カザフ遊牧民の移動 -アルタイ山脈からトルコへ 1934-1953

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (445ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582441185

作品紹介・あらすじ

国境線をめぐる争いが続く大陸。国家間の激動の渦に飲みこまれ、難民となって移動を強いられる遊牧民たち。彼らの苦難の道のりをたどり、遊牧という生活様式の消滅を描く、著者畢生の大作。

感想・レビュー・書評

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  • ウイグル族ジェノサイドにカザフ族への弾圧も含まれており、その悲劇の源流を確認したく手に取ったが、20世紀の激動の世界史の余波が彼らを直撃していたことに驚く。

    ソ連邦による弾圧、日中戦争下での国民党による粛清、紅軍によるチベット侵攻、英国領インド政府とカシミール政府からの冷遇、印パ分離独立の動乱、冷戦時のトルコ… 特にトルコが朝鮮戦争に派兵したとかブルガリア難民についてはこの本で初めて知った。

    現在進行中の問題は、「過去の出来事」として習った歴史と地続きであり、過去は全然終わってない。知った気になってた世界史は、欧米目線の情報で表層的だったことを痛感。日本や欧米から「その他」とされてきた民族や場所からの視点で歴史や世界を見れるようになりたいと思わされた。

  • 2万キロ、20年にわたるカザフ遊牧民の移動。社会人類学を専門とする著者が、資料と当事者からの聞書きを交えて綴る。
    ーー本書は、カザフ遊牧民の苦難に満ちた長距離の移動を軸としながら、1930年代から50年代にかけてのユーラシアの一角での同時代史をえがくこころみでもある。ーー著者あとがきより
    戦争・革命・冷戦といった大きな歴史の変動とリンクしてしまう彼らの運命に、「ここでそうなるか!」といちいち息を呑みながら読み進んだ本だった。最初のほうは東トルキスタンの独立が絡むことに気づかず、少々理解不足だったと思う。中盤は戦闘と移動の困難の連続で冒険物語のよう。
    1996年に取材対象の1人が巡礼先のサウジで、30年前に青海省主席として武力を奮った馬歩芳に行き合うくだりまで来ると感慨深いものがあった。
    あとがきにおまけがあって、1993年の取材時に「トルコに骨を埋める」と語った取材対象の老人は、2003年に新生カザフスタンへ集団移住していったのだそうだ。民族主義の現代世界を象徴する出来事のように思える。(トルコへ受け入れられたのもトルコ民族主義ゆえなのだけれど)。

    本書は同時代史をえがく試みと言うことだが、あらゆる事柄が現在まで続く問題となっていて、また歴史のおさらいをしたいポイントが増えたのだった。
    以下は個人的な興味ポイント
    ※蒙古自治政府
    ※新疆ウイグル政府
    ※チベット軍
    ※カシミール政府と英領インド政府
    ※アルバニアに出自を持つオスマン貴族キョプリュリュ(めずらしく世襲で大宰相を務めた)

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著者プロフィール

国立民族学博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。専門は社会人類学。
主な著書に『遊牧の世界―トルコ系遊牧民ユルックの民族誌から 上・下』(中公新書、1983)、『世界民族問題事典』(共編、平凡社、1995)、『カザフ遊牧民の移動――アルタイ山脈からトルコへ 1934-1953』(平凡社、2011)などがある。

「2020年 『中央アジアの歴史と現在 草原の叡智』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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