死者との誓い (二見文庫 ブ 1-11 ザ・ミステリ・コレクション)
- 二見書房 (2002年1月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (510ページ)
- / ISBN・EAN: 9784576020341
感想・レビュー・書評
-
「マット・スカダー」シリーズの11作目。
桐野夏生のエッセイ「白蛇教異端審問」の中の「天使の書評」により知った。
ニューヨークを舞台に探偵業で生きている、やや胡散臭いしかし人情味のある中年男がマット・スカダー。
安ホテル住まい、恋人が元高級娼婦、ニューヨークに詳しいとくれば「ああ、ハードボイルド!」と思うのだが、ご本人禁酒歴何年になろうという、肩すかしを食う。
ハードボイルドはウイスキーかバーボン片手でしょにと、それらのお酒好きな私は意外な思い。意外な思いはストーリーの展開にもあり、事件そのものを追う面白さと、マット・スカダーをめぐる三人の女性の心理の綾にあやされる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1993年発表のマット・スカダー・シリーズ第11作。これまでの重苦しい焦燥/無常感は薄まり、全体のムードはさらに明るくなっている。だが、読後に違和感しか残らなかったのは、初期作品では顕著だった詩情が失われていたためだろう。老成したとはいえ筆致は枯れており、物語自体にも精彩が無い。
前作「獣たちの墓」(1992)でも朧気に感じていたことだが、ブロックが本シリーズを書き続ける意義に疑問さえ抱いた。危なげない禁酒生活を送る中、伴侶を得ようと望む探偵。数多の苦境を乗り越え、ようやくスカダーが幸せを掴もうとしている情況は感慨深いが、人生の迷いや社会悪への憤りも同時に消え去っていると感じた。無論、探偵が須く孤独でなければならないという訳ではないが、社会の底辺で生きる人々への共鳴、理不尽な悪との対決へと至る流れは、孤影が色濃いからこそストレートに心に響いた。多くを語らずとも、暗鬱な事件を通してスカダーの過去と現在の有り様は鮮やかに浮かび上がった。
無力であることを自覚した男の為し得る最悪且つ最善の決着。その激情の中で迎える結末は、孤独な男/スカダーであればこそ得られたカタルシスだった。
かつてブロック自身が述懐しているように、主人公を破滅の一歩手前まで追い込んだ「八百万の死にざま」(1982)の壮絶な幕切れをもってシリーズは〝一応〟完結している。その余韻のままに回想へと繋ぐ秀作「聖なる酒場の挽歌」(1986)は別として、その後の作品についてはスカダーが主人公である必要性はない。ノワールへの傾斜を深めた、いわゆる「倒錯三部作」は、元アル中のヒーローという設定無しでも充分成立しただろう。
続編を重ねるほどに探偵の私生活を綴る量も増えているようだが、ロバート・B・パーカー/スペンサーの如き腑抜けた人生訓/ディスカッションを延々と読まされる苦痛と同じく、淀んだハードボイルドの残滓のみを私は読み取ってしまうのである。
「罪と罰」とどう向き合うか。その主題は変わらずとも、事件に私的情動が絡む要素は減り、第三者/傍観者としての立ち位置が固まり、物語の強度は明らかに弱まっている。変貌したシリーズを熟成した「大人のミステリ」として楽しめる心の広い読者であれば問題はないだろうが、世慣れた警句を挟みつつ「本格的な謎解き」にいそしむスカダーに、私は魅力を感じない。
初登場時は「リュウ・アーチャーへのニューヨークからの返答」というキャッチフレーズが相応しく、現代ハードボイルドの「手本」ともなる作品を送り続けていた。だが、一端は頂点を迎えた後、徐々にボルテージは下がっていく。かつて自らが生きた吹き溜まりを硝子越しに観察する冷徹さ。賢く生き、立ち振る舞うすべを学んだ狡猾さを、近作のスカダーには感じてしまう。恐らく次作を読むことで、その思いはさらに強まるだろう。 -
読んで損はなし。
-
殺された弁護士から物語が始まる。
被害者の過去からも色々と不可思議な点が浮かび上がるが。。
人物描写はさすがにすばらしい。
結末はどうなのかと疑問が残る。 -
マット・スカダーのシリーズで最高傑作との呼び声の高い一冊。そして、その声が納得の一冊。
ぎらぎらハードボイルドを期待する人には物足りないかもしれないけれど、硬質な切なさがずっと続いて、意図してないのに涙がにじんでくるような。
言葉遊びの面白さも、相変わらず。しかしこれ、訳すのが大変だよな。無理に日本語に訳さず、こういうやり方をとったのも仕方がないことだよな。 -
雰囲気は抑えた感じの内容だが殺人が人違いという結末は拍子抜けした、この作者の他のシリーズも一応読みたい
-
マッド・スカダーシリーズの新刊。前の3作が猟奇殺人を扱っていて派手だったけど、今回は地味。だが、その分内面的なものが濃厚になっている。上手い、とにかく文が上手い。そんでもって、構成がにくい。場面が変わって会話から始まるところが多いのだけど、一瞬誰と話しているのかわからない感じになるのだけど、そのわからなくなる困惑する微妙なさじ加減がぞくぞくするぐらい、上手い。
以前、何かで「ソリチュード」と「ロンリネス」、両方「孤独」と訳されるけれどそれは全く違う、っていうのを書いていたのを読んだことがある。これを読んでいる時、ずっとそれを思っていた。で、、ソリチュードを完全に書いてる作品だと思った。