寺田寅彦 科学者とあたま (STANDARD BOOKS)

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  • 平凡社
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レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582531510

感想・レビュー・書評

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  • ──あらゆる文明の利器は人間の便利を目的として作られたものらしい。しかし便利と幸福とは必ずしも同義ではない。

    わたしもそう思います。世の中は便利な製品が溢れ生活に彩りを添えゆとりを与えてくれます。でもそのゆとりはホンモノですか?何だか疲れていませんか?忙しく追い立てられてませんか?不安になっていませんか?今あなたは幸福ですか?

    ──将来いつかは文明の利器が便利よりはむしろ人類の精神的幸福を第一の目的として発明改良される時機が到着する事を望み且つ信ずる。

    その時機は今なのかもしれません。

    ──もしこの私の空想が到底実現される見込がないという事にきまれば私は失望する。

    わたしたちは寅彦を失望させてないでしょうか。

    ──同時に人類は永遠に幸福の期待を棄てて再びよぎる事なき門をくぐる事になる。

    こんな未来は誰も望まないでしょう。わたしたちを豊かなな生活に導いてくれ、安全を与えてくれる文明の利器には二面性があること、時にわたしたちの生命を脅かし、牙をむくこともあることに気づきはじめました。皆が幸せになることを望んでいるのに、わたしたちの世界は今も不均衡で危うくて。
    文明の利器らは現代ももまだ便利なだけでしょうか?いいえ、そんなことはないと信じたいと思います。美しい平和な世の中になるには精神的な幸福が大切だってことに。みんな動きはじめてると思います。

  • 寺田寅彦の文章を読むたび、感覚の鋭さにしびれてしまう。
    本職は科学者ですが、バイオリンや絵をたしなむ芸術家でもあり、今でも人々を刺激して止まない随筆家でもある著者。
    学問の垣根を越えて、知の海を自由自在に泳ぎまわる姿を想起させられます。

    特にうなってしまったのは「物売りの声」。
    当時はすでになくなりつつあった物売りの声を記録・保存してアーカイブしたらいいんじゃないか、と何気なく書いていますが、これって1930年代の日本ではかなり先進的な考えなのでは…。

    どんなことにも興味をもって観察・考察している様子が伝わってきました。
    「おもしろがること」は著者の原動力でもあり、魅力でもあるのだと思います。

  • 「科学の歴史はある意味では錯覚と失策の歴史である。偉大なる迂愚者うぐしゃの頭の悪い能率の悪い仕事の歴史である。
     頭のいい人は批評家に適するが行為の人にはなりにくい。すべての行為には危険が伴なうからである。けがを恐れる人は大工にはなれない。失敗をこわがる人は科学者にはなれない。」

    「科学者とあたま」を読んでふと道垣内先生の法律家の在り方を述べた話を思い出しました。「歴史上、世の中を変えた法律家はいないので、たかが法学と突き放すぐらいで良いと思います。世の中を変えているのは、哲学・政治・経済・科学技術ですね。せいぜい、そのような哲学者たちを邪魔しない法律家になってほしいです。法律というのは、どちらかというと社会の変化を邪魔しがちですからね。規制をすることにより、正常な発展が阻害される例はあまたあります。もちろん、あまり無茶なことが起きると困るので、『ここから先は駄目』という遠巻きの規制は必要ですが、必要以上の規制にならないように、自由度の高い社会にするという心懸けが必要でしょう。
     では、法律学は人生を賭ける価値がないものかというと、そんなことはありません。社会にとって不可欠な存在であり、その操作に熟達している人はいつの社会でも必要な存在です。たかが法学、されど法学です。」

  • この人の興味の幅には感心する。
    様々な分野の人間から偉大な人物として慕われていることに納得できる。
    文章にも嫌みが無く、少し古めかしい部分を差し引けば、とても読みやすい。ちょこちょこと顔を出すユーモアもいい。
    書物から他の商品へ繋がる「読書の今昔」、涼しさから自由へ広がる「涼味数題」・・・、いつも身近な事柄から事象の起因へと広がっていく。
    〈思考する〉とはこういうことなのだなあ。

  • すごい。先見の明。
    後半になるにつれて好み。「自画像」などは 人工知能や種々のセンシング技術にもつながる未だ新鮮な未来の話だ。

  • 冒頭の線香花火に科学者故の文章力を感じる。中谷宇吉郎の文章に、寺田寅彦との線香花火の実験についての記載が出てくることが興味深い。また、岡潔が団栗を絶賛していた。

  • 岡潔もすごいが、寺田寅彦の随筆も本当にすごいと思っていつも読んでいて感動する。

    賢さが研究にとっては必ずしもプラスではないこと。スイスイ先に進めることが結果に繋がるわけではなく、小さなことに躓けるかどうか。発見とは、そこから始まるのだと言う。

    この人はそれを正に体現しているからすごい。

    『西洋の学者の堀り散らした跡へ遥々後ればせに鉱石の欠けらを捜しに行くもいいが、われわれの脚元に埋もれている宝をも忘れてはならないと思う。しかしそれを掘り出すには人から笑われ狂人扱いにされる事を覚悟するだけの勇気が入用である。』

  • 私が私淑している寺田寅彦の本。
    この人の頭の中を一度覗いてみたい。この人が見てる景色を見てみたい。きっと全く違う世界が広がっているのだろうと思う。知識の量によって入ってくる情報の量が変わると聞くので、普通の人が何気なく見過ごしている日常の中でも寺田寅彦ほど博学な人は些細な物事から多くの発見をし、いろんな考えや思いが巡るのだろう。

    特に「浅草紙」は私の大好きな話。1枚のありふれた浅草紙からエマーソンのシェークスピア論やラスキンの剽窃問題論が思い起こされ、人も紙も作りが同じであることに彼は気がつく。
    「価値のある独創は他人に似ないという事ではない。」「最大の天才は最も負債の多い人である。」「どんな偉大な作家の傑作でも――むしろそういう人の作ほど豊富な文献上の材料が混入しているのは当然な事であった。」

    全ての人はあらゆる他人から影響を受けて、その切れ端で自分が作られている。同じように浅草紙もいろんな家庭のゴミ箱から集められた古紙やぼろきれで作られている。
    浅草紙のような荒い紙は原料となる古紙やぼろきれがよくこなされずに残っているが、原料をよく精選しよくこなしよく磨けば、きめ細やかで美しい上質な紙となる。
    人間も、沢山の人からいろんな部分を貰い受け、不浄なものを取り除いてよくこなされていてはじめて“上質”な人と言えるのだろう。
    他人の意見を切り貼りしただけじゃない、それをもっと細かくして他と混ぜ合わせてよくこなしてようやく自分の意見が出来上がるのだろうかと思った。

  • どの話も面白かった。

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著者プロフィール

1878年、東京生まれ。物理学者、随筆家、俳人。文学にも造詣が深く、多くの随筆を残した。おもな著作に『寺田寅彦全集 科学篇』『寺田寅彦全集 文学篇』ほか。1935年没。

「2017年 『こぽこぽ、珈琲 おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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