異形の王権 (イメージ・リーディング叢書)

著者 :
  • 平凡社
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レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582284546

作品紹介・あらすじ

覆面、蓑笠、撮棒、飛礫。柿色の衣、茶吉尼の修法、呪いと調伏。歴史の大転換期に跳梁する「異類異形」の者たち、異形の天皇。

感想・レビュー・書評

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  • 中世の異類異形の者たちについて書かれた本。おおよそ鎌倉時代から室町時代にかけて、様々な絵巻物に書かれた普通でない服装をした人々、他とは違う形の人々、変わった物を持っている人々、つまり「異形」の人々のことを扱っている。前半は絵巻物からの抜粋が多くて、具体的に絵を見ながら話が進むのでなかなか楽しい。こうした異形の人たちとして扱われているのは、摺衣、婆娑羅、覆面、女性の白布の被物といった服装。鹿杖、扇、蓑笠といった持ち物。子ども(大人で童形のものを含む)、様々な職能民、一人旅の女性。そして飛礫という行為。

    こうした何らかの点で普通とは違う人々は、当たり前だが社会において普通とは異なる役割を担っている。それは非日常を担うものであって、中世においては呪術的なもの、聖なるもの、霊的なものなどと結びついて考えられていた。服装で言えば、現在の我々でも日常とは違う特別な場には特別な服装をする。そしてそれは呪術的、聖的など社会外の概念に関わっている。例えば冠婚葬祭での礼服、祭りの衣装、等々。だが中世のこうした異類異形の人々について語るときポイントとなるのは、これらの人々は後になって卑賤視され、差別の対象となるということである。

    この著者がいつも語っていることだが、転換点が南北朝時代にある。確かに異類異形とは鎌倉後期以降、徐々に否定的差別的な意味合いを帯びてくる。しかし、彼らはまだ卑賤視されていない。たとえば、寺社への参拝や琵琶法師の平家を聞くときなど、特異な場に出るときにした覆面を異形とも述べられている。ただ権力機関によりこうした異形への禁制が発せられており、これは異形を嫌悪する空気を示している。異類異形が差別的な悪口となるのは、南北朝動乱を超えた室町時代なのである(p.17-28)。童や牛飼、鵜飼など童形の人々が卑賤視されているのも同じタイミングである(p.51f)。

    となると、南北朝時代のこの転換点は何に拠ってもたらされているのか、という問いとなるだろう。例えばそれは(飛礫について述べられたものだが)「日本列島主要部を統治してきた権威の構造の大きな変動、それを契機として顕著となってきた、安定的・自治的な都市と村落との文化、貨幣流通の本格的な社会への浸透、文字の読み書き、計数能力等の文明的な諸要素の、広範囲な民衆への浸透」(p.151)などが挙げられる。

    本書が最後で論じるのが、以上を背景とした後醍醐天皇、「異形の王」だ。特に本書では文観という僧の役割が大きく取り上げられている。この西大寺系の真言僧は、東寺一長者、そして醍醐寺座主を兼ねるまでに出世した。敵対する高野山宗徒などから悪口も聞こえるこの僧は、武勇も好んだようであり、暴力手段を率いることもあったようだ。文観と異種異形の者たちとのつながりはいまひとつ読み解けないのだが(勧進上人として関わりを持ったのかと記されている(p.176))、いままでの政治体制を転換して新たな天皇親政を構築しようとした後醍醐天皇にとっては、既存秩序に属さない力とのつながりは役に立った。後醍醐天皇自体の異形さを表すのに真言密教の祈祷がよく挙げられるが、これは文観の影響を指摘されている(p.184)。後醍醐天皇は鎌倉幕府を倒幕し、権力を朝廷に取り戻すために、使えるものは何でも使ったという感がある。
    「後醍醐は文観を通じて「異類異形」といわれた「悪党」、「職人」的武士から非人までをその軍事力として動員し、内裏にまでこの人々が出入りする事態を現出させることによって、この風潮を都にひろげ、それまでの服制の秩序を大混乱に陥れた。」(p.178)

    こうした異種異形の人々を背景とした後醍醐天皇の覇権は数年で終わり、それ以降は南北朝時代という形で混乱の世が続く。おそらく異形の王の没落が異種異形全体の没落を招いた(p.197-200)。南朝の断絶を目指し、異種異形の力が再び噴き出すのを抑えようとした室町幕府(足利義教あたりか)の影響により、異種異形の人々は卑賤視されるようになっていったのだろうか。

  • 穢多非人・女性・童子などの異形に関しては網野氏の別の著書で読んできたが、「扇の骨の間から見る」は、本書で初めて目にして非常に面白かった。
    扇は外から悪霊―穢の及ぶのを防ぐとともに、内から発するそれをもさえぎる道具となりえたのであり、そうした機能を持つ扇で面を隠すことによって、人は一時的にせよ、別世界の人間になりえたのではなかろうか。
    という解説が興味深い。
    網野氏の「南北朝が日本の歴史のターニングポイント」という主張がじわりじわりと理解出来てくる。古代から中世にかけての日本はまさに別世界のよう。やっぱり面白い。

  • 史学から絵画資料について読み解きを行ったことが出色か。王権そのものについては後半の後醍醐天皇の特殊性について触れるのが主だが、序盤から中盤に収録された論文中の童・放免について興味深い。

  • 数本の論文が、互いに相関する形で収められている。後醍醐天皇の姿やその影響に関する論は、あまりに斬新で大胆で目を見張る。

  • 非人とか検非違使とかの仕事があるの知らなかった。婆娑羅から歌舞伎者への発展とか、南北朝の頃に文化の発展があったって視点が面白かった。後醍醐天皇を主人公にした漫画出てこないかな

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    書斎の本棚から百冊(佐藤優選)91
    歴史についての知識で、未来への指針を探る
    後醍醐天皇に焦点をあて、復古主義的モティーフで自己の権力基盤を強化したことが、逆に天皇の政治・軍事的権威基盤を弱体化することにつながったという歴史の弁証法を描いている。

  • 「洛中洛外図屏風」に描かれる人物や風景がこんなにおもしろいものだとは。描かれてている人・もの・ことを読み解くには、すごくたくさんの知識があるといいのだろうけど、悲しいかなもう間にあわないので、今の自分が感じとれる精いっぱいのことを楽しもうと思います。

  • 歴史の研究本なので読みにくいところがたくさんありました。
    しかし服装や石投げの話などは興味深く読みました。

    最初は自由で崇拝されていた非人がだんだんとその意味を失っていくところは面白いなあと思いました。今の価値観念が実は長い期間に形づくられているものなのだなあ。そのために地域など共通のものはあるけれども、また特性もでてくるものなのだと思いました。

    後醍醐天皇の建武の新政の話は他ですでに読んでいたのと、説明が読みにくかったため、一番期待していたのに、あまり真剣によめなかった。(実はこれがはじめに書かれた本かもしれませんが)

  • HONZの「ノンフィクションとりあえずこの10冊」で、「日本という国について初めて真剣に考えた」と紹介されていたのを見て借りたんですが、
    専門的でちょっとついていけませんでした。
    意味が分からないどころか、そもそも読めない単語がかなりあって!
    私が不勉強なせいもあるとおもうんですが。高校の時世界史専攻だったし。

    それでも1章は絵に対する説明が多いので、専門的なことは理解できないまでも、「どういう人達がいて、どういう格好をしていて、それがどういう意味であったと考えられるか」くらいはわかりました。
    そして、これだけでも結構、日本に対する印象って変わった気がします。
    今まで漠然と抱いていた「昔の日本」のイメージとは全然違う。
    職業別(?)で格好が細かく違ってる、ていうこと自体驚きでした。
    確かに今だって巫女さんやお坊さんは決まった衣装があるし、検非違使庁が云々は警察の制服みたいなものかもしれないけど、牛飼いが「おとなになっても子供の格好をしなきゃならなかった」なんて話は今もあるかなって考えてもちょっと思いつかない。というか今って大人と子供で衣装の違いってないですしね。理由を聞いてみて「へえ!」て感じでした。

    そして私はもののけ姫が好きなので
    「そうか!石火矢衆は非人だったのか!」
    「ジコ坊は聖?いや、高い下駄履いてるからこの『何ものともわからぬ人物』かなあ。いやでもこの人達の下駄2枚歯(?)だしなあ…」
    「鹿は神聖な動物だったのかー。だからシシ神さまは鹿っぽいんかな」
    と、ちょっとズレたところで楽しかったです。
    もののけ姫ってそういうとこちゃんとしてたんですね。
    これ読んだ後だとまた見方が変わって面白そうです。

    3章、後醍醐天皇については完全に知識不足で何を言ってるのかさっぱりだったので(南北朝の内乱て名前しか覚えてない…)、
    ちゃんと勉強したいとおもいました。
    天皇の歴史とか、面白い本があったら一回読んでおきたいなあ。

  • そもそも興味ない日本史で、しかもどのへんの時代かよく覚えてない南北朝時代の風俗やらなんやらをどうにかしている本。
    一見さんお断り状態で使われる専門用語は髪型なのか、服のジャンルなのか、役職なのかさえわからないほどの突き放しっぷりで、かなり清々しくて気持ちいい。
    専門の本読んだなーってゆう気持ちになれてよかった。

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著者プロフィール

1928年山梨県生まれ。東京大学文学部卒業。都立北園孝行教諭、名古屋大学文学部助教授、神奈川大学短期大学部教授、同大学経済学部特任教授を歴任。専門は日本中世史、日本海民史。著書に『日本中世の非農業民と天皇』『無縁・公界・楽』『異形の王権』『蒙古襲来』『日本の歴史をよみなおす』『日本社会の歴史(上・中・下)』『「日本」とは何か』『歴史と出会う』『海民と日本社会』ほか多数。2004年逝去。

「2018年 『歴史としての戦後史学 ある歴史家の証言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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