アイヌの昔話 (平凡社ライブラリー)

著者 :
  • 平凡社
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本棚登録 : 229
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582760200

作品紹介・あらすじ

アイヌの人々の間で口伝えに語り継がれてきたウゥェペケレ(昔話)、20話。悪い根性を懲らす痛快な、よい生活の作法を教える温かな話の中に、人間と自然と神とが自在に交流し共生する世界のあり方を告げる。

感想・レビュー・書評

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  • ストーリーテリングのテキストとして中古本で購入したもの。
    これがあまりにも面白くて、寝る前に読むこと何十日間にも及んでしまった。
    これまで読んできたどの昔話とも趣が違う。
    話しがすべて、一人称で進むのだ。そしてお話の最後には必ず何がしかの教訓が語られている。

    蝦夷ヶ島と呼ばれていた地を「北海道」と政府が名づけたのは明治二年。
    そこから、開拓と称してどんどん内地からひとを送り込む。
    それというのも、ロシアとの国境問題がたえず勃発していたからなのだが、元から北海道(正確には本州北部と北方四島、樺太まで)に住んでいたアイヌのひとたちは、ここで悲惨な運命を迎えることになる。
    明治の中頃には居留地を与えられ(嬉しくなんかないよねぇ・・)病院と学校も建てられたが、それは日本語を覚える場だった。ロシア人に、ここには日本人しか住んでないというアピールが必要だったからね。
    文字を持たないアイヌ文化だったことが、ここで幸いした。
    学校で日本語を学んだ子たちは、家に帰ってからはランプの灯りも乏しい家の中で、祖父母たちのアイヌ語による語りを聞いて育ったのだ。
    後年、いわばバイリンガルとなったアイヌの人たちが、記憶の中の昔話を日本語に訳すことで、この本が出来たというわけだ。いやぁ、感謝します。アイヌのひとたち、ありがとう。

    それにしても、どのお話もどこか懐かしいのは、何故だろう。
    身の回りのものを大切に扱いなさいとか、年長者には敬意をはらいなさいとか、小さな頃に教わったことが、この昔話の中に脈々と息づいているからだ。
    すべてのものに神様が宿るという、素朴で謙虚なところも本当に好ましい。
    ひとを脅して、騙して、ひとり甘い汁を吸おうという輩も登場するが、知恵ある年配者と、若者の勇気と力とでその危機を乗り越えている。
    おお、まるで北の空に広がる宮崎アニメの世界ではないか。
    いや、このたとえはアイヌのひとたちに失礼かな?
    本棚には載せなかったが、この後アイヌの昔話絵本を4冊読んだ。

    • 8minaさん
      nejidonさん、こんにちは。
      素敵なレビューですね。遠い昔、学生の頃、自然との共生をずっと考えていました。北海道を自転車でうろつき、観...
      nejidonさん、こんにちは。
      素敵なレビューですね。遠い昔、学生の頃、自然との共生をずっと考えていました。北海道を自転車でうろつき、観光地化したアイヌコタンにがっかりでしたが、でもユーカラの伝える物語には素朴に暮らした人たちの、知恵と自然と共に生きる姿がありますね。

      今日は暖かですが、ウグイスはまだです。
      2014/03/15
    • nejidonさん
      8minaさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます!
      今日当たりはそろそろ、若いウグイスが練習し始めるかと・・(笑)
      こちらで...
      8minaさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます!
      今日当たりはそろそろ、若いウグイスが練習し始めるかと・・(笑)
      こちらでは初夏のころにホトトギスも鳴きますよ。

      北海道の旅でアイヌコタンにいらしたことがあるのですね。
      観光地化も、思えば「和人」がそう仕向けたのかもしれないし、やるせないですよ。
      私も白老の民族博物館によく足を運びました。
      アイヌの人たちの音楽と、手刺繍がとても好きです。
      アイヌの人たちは、鮭を捕るときでも、産卵前は決してたくさんを捕ることはしなかったといいます。
      考えさせられますね。
      私たちがかつて確かに持っていたはずのもの、そして今や失ったもののすべてが、この本の中にあるように思えます。
      2014/03/17
  • アイヌの人々の間で口伝えに語り継がれてきたウゥェペケレ(昔話)、20話。悪い根性を懲らす痛快な、よい生活の作法を教える温かな話の中に、人間と自然と神とが自在に交流し共生する世界のあり方を告げる。



  • 平凡社
    萱野茂 「 アイヌ の昔話 」

    一人称の語り部による説話集。語り部はアイヌ人か神。「わたしは○○です」で始まり、いまいるアイヌに対する教訓 で 終わる。アイヌでは 6がラッキーナンバー?

    アイヌ文化の中でも 文学は 飛び抜けていいと思う。先鋭化した宮沢賢治童話という感じ。ただ 全文カタカナで書かれたものは 読むのがつらい


    驚きの題材
    *鍋に宿る神
    *病気を撒き散らす神
    *結婚する神
    *母に憑き、子を焼き食らう食人種
    *熊に化ける河童
    *語り部の犬〜後に人間になる


    この本を読むかぎり、アイヌの人にとっての幸せは「たくさんの子どもが生まれ、狩りが上手で、何をほしいとも、何を食べたいとも思わないで 暮らすこと」


    不徳者が 神の罰によって無惨な死に方をする結末(本人が後悔しても赦されない)は 罰が重すぎる気もするが、それだけ倫理が徹底しているということか?

















  • 文字を持たないアイヌ民族。人々が口伝えで語り継いできた昔話がここに集められました。小さなものへのやさしい眼差し。神と人との近さ。

  • 自然のすべてに神の存在を感じていたアイヌ、その素朴な素朴なお話集。人と獣、生と死。やさしく、温かい物語。

  • アイヌの人々の間で口伝されてきた昔話20話。
    神と人とが近く、ちいさなモノに至るまで大事にするべきという教え。教訓が必ずくっついているのはグリムのようで、そこまで残酷じゃない(採集された話がそういうだけか)。
    優しさと純粋さを垣間見たけど、同時になぜかアテルイを思い出して悲しくなりました。

  • 自然のすべてに神の存在を感じていたアイヌ、その素朴な素朴なお話集。人と獣、生と死。こういうの好きだなあ。

  • 驚いた時、鼻と口を塞ぎます。
    魂が抜けないようにするためです。

    虹が性質の悪いもの・不吉なものであるのは、万葉集時代の日本と同じようです。確か司馬遼太郎は、本州の先住民族はアイヌであり北に押しやられたのでは、と。こういうのは空想のロマン。

    しかし古代人が共通して虹を嫌うのは、なぜだろう。不安定だからかな。

  • アイヌというと、ユーカラという連想があります。
    ユーカラ以外にも、いろいろな伝承している話があります。
    それらを集めたのが本書。

    20の物語で、最後の1話はアイヌ語版もある。
    教訓がくっついているので嫌みな感じを受けるかもしれません。
    なんとなく親しみがわく話もあります。

    はじめに
    おわりに
    平凡社ライブラリー版あとがき
    解説 千本英史

  • 20話の昔話に何回か出てくる「何を食べたいとも、何をほしいとも思わない」という表現にアイヌ民族の気質を感じた。また、熊やきつね、なべにまで神が宿っているという考え方など、文化の違いを感じられておもしろい。
    研究文献とかではなく、こういう語り継がれてきた話から知るのも良いのでは。「暇な小なべ」は、将来に自分の子供に話してあげようと思う。

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著者プロフィール

1926─2006年。北海道生まれ。アイヌ文化研究者。学術博士。長年アイヌの民具や伝承を精力的に収集・記録し、1972年には二風谷アイヌ文化資料館を開設、館長を務める。1994年、アイヌ出身者としてはじめて国会議員となり、北海道旧土人保護法撤廃・アイヌ文化振興法制定などに尽力。主な著書に、『ウエペケレ集大成』(アルドオ、菊池寛賞)、『萱野茂のアイヌ神話集成』(ビクターエンタテインメント、毎日出版文化賞)、『萱野茂のアイヌ語辞典』(三省堂)がある。

「2017年 『アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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