夕凪の街 桜の国 (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
4.20
  • (75)
  • (59)
  • (38)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 431
レビュー : 67
  • Amazon.co.jp ・本 (98ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575713435

作品紹介・あらすじ

昭和三十年。灼熱の閃光が放たれた時から十年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の魂が大きく揺れた。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか、原爆とは何だったのか…。著者渾身の問題作。第9回手塚治虫文化賞新生賞・第8回文化庁メディア芸術祭大賞を受賞。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 戦争をテーマにした物語は傑作も多いけど、悲劇的な話も多くて、何度も見返したいかと問われると、「はい」とは答えにくい作品も多いのが正直なところ。
    ジブリ映画の『火垂るの墓』であったり、浅田次郎さんの小説『終わらざる夏』であったりは、傑作だとは思うけど、もしかするともう生涯観たり読んだりしないかもしれない。

    でも一方でこうの史代さんの、ヒロシマを描いた作品は何度も読み返してしまいます。映画も大ヒットした『この世界の片隅に』しかり、この『夕凪の街 桜の国』しかり。

    それは戦争の悲劇や喪われたもの、取り返しのつかないものを描きつつも、その先にある人の営みの美しさも同時に描いているからだと思います。

    三章構成で描かれるこのマンガ。第一章の夕凪の街は原爆投下から10年後の広島が舞台。

    生き残った者が抱えた罪の意識。悲劇を忘れ復興しようとする街の中に、確かに眠っている惨い記憶。それでも生き続けることは、幸せになることは許されるのか。一人の女性が求めた答えと、待っていた運命。

    こうの史代さんのヒロシマのマンガで卓越していると思うのは、悲劇の描写以上に日常の描写であるような気がします。
    復興期の広島でトタン屋根で暮らす母と娘。当時の広島カープの話題や、流行歌が作中に挟まれ、銭湯ではあの日の傷を負った女性たちが身体を洗う。そしてその傷が、あの日の記憶と罪の意識へ誘う。

    日常と地続きの戦争の記憶、残っている傷。日常描写がしっかりしているからこその、戦争の傷がより深いところに刻まれていることが分かります。

    第二章となる「桜の国(一)」では時代も語り手も変わります。活発でおてんばな少女の七海が、友達でおしとやかな少女の東子と一緒に病院で入院している弟の見舞いに行く話。

    この話が「夕凪の街」との繋がりが明確になるのは、三章になる「桜の国(二)」でのこと。(一応二章の中にヒントはあるけど)

    「桜の国(二)」で小学生だった七海はOLに、入院しがちだった弟は研修医になっています。そんな二人の最近の心配の種は、フラフラと歩き回る父親。さらにこの父親、最近どこかに長距離電話もかけているようで……

    そしてある日七海は父の目的を探るべく、尾行を開始します。その途中で出会ったのは、小学生時代、一緒に弟の見舞いに行った東子。二人は一緒に父の後をつけるのですが、その父は広島行きの高速バスに乗り込み……

    父の不審な行動の目的、東子が七海と行動を共にした理由。七海が東子と疎遠になった理由。それぞれに広島が、そして原爆が戦後60年近く経っても(作中の時代は2004年)人の人生に影を落としていることを現します。

    そして広島を訪れることによって覚悟を決めた東子。東子と久々に行動し、東子の覚悟を聞くことで、過去の苦い記憶から解き放たれた七海。この描写は本当に素晴らしい。

    そして七海の父の旭は、広島での日々を想い返します。広島から疎開し、そのまま疎開先の養子となった旭。大人になってから転勤で地元に帰り、実の母と暮らし始めることになった彼の前に現われた一人の少女。そして三人のかけがえのない記憶。

    もう止めてしまったけど、一時期SNSをやっていたとき春色読書会、といった企画がありました。要は春を連想する本の紹介だったり、感想を挙げるものなのですが、その際久々にこのマンガを読みました。そしてこの本は夏の作品だけでなく、春の作品でもあるのだと強く感じました。

    作品の中で桜の花びらが舞う中、楽しそうに話す二人と、七海の力強くも優しい言葉。戦争や原爆で人生が狂わされた人がいる一方で、その先も綿々と続く人々の営みと生の美しさは、悲劇を越えた先にあるものも、たしかに描いているように思います。

    だからこの『夕凪の街 桜の国』はヒロシマや原爆のマンガである一方で、ラスト近くの桜のマンガでもあり、春の作品だとも自分は思ったのです。

    文庫本サイズでわずか100ページ足らずの作品。それでもこの作品に込められたものは、そのページ数をはるかに凌駕し、読者の心に何かを残すと思います。

    戦争や原爆の悲劇を描きつつも、その先にある光を描こうともする。そんなこうの史代さんの「ヒロシマ」のマンガも、他の戦争を描いた傑作と共に後世に残り続けてほしいと、読む度に思うのです。

  • 静かに圧倒された。私はあまりにも知らないんだ。
    人間が人間でなくなる場所…。
    ’’十年経ったけど原爆を落とした人はわたしを見て「やった!またひとり殺せた」とちゃんと思うてくれとる?’’
    ヒロシマ、行かなくちゃいけない。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「静かに圧倒された。」
      忘れちゃいけないコトを、忘れられないようにグサっと突き刺してくださったコトに感謝。。。
      「静かに圧倒された。」
      忘れちゃいけないコトを、忘れられないようにグサっと突き刺してくださったコトに感謝。。。
      2013/01/24
  • 暖かい日常、微笑ましい日常、送れている背景に抱えているもの、ズシッと来ました。言葉だけではなくて表情からも情報が伝わってくる力強い作品でした。

  • 桜の国のほうが好きだった。
    直接台詞を読むより、登場人物の表情から読み取ることのほうが多い。
    絵も綺麗。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「登場人物の表情から」
      言葉に出来難いコトを、判り易く表現出来るのがマンガの強みですね!
      このマンガは、多くの方に読んで貰いたい。。。
      「登場人物の表情から」
      言葉に出来難いコトを、判り易く表現出来るのがマンガの強みですね!
      このマンガは、多くの方に読んで貰いたい。。。
      2013/06/28
  • しみじみとヒロシマの現実が伝わってくる話でした。凪生の体験は決してこの先繰り返してはいけないこと。原発事故のあとだから、広くみんなに読んで欲しい話ですね・・・。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「広くみんなに読んで欲しい話」
      学校図書館に配って歩きたいくらいです!
      「広くみんなに読んで欲しい話」
      学校図書館に配って歩きたいくらいです!
      2013/08/26
  • 「ヒロシマ」におきた不幸な出来事は、日本人なら誰でも知っていることです。
    もちろん私も、映画や小説などから得た情報として、知識としては持っていました。
    4年前広島へ引越し、3年間を過ごしました。
    そして、はじめて原爆ドームをこの目でみました。平和記念館へも行きました。
    知っているだけとは、大違いです。
    実際にその地へ行くことによって、「ヒロシマ」の事実を、頭での理解から、
    心と身体全体で感じることができました。
    記念館で、原爆体験者の方々が自ら語るビデオをみることができます。
    淡々と、冷静に話されていますが、とても残酷な体験です。
    その体験を背負って生きている人々が今も日本にはいます。

    この漫画は、「ヒロシマ」のその後を生きる人たちの話です。
    声高にメッセージを叫ぶわけではありません。
    記念館で語る人たちの姿が重なります。
    やさしい哀しみに心が痛くなります。
    私は、実際に原爆にあったわけではありません。
    なので、本当の苦しみを理解するのは難しいことです。
    ですが、せめて今の心の「この痛み」を感じることのできる人であり続けたい、そう思います。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「感じることのできる人であり続けたい」
      そして、忘れないために次の世代にバトンを渡せる人になってください。
      「夕凪の街 桜の国」を読まれたの...
      「感じることのできる人であり続けたい」
      そして、忘れないために次の世代にバトンを渡せる人になってください。
      「夕凪の街 桜の国」を読まれたのなら、井上ひさし「父と暮らせば」も是非。。。
      2013/01/30
  • ずっと気になる本でした。

    きっかけがあって
    そして
    それが何年も、そして何世代にも渡って人を苦しめるんですね。

    戦争は
    プラスな事、ひとつもない。

    そして原爆も。

    原発の事が騒がれてる今だからこそ
    いろんな人に読んでもらいたい作品でした。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「そして原爆も。」
      作った科学者、落としたアメリカ、戦争をした日本。そして被爆者を追い詰めた日本人、、、辛い話ですが、それだけで終わらせない...
      「そして原爆も。」
      作った科学者、落としたアメリカ、戦争をした日本。そして被爆者を追い詰めた日本人、、、辛い話ですが、それだけで終わらせないところが素晴しい!
      2013/03/04
    • RIKAさん
      nyancomaruさんのコメントが素敵すぎて、返す言葉がありません。今日は 「3・11」久しぶりに この本を読みなおしたいと思いました。
      nyancomaruさんのコメントが素敵すぎて、返す言葉がありません。今日は 「3・11」久しぶりに この本を読みなおしたいと思いました。
      2013/03/11
  • 一人でも多くの方に読んで貰いたい。。。

    双葉社のPR
    「昭和三十年、灼熱の閃光が放たれた時から十年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の小さな魂が大きく揺れた。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか、原爆とは何だったのか…。著者渾身の問題作。第9回手塚治虫文化賞新生賞・第8回文化庁メディア芸術祭大賞を受賞。」

  • 広島に原爆が落とされた10年後の話と、被爆2世を中心に描かれた話。どちらも戦争反対と声高に主張するものではなく、日常に根を下ろして生活する人々の話は、原爆の残酷さを具体的に描写しないだけ、もっと胸に迫る何かがある。


    <font color="orange">
    <center>
    嬉しい?

    十年経ったけど  原爆を落とした人はわたしを見て
    「やった!またひとり殺せた」  と ちゃんと思うてくれとる?

    ひどいなあ

    てっきりわたしは  死なずにすんだ人  かと思ったのに
     
             「夕凪の街」 </center></font>

  • 3つの時代にわたる原爆・原爆症の物語。やわらかい絵柄によく取材されたであろう練られたストーリー。話が進むにつれ登場人物の心情が明らかになっていく展開。旭が第1話では広島を嫌がって離れて行ったような感じになっているが、実は広島に戻って原爆症かもしれない女の子と結婚し、生まれた娘も姉とよく似た名前にする。そのあたりが時代を貫いて流れるストーリーの背骨になっている。夕凪の街だけだったら、凡百の反戦漫画とたいして変わらなかったかもしれないが、桜の国が「強さと優しさ」を描いているところが素晴らしい。

全67件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1968年広島市生まれ。1995年マンガ家デビュー。2004年『夕凪の街 桜の国』(双葉社)で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞新生賞を受賞。『この世界の片隅に』(双葉社)は、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、「THE BEST MANGA2010 このマンガを読め!」第1位などを獲得。ほかの作品に『ぼおるぺん古事記』(平凡社)、『日の鳥』(日本文芸社)など。

「2019年 『この世界の片隅に 徳間アニメ絵本38』 で使われていた紹介文から引用しています。」

こうの史代の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

夕凪の街 桜の国 (双葉文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×