「坊っちゃん」の時代(文庫版) かの蒼空に (第三部) (双葉文庫)
- 双葉社 (2002年12月17日発売)


- 本 ・本 (323ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575712315
感想・レビュー・書評
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関川夏央、谷口ジロー『『坊っちゃん』の時代 第三部 かの蒼空に』双葉文庫。
再読。単行本も持っており、既読ではあるのだが、先日たまたま立ち寄った古本屋で5巻揃いの文庫版の美本を目にし、少し迷いながら購入した。
関川夏央と谷口ジローの名コンビによる大傑作漫画である。夏目漱石が『坊っちゃん』を書き上げた明治という時代を中心に文豪たちの生き様と近代日本がテーマだ。
この第三部の主人公は詩人で小説家の石川啄木である。仕立屋銀次に懐中を探られ、僅か2銭しか持ち合わせていないことに憐れまれた石川啄木は勤めていた東京朝日新聞から前借を重ねる。釧路に妻子を残し、同じ盛岡中学の金田一京助を頼り上京した啄木はその浪費癖から生涯に亘り借金を重ね、生活に困窮していたのだ。
あのよく眼にするすました涼しげな顔の啄木の肖像写真は仮の姿だったようだ。金田一京助の友情に甘え、何時も借金の算段ばかりを考え、会社をさぼり、浪費を繰り返す啄木。我が郷土の偉人の一人でありながら、何とも恥ずかしい限りの生き様である。
哀しいまでに後先考えぬ浪費癖と貧困にあえぎ続けた石川啄木も『坊っちゃん』や森鴎外と同様に敗者であったのだ。
本体価格619円(古本470円)
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石川啄木のいた「時代」の空気がヒリヒリ伝わる。漫画力の素晴らしさ。
また、石川啄木とは、こんなにも身勝手な、ある意味非常に人間的な人だったとは、印象がかなり変わった。
物語の主人公としてはツカミOK。芸術家とはここまで自分がないといけないのではとも思う。
そういえば、内田百閒もさんざん借金して人に迷惑かけていた。
金田一京助の母性的な対応もすごい。
このようなはみでた人物には、かならず平衡をとってくれるよくできた人がそばにいるものですね。
それだけ魅力があったのだろう。 -
「AKIRA」の鉄男に負けず劣らずのデコスケ啄木。
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主は石川啄木で、その裏に大逆事件の胎動を描くストーリー。それを支える絵が素晴らしい。しかし、啄木の金銭に自堕落な姿を見ると読んでいてやりきれず、なかなか読み進められなかった。本書では直接の啄木の死を描いていないが、彼の余命が僅かであることを知る者としては、その自堕落な借金生活が悲しく映る。あとがきを読み、啄木の詠む歌が自然主義作家を埋没させるほどのものとなる理由が判るような気がしてきた。
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啄木のイメージが変わった。
歌集を読みたくなった。 -
石川啄木に抱いていた単に悲劇的なイメージを覆された。実際の人物像もあんな風だったのなら生活の困窮は当然の成り行きで、人間性や行動を鑑みても同情は湧いてこなくなった。同情を注げる対象としては彼の運命ではなく性質だ。でもそれも人としてのあり方の一つか。同時に金田一京助の俄かには信じがたいほどの聖人ぶりも対照的で印象に残った。
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借金とその算段は、啄木の人生の主要な一部であった。生活の破綻と、消費へのたらがい難い衝動。小説は完成せず、短歌ばかりが口をついてでる。
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-貧乏はぼくの病気です この国の病気でもあります-
書けもしない小説を書こうとし、さぼってばかり。女を買い、酒をあおるために借金をしては人の好意に胡坐をかいて逃げる。石川啄木って、なんてダメな男でしょ。漱石や鴎外とは違う、明治の「生活者」啄木、明治と心中するかのように若くして逝った啄木。病気だと深刻ぶりながら、ふと浅草でみた活動写真を想い出して心飛ばし「青草の土手にねころび 飛行機の 遠きひびきを大空から聞く」なんてさらりと口をついて出る天才歌人ぶり・・・やっぱりどうしても憎み切れない。啄木と一緒に明治の蒼空を見れる本。 -
面白いけど、石川啄木が嫌いになる一冊(笑)
著者プロフィール
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