寺田寅彦 科学者とあたま (STANDARD BOOKS)

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582531510

感想・レビュー・書評

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  • ──あらゆる文明の利器は人間の便利を目的として作られたものらしい。しかし便利と幸福とは必ずしも同義ではない。

    わたしもそう思います。世の中は便利な製品が溢れ生活に彩りを添えゆとりを与えてくれます。でもそのゆとりはホンモノですか?何だか疲れていませんか?忙しく追い立てられてませんか?不安になっていませんか?今あなたは幸福ですか?

    ──将来いつかは文明の利器が便利よりはむしろ人類の精神的幸福を第一の目的として発明改良される時機が到着する事を望み且つ信ずる。

    その時機は今なのかもしれません。

    ──もしこの私の空想が到底実現される見込がないという事にきまれば私は失望する。

    わたしたちは寅彦を失望させてないでしょうか。

    ──同時に人類は永遠に幸福の期待を棄てて再びよぎる事なき門をくぐる事になる。

    こんな未来は誰も望まないでしょう。わたしたちを豊かなな生活に導いてくれ、安全を与えてくれる文明の利器には二面性があること、時にわたしたちの生命を脅かし、牙をむくこともあることに気づきはじめました。皆が幸せになることを望んでいるのに、わたしたちの世界は今も不均衡で危うくて。
    文明の利器らは現代ももまだ便利なだけでしょうか?いいえ、そんなことはないと信じたいと思います。美しい平和な世の中になるには精神的な幸福が大切だってことに。みんな動きはじめてると思います。

  • 寺田寅彦の文章を読むたび、感覚の鋭さにしびれてしまう。
    本職は科学者ですが、バイオリンや絵をたしなむ芸術家でもあり、今でも人々を刺激して止まない随筆家でもある著者。
    学問の垣根を越えて、知の海を自由自在に泳ぎまわる姿を想起させられます。

    特にうなってしまったのは「物売りの声」。
    当時はすでになくなりつつあった物売りの声を記録・保存してアーカイブしたらいいんじゃないか、と何気なく書いていますが、これって1930年代の日本ではかなり先進的な考えなのでは…。

    どんなことにも興味をもって観察・考察している様子が伝わってきました。
    「おもしろがること」は著者の原動力でもあり、魅力でもあるのだと思います。

  • 「科学の歴史はある意味では錯覚と失策の歴史である。偉大なる迂愚者うぐしゃの頭の悪い能率の悪い仕事の歴史である。
     頭のいい人は批評家に適するが行為の人にはなりにくい。すべての行為には危険が伴なうからである。けがを恐れる人は大工にはなれない。失敗をこわがる人は科学者にはなれない。」

    「科学者とあたま」を読んでふと道垣内先生の法律家の在り方を述べた話を思い出しました。「歴史上、世の中を変えた法律家はいないので、たかが法学と突き放すぐらいで良いと思います。世の中を変えているのは、哲学・政治・経済・科学技術ですね。せいぜい、そのような哲学者たちを邪魔しない法律家になってほしいです。法律というのは、どちらかというと社会の変化を邪魔しがちですからね。規制をすることにより、正常な発展が阻害される例はあまたあります。もちろん、あまり無茶なことが起きると困るので、『ここから先は駄目』という遠巻きの規制は必要ですが、必要以上の規制にならないように、自由度の高い社会にするという心懸けが必要でしょう。
     では、法律学は人生を賭ける価値がないものかというと、そんなことはありません。社会にとって不可欠な存在であり、その操作に熟達している人はいつの社会でも必要な存在です。たかが法学、されど法学です。」

  • 物理学者、随筆家の寺田寅彦の入門編という位置付けの本。
    自分の中では外山滋比古の本を読んでいるような感覚になりました。あ、褒めてます。

    この本はなぜこの項目が取り上げられたのか背景などは存じませんが、確かに今でも通用する箴言はありましたが、そこまで感動・感銘を受ける箇所はなかったです。

    「科学の中等教科書は往々にしてそれ自身の本来の目的を裏切って、被教育者の中に芽生えつつある科学者の胚芽を殺す場合がありはしないかと思われる。」「科学教育は・・・(中略)・・・法律の条文を暗記させるように教え込むべきではなくて、自然の不思議への憧憬を吹き込む事が第一義ではないか。」
    教科書や授業はつまんないこと多いですしね。

    「津波と人間」、「読書の今昔」は琴線に触れました。

  • 青空文庫にほとんどあるのだけど、それとは別に立派な本になっていると嬉しく思う。
    【収録作品】
    ・線香花火
    ・科学者とあたま
    ・宇宙線
    ・「手首」の問題
    ・化物の進化

    ・烏瓜の花と蛾
    ・津浪と人間
    ・読書の今昔

    ・団栗
    ・物売りの声
    ・涼味数題
    ・浅草紙

    ・自画像
    ・蓄音機

    「烏瓜~」の蛾を怖がる花嫁って夏子さんのことなんだろうな。

  • この人の興味の幅には感心する。
    様々な分野の人間から偉大な人物として慕われていることに納得できる。
    文章にも嫌みが無く、少し古めかしい部分を差し引けば、とても読みやすい。ちょこちょこと顔を出すユーモアもいい。
    書物から他の商品へ繋がる「読書の今昔」、涼しさから自由へ広がる「涼味数題」・・・、いつも身近な事柄から事象の起因へと広がっていく。
    〈思考する〉とはこういうことなのだなあ。

  • すごい。先見の明。
    後半になるにつれて好み。「自画像」などは 人工知能や種々のセンシング技術にもつながる未だ新鮮な未来の話だ。

  • 冒頭の線香花火に科学者故の文章力を感じる。中谷宇吉郎の文章に、寺田寅彦との線香花火の実験についての記載が出てくることが興味深い。また、岡潔が団栗を絶賛していた。

  • 岡潔もすごいが、寺田寅彦の随筆も本当にすごいと思っていつも読んでいて感動する。

    賢さが研究にとっては必ずしもプラスではないこと。スイスイ先に進めることが結果に繋がるわけではなく、小さなことに躓けるかどうか。発見とは、そこから始まるのだと言う。

    この人はそれを正に体現しているからすごい。

    『西洋の学者の堀り散らした跡へ遥々後ればせに鉱石の欠けらを捜しに行くもいいが、われわれの脚元に埋もれている宝をも忘れてはならないと思う。しかしそれを掘り出すには人から笑われ狂人扱いにされる事を覚悟するだけの勇気が入用である。』

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著者プロフィール

1878–1935
東京に生まれ、高知県にて育つ。
東京帝国大学物理学科卒業。同大学教授を務め、理化学研究所の研究員としても活躍する。
「どんぐり」に登場する夏子と1897年に結婚。
物理学の研究者でありながら、随筆や俳句に秀でた文学者でもあり、「枯れ菊の影」「ラジオ雑感」など多くの名筆を残している。

「2021年 『どんぐり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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