水俣の赤い海

著者 :
  • フレーベル館
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  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784577033135

作品紹介・あらすじ

美しい水俣の海が水銀で汚されて…さかなに、貝に、ネコに、人間に異変がおきた!"水俣病"におかされながらも、自らのうけた障害をのりこえて精一杯生き続けようとする若者群を描くドキュメンタリー。

感想・レビュー・書評

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  • 哀悼★2012年

    ◆水俣病の名前が消えてもこの事件はずっと続く

    ◆水俣病は病気というより犯罪、殺人

    1956年5月1日の水俣病公式発見から50年目にあたる2006年11月11日に続いて、本年6月11日に反公害運動・水俣病告発を牽引した巨星が逝ってしまいました。

    6年前、公害研究と調査結果を直接市民に伝え全国の公害問題の報告を現場から聞く場として東京大学工学部82番教室で夜間開講された自主講座をまとめた『公害原論』(1971年)や 『谷中村から水俣・三里塚へ エコロジーの源流』(1991年)を表し生涯を反公害運動に捧げた宇井純が74歳で逝ってしまいましたが、今度はついに今年、岩波新書で『水俣病』(1972年)『水俣病は終っていない』(1985年)を書き、水俣三部作『水俣病にまなぶ旅』(1985年)『水俣が映す世界』(1989年)『水俣への回帰』(2007年)を始め水俣病と全面対決して常に患者の立場に立った診断と研究をされた原田正純医師が77歳で身罷ってしまいました。

    彼は来る日も来る日も治療と調査と抗議・啓蒙に没頭して忙殺されていたとばかり思っていたのですが、普段めったに足を向けない図書館の児童書室で偶然この本を見つけ手にした私は、なんだかとてもホッとするような心が清らかになるような気持ちになって、気がついたらこの本は私の涙でしとど濡れていました。

    本書は、水俣病がどう発病したのか、患者が病気とどうに向き合ってきたのかという実例が書かれたもので、乳児や子供の発病過程、兄弟や家族の支え合う姿は、涙や怒りや込み上げてくるものなしに読めませんでした。

    病気が知られてから原因を作った大企業へ声を上げることを躊躇したり、地元以外からの偏見を恐れて病気を隠したり、堂々と裁判に踏み切ったりなど、水俣病の当事者にも様々な考えと行動が起こってきて、まるで派閥のようなものが出来上がってしまう。その中で、方向性など問題にしないで連帯する意思を持つ若い患者を中心に、石川さゆりコンサートの企画で大人達が徐々に動かされたという逸話があったり。

    様々な水俣病関連の書籍を手にとってきましたが、これほど小学生にも読んで理解できるようにわかり易く書かれた水俣病の本は他にないと思いました。この本は、もともと1986年に初めて上梓されて好評を博したそうですが、長らく絶版で多くの関係者が復刊を待望していたそうですが、水俣病が歴史を刻んで50年目の節目に新版が出たというわけです。

  • (2016.10.27読了)(2016.10.26借入)
    この本が最初に刊行されたのは1986年5月です。出版から20年目に水俣病公式確認50年目に合わせて再刊されたものです。2016年は60年目当たるということで話題になっているのに便乗して「水俣病」関連の本を読んでいるところです。
    著者の原田さんは、医者で下記のような本も書いています。
    「水俣病」原田正純著、岩波新書、1972.11.22
    「水俣病は終っていない」原田正純著、岩波新書、1985.02.20
    この本は、子供向けに書かれたドキュメンタリーで、胎児性水俣病として生まれてきた子供たちがどのような状態なのか、どんなことを考え、どんなことをやりたがっているのかを記しています。症状は様々で、言葉を発することもできず、立って歩くこともできない人から見た目は正常だけれども手足がしびれるとか根気よく学習を続ける事が出来ない、というような人もいます。
    チッソから補償金を貰って、何もせずに暮らせればいいというわけではないのです。正常な体になって、普通の人と同じように仕事をしたり、恋をしたり、結婚したりして一生を終わりたいのです。社会の一員として役割を果たしながら普通に生きたいのです。
    最後の方に、大人の手を借りながら石川さゆりショーを実現させたり、自分たちが化学物質で中毒になったことから農薬を使わないで栽培した蜜柑を持って全国キャラバンをしたり、世界の環境問題への関心が高まるなか、水俣の環境汚染の実態を自分の身をもって訴える活動などが紹介されています。鍼灸師として、自立する人もいます。

    【目次】
    まえがき
    三毛ネコが海にとんだ
    白いおばけ
    大学病院
    ほほえむおとめ
    ある日、歌声が消えて
    妹と遊びたい
    へその緒のつながり
    学校へ行きたい!
    国際環境会議
    たから子よ
    月の浦のジャンヌ・ダルク
    心の通訳
    車いすの青春
    片思いに終わった
    はいけい、かんきょうちょうちょうかんどの
    石川さゆりショー
    水俣を伝える旅
    甘夏ミカンのキャラバン
    はぐれ雲工房

    ●悪い予感(20頁)
    浜では、岩についているカキがふたを開けて、くさっていやなにおいを出すようになったのに、このへんのおばさんたちはおどろきました。
    ●胎児性水俣病(62頁)
    しのぶたちのような胎児性水俣病の子どもたちは、はっきりしているだけで、四十人にのぼっています。
    ●終わりに(84頁)
    世界中の人たちにうったえます。このような苦労は、私たちだけで終わりにしてください。
    ●はたらけない(153頁)
    はたらけないのに、生きてゆかなくてはならないつらさは、はたらいてしごとしてゆくときの苦しみより、ずっと苦しいんだよ。
    ●相手の立場に立つ(191頁)
    漁民の立場に立ってみたら、毒を含んだ危険な物質をあのように、無責任に海に捨てることはできないはずです。
    水銀を食べさせられた住民の立場に立ってみたら、将来の健康の不安や、魚が安全かどうかの不安を持つのが当然だったし、それに対する対策が必要だったのです。
    発病した患者の立場に立つなら、できるだけ早く、何かしなければならなかったはずです。

    ☆関連図書(既読)
    「水俣病」原田正純著、岩波新書、1972.11.22
    「水俣病は終っていない」原田正純著、岩波新書、1985.02.20
    「証言水俣病」栗原彬編、岩波新書、2000.02.18
    「水俣病の科学 増補版」西村肇・岡本達明著、日本評論社、2006.07.15
    「新装版苦海浄土」石牟礼道子著、講談社文庫、2004.07.15
    「天の魚 続・苦海浄土」石牟礼道子著、講談社文庫、1980.04.15
    「苦海浄土 池澤夏樹=個人編集世界文学全集」石牟礼道子著、河出書房新社、2011.01.30
    「石牟礼道子『苦海浄土』」若松英輔著、NHK出版、2016.09.01
    (2016年10月28日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    美しい水俣の海が水銀で汚されて…さかなに、貝に、ネコに、人間に異変がおきた!“水俣病”におかされながらも、自らのうけた障害をのりこえて精一杯生き続けようとする若者群を描くドキュメンタリー。

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著者プロフィール

1934年鹿児島県生まれ。熊本大学助教授を経て1999年より熊本学園大学教授。胎児生水俣病、三池一酸化炭素中毒、カネミ油症など社会医学的研究を行う。また世界各地の水銀汚染や砒素中毒を調査。著書に『水俣病』、『水俣が映す世界』、『水俣学研究序説』ほか多数。日本精神神経学会賞、大佛次郎賞、アジア太平洋環境賞など受賞。

「2009年 『宝子たち 胎児性水俣病に学んだ50年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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