透明なる社会 (イタリア現代思想)

  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582703443

作品紹介・あらすじ

来たるべき情報技術社会を透徹した思考で捉え、世界の多元化、脱現実化、コミュニケーションの多チャンネル化のなかで、「透明なる社会」の到来という近代啓蒙思想の「強い」理想を、その形而上学的な呪縛や限界から解き放とうとする試み。今日における哲学の使命に賭ける、ヴァッティモ一流の「弱い思考」に貫かれた好著。

感想・レビュー・書評

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  • 脱神話化それ自体が神話だと気付いた時がポストモダン。そういう時代において、脱現実化社会=解釈のみが存する社会が生じ、その社会においてはベンヤミン的なショックを特徴とする美の経験が重要な役割を持つ。その上で複数の解釈を許容するために、その脱現実化を進めていくということが重要。

    わざわざ「現実」を外部におこうという発想はどうなのか。

  • 不透明な世の中に投じられた、心の曇りを晴らす清々しい一石。

    著者は、イタリアの哲学者ジャンニ・ヴァッティモ。率直に言って、哲学にあかるくない私にとっては、難しい本であり、当然に赤ペンとノートを持って格闘する羽目になった。随分久しぶりの経験だ。さらに告白するなら、タイトルと装丁で何となく買った。結果的に後悔せずに済んだのは幸運だったかもしれない。たぶん、苦労して読んだ達成感のせいで、満足度が高い。

    この本の初版が書かれたのは1989年であり、本書は2000年に第三版として新たに最終章を付け加えた増補新版として刊行されたものの翻訳である。

    扱われているテーマは、メディア社会ともいわれる現代社会、ポストモダンの世の中を、どういう方法で、どう考えるのか、何が起こっていて、私たちはどのような事を考え、なにをなすべきなのか、ということについての、議論の土台を探る試み、と言えば良いだろうか。

    初版から20年、増補新版から10年が経過しており、ここ10年のネットをめぐる環境やネットで提供されるツール、コンテンツの変貌ぶりを考えると、現在私たちがメディアという言葉でイメージするものと、本書が書かれた時点でのメディアなるものは、かなり変わってしまっているし、それに伴って、社会も(正直どうかはわからないが)姿を変えてきている、と考えた方が良さそうだ。

    しかしながら、考えるきっかけとして捉えた場合、私たちがつい先日までおかれており、まだ記憶に新しい状況においてなされた本書の論考は、土台として用いる(批判的に、用いないとするにせよ)には、丁度良い頃合いとも言えるのではないだろうか。

    洪水のように情報が流され、情報が様々な切り口、態度から雑多に解釈され、おびただしい主義主張が叫ばれる世の中になり、私たちは、よって立つところを見失っている。そういう不安なゆらぎの中で、古き良き時代へのノスタルジーを断ち切り、それでいて、無為にではなく、ポジティブにこの社会と付き合っていくのは、なかなか大変なことだ。

    何だかんだ言っても、私たちは「正しいもの」が好きだ。しかし一方で、確固たる「正しいもの」を信じられる時代にはもう戻れないのではないか、ということも、心のどこかで実は理解しているようにも感じる。ごった煮の世の中に疲れると、つい、安心な世界に戻りたいという気持ちが生まれ、無意識に「よって立つところ」を探してしまうことがある。そんな時に「むしろ、あらゆる解放のチャンスをそこから掴みとるべき一つの出来ことであるという考え方」を示してくれるヴァッティモのメッセージは、力強く心に響く。

    前に進んでいるのかどうかはわからない。前進するべきなのかどうかも分からない。そういう状況を直視し、日々何かに取り組んでいくこと。その中に、私はどんな可能性を見出すことができるのだろうか。本書を振り返りつつ、ゆっくり考えていきたい。

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著者プロフィール

(Gianni Vattimo, 1936-)
イタリアの哲学者・政治家.主な著作はIl soggetto e la maschera (1974), Le avventure della differenza (1980), La fine della modernita (1985), La societa trasparente (1989), Vocazione e responsabilita del filosofo, a cura di F. D’Agostini (2000):『哲学者の使命と責任』(小局刊),Hermaneutic Communism, con Santiago Zabala (2011)など

「2012年 『弱い思考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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