長い道 (Action comics)

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575939620

感想・レビュー・書評

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  • 月並みな表現ながら、もっとずっと読んでいたかった作品。読み終えるのが実に寂しかった。


    私が本作を知ったきっかけはちくま文庫『貧乏まんが』(9784480435200)に収録されていた〈もてねえもてねえ〉〈助かりましたね?〉の2編を読み、道さんと荘介の間に流れる普通の夫婦とは少々違う不穏な何とも言えない距離感が非常に気になっていた。

    で、入手して読み始めてみたところ…荘介は「カイショなし」なんて生易しいものではなく、相当なクズである。
    そもそもの結婚したきっかけが異常で、道の父が「酔うと何でも人にあげる癖」(p14)を発動させ、飲み屋で荘介の父に娘をあげた事による。尋常でない。0日婚どころかマイナス日婚ではないか(?)。

    それ以来、何だかんだで2人力を合わせて…きたかどうかはわからないが、のらりくらり暮らしてきたのだろうか。

    物語としては結婚1年目の状態から始まる。
    基本的に道さんは善のかたまりのような人で、だらしが無い荘介の振る舞いに接してもふんわりとした笑顔を絶やさず実にまめまめしく働く。
    確かに「普通より鈍い」(p33)のかもしれないが、道さんの笑顔が堪らなく素敵。まさに旧姓の「天堂」にちなみ’おてんと様’みたいな笑顔。
    一方で、過去の実らなかった恋に心が囚われており、そもそも荘介と結婚したのも「(昔の恋人が居る)街に住んでいるならきっといい人だという気がした」「それでわたしは荘介どののところに来た」(いずれもp109)と語り、実際に〈で誰?〉でその恋人とばったり遭遇した際には荘介に向けるものとは明らかに違う表情を見せている。
    〈道草〉(初出を見る限り、雑誌連載とは別で出版した同人誌に掲載されていた話なのかな?)及び〈昔の人〉でしがらみから離れた道さんは本当に晴れ晴れとしている。p166の5コマとp167の大コマの流れがめちゃくちゃ好き。そよぐ春の風すら感じられる爽やかな場面。

    〈やった!〉の回ではこちらも興奮。いや、決して変な意味ではないのです。
    入籍以来全く夫婦関係を持って来なかったこの2人が、酔った勢いで致し「あ」と目覚めたあの場面に、これは何の立場から生じる感情なのかはわからないが、とても嬉しかった。

    最後のページを閉じて改めて中表紙の画を見ると、これまた胸熱。何年後の2人なんだろうか。
    良かったねぇ…良かったよ。

    とても語りきれないくらい素晴らしかった。


    14刷
    2022.6.11

  • こうの史代の描くおっとりさんは怖い。
    優しくないわけではない。でも決して気づいていないわけではないし、簡単に許したりもしない。
    すべてを受け入れているようで、本当に大事なものは決して人と分かち合わない。

    どちらかでも断ればいいという、なんで一緒にいる必要があるかわからない状況で夫婦として暮らしていくふたり。
    決断をせまられるような決定的な事態を常にうやむやに回避して日々を過ごして行く能力。

    置かれた状況を受け入れる。
    彼女の描く主人公はいつも忍耐強く、文句も言わず、悲観しない。
    でもだからといって彼女達の中身が本当に外に見えているままの性質かと言ったらやっぱりそれは違う気がする。
    そこには諦念があって、譲れない思いがきっとあるのだ。

    多分、人生においてどんなに素敵な伴侶と巡り合ったとしても、心の中には孤独にしかいられない場所というのがある。
    そういう誰とも共有できない感情を隠し持っているからこそ、私はこうの史代の描く女性が怖いし、その部分において深く共感するんだと思う。

    まぁでも、かいしょうなしってのはほんとにダメだな、ありゃ。

  • 過去に謎や含みがあるのが
    なんだろうなーと
    想像が掻き立てられる
    実験的な表現方法もあったりして
    普通の漫画とは違う面白みもあった

  • 高校時代の友人が貸してくれた(ありがとうございます)。
    荘介さんは、まあクズなんだけど、道さんに対して、人格否定をしたりしないのが良い。容姿についても、地味で自分の好みではないとは言ってるけれど、それは好みの問題であると片付けているのが好感が持てる。単純に素直な人で、もらえるものは全部もらっておく、全てを受け入れて否定するということをしないのが良いなあと思った。結婚したいとは思わないけど。
    でも、結婚生活ってこんな感じなのだろう。人からどう言われるとかではなくて、自分たちで築き上げていくものなのだと思う。もともと完璧で出来上がった二人が、好き合って家庭を作るものではなく、不完全な二人が、少しずつ、時に衝突しながら家庭を作っていくのだと思う。昔はお見合い結婚がメインだったから殊更そうなのだろう。

    好きなストーリーは「長い糸」という、編み物をしている道さんと、出来上がっていくビル、木が生い茂りまた枯れていくという季節の移り変わり、の三つの時間の流れが端的に、しかし美しく描写されていると感じた。
    あと、はじめのエピソード(「夜の道」)で道さんが
    「わたしあなたと結婚できて良かった」
    「こんな夜中に一緒にさんぽしてくれる人がいるっていいわね」
    「夜中でもちゃんと信号はともっているし」
    「川は流れているのですね」
    と言っているところが大好きで、ウルッとしてしまう。

  • 宇野常寛氏が著者の作品中いちばん評価していたので購入。

    映画「この世界の片隅に」でしかこうの作品に触れていないからかもしれないが、主人公の〈道〉は、ほとんど「この世界の~」の〈すず〉と同じように見えて、自然とのん(本名:能年玲奈)の声がフキダシから聴こえてくるように読んだ。

    ぼんやりとして他人とはクロックがずれている奥さんの〈道〉と、しごとをせずに会った女性に声をかけては出歩いている夫の〈荘介〉。ふたりの日常劇が、3~4ページからなる短編を積み重ねて描かれていく。筆者特有のタッチと空気感とコミカルな描写が、ふわふわとあたたかい感性を紡いでくれる。

    あえて補助線を引くなら、重要となるのは時折登場する〈竹林〉だろう。〈道〉の学生時代の同級生と思われる、おそらくお互いに恋思って”いた”存在だ(p.158で学生時代らしき風景がフラッシュバックすることから推測したが、もしかしたら「この世界の~」と同様に幼馴染なのかもしれない)。

    そもそも〈道〉は〈荘介〉のところに、彼の顔も知らずに親の酒席の約束で嫁いでくるのだが(この点も「この世界の~」に似ているといえば似ている)、どうやら〈竹林〉が近くに住んでいることを見越していたようだ、ということが発覚する。

    それは「けんか傘」と題されたエピソードで語られるのだが、その前半2ページは相合傘をしながら掛け合う、コマ割りの多いコミカルなシーンで描かれる。しかし後半、手に持つ傘の柄に〈竹林〉の名前が刻まれていることに気づき、冗談交じりで問い詰められるが、〈道〉の態度は一転する。

    ++++++++++++++++++
    荘介 …なあ道/お前 竹林賢二がこのへんに住んでんの本当は知ってたんじゃねえの?
    道  ……
    荘介 だからうちに来たんだろ? え?
    道  ……
    道  そうよ 《傘から外に出て雨に晒される道》
    荘介 み……
    道  《道は口をきっと結び、無言で荘介を眼差す》

    p.108「けんか傘」(《》内は引用者による付言)
    ++++++++++++++++++

    「この世界の~」でも感じたが、こうのが描くぼんやりとした女性が、突然に見せる内面――というか自我というべきか、抽象的にいえば「他者性」みたいなものが、おそろしくもたまらなく魅惑的なのだ。

    「〈道〉はぼんやりしているように見えるが、実は芯のある女なのだ」……こう解釈することは容易ではあるけれども、しかしほんとうにそうなのだろうか。そうすることで〈道〉という女を、理解という解釈の中に落ち着かせておいているだけなのではないか。もしかしたら、一生かけたとしてもわかることはないのではなかろうか――ごろっとした他者が可愛い顔して横にいる、そのとらえどころのなさ。

    こうの史代、おそろしい。

  • バイブル!バイブル!!!

  • ありかもしれないけど、
    真面目に働けよ
    と、思ってしまう私は余裕のない人間なのか?

  • 2017.4.22市立図書館
    こうの史代初期の作品。親同士のノリでなんとなく夫婦になってしまった甲斐性なしの夫(荘介どの)とノーテンキな妻(道)の日常の話が3-4頁で展開する。所詮他人、おりおりすれ違い本質的にはわかりあえないなりに歩みあう二人の関係がおもしろい。
    こうのさんの描く女性主人公はいつだって、ただの鈍くてやさしくてかわいい人、ではおわらない底知れぬ存在だなとあらためて思う。誰にもみせない自分だけの秘密の王国がある人だと感じる。その核のところさえ守れれば、あとのことにはこだわりがなく主張しない。人当たりはいいけれど、実は手強い。読み手が男性か女性かで、感想がかなり分かれる気がするし、同じ女性同士でも、道のことがわかる人とわからない人に分かれるだろう。
    荘介がそんな道にただただ甘え乗っかり利用するだけの男だと不幸な気がするが、この作品の中では荘介は知らず知らずに道にひかれ気遣いを見せるようになっていくからほっとする。

  • こうの史代の本で一番好きな作品。
    無職で女好きなダメ夫と、おっとりした妻の夫婦の話。しかしこのおっとり妻、夫にだまされてるように
    見せかけてただではおきない、ちょっと怖い妻である。
    作者が、後書きで書いているように
    あらゆる表現と展開に挑戦している。
    マンガならではの表現方法に脱帽する。

  • なんて人間臭い夫婦の物語なんだろうと驚いた。非現実的な話もあるけれどこうして道は続いてゆくのだなあと思う。みちがこの街を選んだ理由がとってもよかった

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著者プロフィール

こうの史代:1995年デビュー。広島市生まれ。代表作は「さんさん録」や、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞作「夕凪の街 桜の国」、アニメーション映画のヒットも記憶に新しい「この世界の片隅に」など。

「2022年 『ぴっぴら帳【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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