木皿食堂 毎日がこれっきり (4) (双葉文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575715033

作品紹介・あらすじ

脚本家、そして小説家として、その世界に触れた者をたちまち虜にする夫婦ユニットの創作者、木皿泉。何気ない夫婦のやり取りからこぼれ落ちるコトバは、日常に風穴を開け、そこに新たな色を流しこむ。エッセイを中心に、インタビュー、書評、ショートドラマのシナリオの他、木皿ドラマ『野ブタ。をプロデュース』で連続ドラマ初主演を果たした亀梨和也(KAT-TUN)との対談も収録。人気シリーズ第四弾!

感想・レビュー・書評

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  • ・ドラマを書く仕事をしていて考えるのは、人は何を見たいのかということだ。ストーリーだと思うかもしれないけれど、実はそうじゃないと私は思っている。見たいのは、人間のリアクションなんじゃないだろうか。バラエティー番組で追い詰められた芸人さんの姿に思わず笑ってしまう。ドラマも同じだと思う。役者がこの状況でどんな表情をするのか、もしかしたら見たいのはそれだけかもしれない。

    ・よい結末になるかどうかは、日常のささやかな行動の中にすでにある。人はなりたいものになれるはずである。

    ・匂いは、コトバにできない、でもそこにある。白い夏の制服に、うっかりつけてしまった習字のシミのように、洗っても洗っても消えずにそこにある。まるで私が生きていた証拠のように。

    ・どんなコトバを信じて、どんなコトバを拒むのか。私たちが今感じていることが、この後の世界を決めてゆく。

    ・会いたいというのは、その人が、「いる」といくことを、ただ感じたいだけなのだ。私もあなたも、分け隔てなく、そう思ったり思われたりしている。
    会いたいと思うのは、無事にいてほしいという、祈りみたいなものなのだろう。

    ・友人と見た海の夕日は、今も忘れられないが、それは別にハワイじゃなくてもよかったのだ。何処でとか、何をとか、そんなことは重要じゃない。誰となのか、それだけが大事なことなのだ。

    ・テレビニュースで、黒人が現地の警官に背後から撃たれたというのを聞いて、なくなるのはその人の命だけではないなぁと想像する。その人のいる場所に帰りたかった人はどこに帰ればいいのだろう。

    ・与えられることばかりに慣らされて、私たちは目だけは肥えているのに、何も作り出すことができない人間に成り下がってしまうのかもしれない。ヘンゼルのように道に迷わないようパンをちぎって帰り道に確保するべきだろう。それだって鳥に食べられてしまうわけだから、世間というのは油断も隙もない。見てるだけじゃ、生きてゆく地図はつくれない。

    ・数字は便利なものだが、その背後にある物語を見えなくしてしまう。人を数字に置き換えたとたん、それは利用する者には消耗品にしか見えなくなり、どこまでも無神経になれるのではないか。

    ・宗教が持っていた物語が脆弱になってしまった今、死という現実も個人で背負わなければならない。大事な人を失った喪失感をどうやって一人で癒すのか。不条理としか言いようのない状況に立たされた時、どうやって一人でしのぐのか。そのための物語が、わたしたちに必要なのではないか。

  • 木皿食堂シリーズを読むと、自分が欲しかった言葉や知りたかった言葉はこれだったのかと毎回気付かされる。あの時言えなかった自分の気持ちはこれだったのかとも思わせてくれる。

    「ダンナは私の頭上に小さな花を降らせてくれる」
    「寿司の味はもう覚えていないが、あの日の満足感は忘れていない」
    「会いたいと思うのは、無事にいてほしいという、祈りみたいなものなんだろう。」
    「居場所というのは、物理的な空間である必要はなく、それさえあれば煮詰まった日々も乗り越えられるという救いのようなもの」

    過去の自分を思い出しながらゆっくり読ませてもらいました。楽しい時間でした。

  • ストーリーを作り、虚構とも言われるフィクションの世界を紡ぐ人のエッセイ。
    いつもはフィクションを書く人の現実の話からは、よりリアルでダイレクトに、筆者の落ち着いていて、燃える感情の機微を受け取れた。

    力をくれるお気に入りな意志のこもった言葉たち
    ・ガチガチに見える現実も、私たちがその気にさえすれば、変えることも可能なのである。
    ・名づけるとは、この世の一員として位置付けること。名づけてもらった瞬間から、この世の一員なのだ。
    ・人を数字に換えるのが当たり前の世の中なんかに、絶対に負けるものかと思う。

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著者プロフィール

夫婦脚本家。ドラマ「すいか」で向田邦子賞、「Q10」「しあわせのカタチ~脚本家・木皿泉 創作の“世界”」で2年連続ギャラクシー賞優秀賞。他に「野ブタ。をプロデュース」等。著書『二度寝で番茶』など。

「2020年 『さざなみのよる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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