- Amazon.co.jp ・本 (28ページ)
- / ISBN・EAN: 9784577018910
感想・レビュー・書評
-
ぬけだしたジョーカー(武井武雄絵本美術館)
1998年(オリジナルは1978年)
武井武雄・絵
こわせ たまみ・作
このシリーズの背表紙と裏表紙には、同じマスコット的キャラクターが描かれているのですが、彼がジョーカーだったのですね。
私の中でジョーカーといえば、何ものにもとらわれない、切り札的存在でありながらも、どこか怖いイメージを持っていたのですが、この絵本のタイトル通り、トランプから抜け出して、一輪車に乗ったまま、くるんくるんとのんびり外を移動する、ジョーカーを見ていると、ちょっとおとぼけ感のある、おじさんにしか見えなくて、なんだか和みます。
そして、町外れまで来たときには、その姿格好から、サーカス団の団長にピエロと間違われて、次の日から、そこのピエロになってしまうという、ユーモラスな展開には、やはり和むものがありましたが、ストーリー的に物足りなさもあるなと思っていたら・・
実は、こんなジョーカーにも頼りになる一面があり(まさに切り札的な)、この後、南の国から飛んできた燕たちが、象の子に何か話しかけているのを見かけたジョーカーが、それ以来、元気のない象の子の相談にのるのですが、それを解決するためのアイデアが、サーカスのパフォーマンスともリンクした素敵な内容に加えて、それに便乗するかのような思い切った行動力も素晴らしく、結果、絵本ならではの夢に溢れたファンタジーの世界へと変わり、終盤のジョーカーの台詞には、彼の優しさと哀愁がこもっているようで、切ない気持ちにさせられましたし、最後の、素敵なアイデアを再びユーモアの形に変換したオチも見事だと思いました。
それから本書においても、武井さんの絵は、芸術性の高さと、その表現の美しさが印象的でした。
いくつか挙げますと、ジョーカーだけ、他の絵と一線を画したような描き方には、彼は本来、トランプの中であるという別世界の人間(?)であることを表しているようでしたし、背景の美しさでは、緑がかった月夜に映えた影絵のような木々や、昼間から夜へとだんだんに移り変わってゆく空の色使いがそうでした。
そして、見返しには、天使とスペードを組み合わせた神秘的なデザインの中に、所々、配された花の存在感が印象強く、花については、表紙のクイーンも手にしていたり、扉絵のクイーンとキングが手を携えて持っていたりと(彼らを更に囲んでいるのも花)、武井さんの中でのこだわりがあるように思われましたし、花や子どもに共通した、希望や喜びを表しているのかもしれないなとも、感じさせられました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
つまりは武井武雄大好き。