怪談と名刀 (双葉文庫)

  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575714265

感想・レビュー・書評

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  • 心がすり減りつつある時に 米澤穂信 必然性ない本に手を伸ばす
    2020/4/11付
    日本経済新聞 朝刊
    文化はどのような災禍の中からも生じる。人間とは、戦地でさえ詩を詠み歌を唄(うた)うものであるらしい。明日は21世紀の『デカメロン』が書かれるかもしれない。だが今日は、まだ頭を引っ込めていた方がよさそうだ。


    可能な限り多くの情報に接しなければならない仕事もある(医療、物流、報道、行政そのほか難局に対応するすべての人々に敬意を払います。彼らが充分(じゅうぶん)に報いられることを願います)。また、厳密にいえば、民主主義国家において個人に無関係の事柄というのは存在しない。だが、普通の生活者が更なる情報を求めてテレビやネットに常時触れ続けることは、必ずしも安全なこととはいえない。
    あらゆる情報に接し、あらゆることに怒り、あらゆることに不安を抱いていては心がすり減るのだ。すり減った心はさらなる怒りと不安を招き、攻撃性や妄信や憂鬱を引き寄せ、自他の生活を劣化させる。我々が社会を築くのはつまるところ生活を守り改善するためなのだから、生活を劣化させるのであれば、情報の過剰摂取もまたすなわち害となり得る。無知は恐怖を招き不合理な行動を引き起こすが、過度の情報もその点はまったく同じなのだ――このことはラヴクラフトの諸著作に詳しい(なんとまあ、ラヴクラフトから教訓を引き出す日が来るとは思わなかった)。
    心がすり減りつつあるなと思った時は、いま読む必然性がまったくない本が良い。かつて東日本大震災の際、いまと同じように情報の氾濫にさらされた果てに、これ以上を見る必要はないと心を決め、私はテレビを消して『落語百選』『落語特選』(麻生芳伸編、ちくま文庫)を延々と読みふけった。かつて京都で大きな事件が起こり、仕事を共にした良き人々の安否が不明になった時、胸がつぶれるのを防ぐため情報から強いて目を逸(そ)らし、『怪談と名刀』(本堂平四郎著・東雅夫編、双葉文庫)や『江戸奇談怪談集』(須永朝彦編訳、ちくま学芸文庫)を読んだ。今日的なテーマを持たない、短い話が合っていた。
    いま読む必然性のない物語を心に入れると、その無用さが緩衝材になる。必要なこと、役に立つことばかりを追い求めては心が硬く、脆(もろ)くなるのは平時でも同じことだ。「ああ面白かった」「いやあ美しかった」と言って顔を上げれば、過度の楽観や悲観から逃れる道も見えてくるというもの。古人の言う無用の用とは、あるいはこのようなことでもあっただろうか。(作家)

  • 某ゲームに影響されて購入。
    文体が現代作家を読み慣れているとちょっとむずかしいかもしれない。

  • 古い文体なので歴史小説に馴染みのない私には読み進め辛いかなと感じたが慣れればスッと内容がはいってきた。物語だけでなく刀その物の姿形や刀工の解説もあり読みごたえがあった。

  • 幻の名著、なのですね。名刀にまつわる怪談を集めた一冊。怪談好きの人にはもちろん、刀剣好きの人にも楽しめるのでしょうか。古い時代ものといった感じですが。復刊に合わせて読みやすく工夫されているようです。
    お気に入りは「鬼女狂恋」。もっとも恐ろしく感じたと同時に、何ともいえず悲しい物語でもありました。あれほど恐ろしい鬼女だったのにも関わらず、あっさりと「人間に返った」というのがどうしようもなく哀切。そしてこれと「蛇性の裔」とに登場する刀の力が凄まじいんじゃないかと思いました。だって斬ってないんだもの……! ほとんどの作品が、切れ味鋭く怪異をばっさばっさと切り捨てているものだから、それをしなくても力を発しているこれらの刀が印象的でした。

  • 刀剣好きなら楽しい一冊。各刀ごとの逸話が短編として収められていて、それぞれの短編の末尾にはその刀についての著者の所見が記されている。知ってる刀派が出てくればテンションが上がるし、知らないものについても刃文や地鉄の特徴などが細かく記録されているのでとても参考になる。私はそんなに詳しくないので、地景とか砂流しとか分からない単語が結構多くて検索疲れしてしまったけど、、、予備知識があればもっと気軽に楽しめたろうと思う。

    編者解説より、著者は泉鏡花や柳田國男と同年代だそうで、どうりで文章が古典的なわけだと合点したが、読みづらいというほどではない。むしろ雰囲気と合っていて良い味を出している。ほとんど昔話を読んでるつもりだったのが、いきなり話者本人から聞き出したものが現れて、それが山女との格闘まで含んでいたものだから驚いた。やはり少し前の日本には妖怪の類が本当に跋扈していたのかもしれない、司馬遼太郎と堀田善衛、宮崎駿との鼎談であったように、暗闇を照らし出す「電気」が広まってから姿を消してしまったのだなあ、と漠然と思いつつ、これらの"大層な"物語を背負う格があるからこその名刀なのだという認識も深まった。

    それぞれユニークで面白かったけど、小夜左文字の復讐譚は知っていたにも関わらず改めて文章にされると胸にくるものがあったし、大利根の鬼女話は怖すぎた、DVどころじゃない。辻斬りも多いし物騒。共通しているのは、名工が鍛えた刀には霊威が宿り、物の怪は近寄ることすらできないということ。日本のモノづくり文化の根幹が伺えますね。

    ■黄牛大奮戦/亀海部
    ■片思いの梵鐘/卒都婆月山
    ■虚空に嘲るもの/秋葉長光
    ■潜み迫る女怪/金丸広正
    ■呑んで呑まれて/倉敷国路
    ■仁王尊のごとく/二タ声宝寿
    ■夜泣石のほとりで/名物小夜左文字
    ■白猿狩り/白猿
    ■鬼女狂恋/大利根
    ■怪猫邪恋/三毛青江
    ■血を吸う山賊/松尾清光
    ■螢と名刀/名物螢丸
    ■怨む黒牛/台覧国俊
    ■邪神の犠牲/石切真守
    ■群狼襲来/弦月信国
    ■妖異大老婆/嫗切国次
    ■報恩奇談/二ツ岩貞宗
    ■死霊の応援団/籠釣瓶兼元
    ■七股妖美人/七股政常
    ■俳友巣仙/巣仙国広
    ■富田城怪異の間/初桜光忠
    ■蛇性の裔/皹三条
    ■怪奇の按摩/米屋氏房
    ■辻斬りと怪青年/久保坂祐定
    ■逆襲の大河童/有馬包国
    ■藤馬物語/各務綱広
    ■大蛇両断/吾ケ妻貞宗
    ■首が飛んでも/猪ケ窟之定

  • 刀剣にまつわる伝承集

  • 戦国時代~江戸幕末の、刀剣が絡む怪を集めた読み物集。
    刀剣はこれみな怪や悪を斬るものであり、刀それ自体が怪になるお話はありません。
    とはいえ名刀の凄まじさはそれぞれのエピソードの中でよく伝わってきてかなり興奮しました。
    中では長めの「藤馬物語」は、著者が実際に剣術を指南してもらった師匠のお話だそうで、これが一番体温が感じられる面白い作品でした。

    解説に読める本堂平四郎自身の経歴も面白く、本堂サン絶対もっと面白い話知ってるでしょ!と歯噛みしてしまいました。
    本堂その人のことも誰かまとめてくれないかな。絶対面白いはず!

  • 2016/10/31-11/09

  • うわあ、もうなんで全部収録されてないの!!
    地団駄踏むほど悔しい。
    昭和10年に刊行された同題の復刊(だが、怪談・奇聞に関わる内容の作品のみを精選収録)されたもの。
    精選収録!
    精選だろうと他のも読みたい!ほんと悔しい。
    復刊するなら全文掲載してくれ!と声を大にしていいたい。
    某ゲームのこともあるし、ぜひともこの刀剣ブームに乗っかって近年のうちに全文掲載の完全復刊をお願いしたい。

    怪談と名刀とあるが、恐怖するような話では特にない。
    まあ、個人的には価値観違いすぎてひえええってなるところもありましたが。ふつうに辻斬りしてやがるこいつ、とか。
    時代小説好きな方も楽しめると思う。
    刀にまつわる怪奇譚を淡々と書かれているのではなく、小説として書かれている。
    もちろん刀についても詳しい。その刀の刃紋や肌、造りや銘だけでなく、刀工や同派の作風、刃味についても触れている。

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