルトとの異国での出会いと哀しい別れのエピソードが描かれる。
林太郎に窮地を救われた踊り子のエリスは林太郎の後を追い、日本へ。しかし、個人よりも家や国家が重んじられた時代。軍医にして森家の長男である森林太郎に国際結婚など許される訳がなかった。
失われた歴史の断片を描くことにかけては右に出る者は居ない関川夏央の原作。同じく関川夏央が原作で、谷口ジローが描いた『西風は白い』を読んでみると歴史の断片の面白さそを知ることが出来る。
原作の面白さも去ることながら、谷口ジローの作画力も魅力の一つだ。プロレスラーとボクサーの筋肉の質を描き分けることの出来る稀有なる画力、山岳漫画に於ける圧倒的な高度感、生き生きとした動物の姿のといった表現力には驚かされる。そんな谷口ジローが明治という時代と文豪たちの心情をどう描いたのか……
恋人のために命を投げ出す義の心がないことをエリスに看破される森林太郎の哀しさよ。最終ページの無言で去り行くエリスの後ろ姿に感動する。
関川夏央も、川上弘美も『坊っちゃん』は哀しい小説だと評しているが、『坊っちゃん』は敗者の小説だと思う。敗者の小説だからこそ哀しい小説なのだ。赤シャツや野だいこを山嵐と共に懲らしめた坊っちゃんさえも森鴎外と同様に結局は敗者となるのだ。いつの時代も全うに生きることは難しいのかも知れない。
本体価格600円(古本270円)
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なるほど、過去の歴史を今の目線で評価するのはフェアではない。しかし、森鴎外は当時の自分の考えと決断をアンフェアと判断したからこそ「舞姫」を書いたのだろう。当時の目から考えても、少なくとも森のなかでは自らの決断、外国人の恋人を捨て、母国に送り返すという判断を「非」と考えたのだろう。でなければ、小説が小説のテーゼを為すわけがない。
森鴎外は医学の世界では脚気の原因を見誤り、観念論で多くの陸軍兵士を死に追いやった「愚物」である。同時に、文学界の大立者でありながら、愛する人を自らの立身出世のために捨てた「俗物」でもある。その彼をあえてテーマに挙げ、漱石とコントラストをなしながら表現した関川・谷口の思いを、僕らはしみじみと考え入る必要がある。 -
森鴎外『 舞姫』のモデルになったエリス・バイゲルトのエピソード。明治という時代は個人が生きるも死ぬも国とともにあった時代。森鴎外はドイツで生まれた恋を日本では手放さざるを得なかった。
複雑な事情…。 -
近代以降、現在に至るまでをはるかにつらぬいて日本に恩恵を与え、同時に悩み苦しませてきたのは西欧文明であり、西欧文明とのつきあいのきしみである。よりありていにいえば、白人が東アジア人より美しいと見えたときに、日本の、あるいはアジアの苦悩ははじまった。そしてその悩み、あるいはたんに居心地の悪さは、「戦後」からこちらに生きるわたしのなかにもあって、いまだに未整理である。
ー 290ページ -
エリスと、ヤクザモンの果し合いと、その意外な組み合わせが面白い。
また鷗外はこの巻の中心から常にずれ続けているということも。 -
森鷗外「舞姫」の元となるエピソードで、本巻でも当然ながら著名人が多数関わってくる。欧州で出会ったドイツ女性と恋に落ち、日本で結ばれようと約したが、軍(出世)と家(跡取り)双方の事情から一方的に別れを切り出す鷗外。しかし、似たようなジレンマは現代人でも起こり得るのではないだろうか。鷗外が以降恋愛を封印し、仕事と執筆に傾注したのは、当時の日本人に士魂が生きていたからかも知れない。
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久々に再読。森鷗外とエリスのお話。舞姫の作中のエリスとは違ってエリスさんがけっこう押しが強いキャラクター。
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なかなか面白かった。
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どこまで本当のことなのか分からないので、もうフィクションだと思って読むことにします。男のエゴの犠牲になったエリス。エリスがこれでもかというほど賢く美しく心清らかに描かれているので、森林太郎の狡さがより引き立ちます。フィクションだと思っていても、森鴎外のイメージは大幅にダウンしてしまいました。
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