フローラ逍遥 (平凡社ライブラリー)

著者 :
  • 平凡社
3.83
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本棚登録 : 314
レビュー : 37
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582761665

作品紹介・あらすじ

水仙・椿・薔薇・コスモス…「龍彦の国=ドラコニア」に咲く25の花々を描いた、生涯の最期を飾る優美にして閑雅な博物誌、東西の植物画75点をオールカラーで収録。

感想・レビュー・書評

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  • フランス文学者で作家の澁澤龍彦(1928-1987)による花々にまつわる随筆、最晩年の1987年。美しいと評判のこの本の、その美しさとは何だろうか。



    まず何よりも、澁澤本人が「あとがき」で書いているように、収録されている花々の図版の美しさ、植物文化史の研究家である八坂安守が蒐集した植物画の美しさがある。ところが、この植物画に感じられる美しさには、単に綺麗と云うのでは収まりきらぬ何かがある。本書に収められている図版の多くは、18世紀末から19世紀にかけられてヨーロッパで刊行された植物図譜を出典としている。よってそれらは芸術的というよりも自然科学的な意図で描かれたものであるが、単に写実的というだけではこの植物画たちの存在感をうまく捉えきれない。

    思うに、自然界を標本によってモデル化しようとする博物学の眼差しが、こうした図譜に独特の雰囲気を与えているのではないか。博物学は、自然物を蒐集し・それを分析解剖し・他の自然物と比較し・他の自然物との関係において分類し・標本として標本箱に排列する。そこでは、自然物から一切の物語=意味連関が排除され、標本という抽象的な即物として lexicographical に羅列される。こうした博物学の眼差しによって自然物の集合体としての世界がアーカイヴ化されることに、なにがしか美的なものを感じとってしまうのではないか。自然物が、標本として博物学的に即物化されるよって帯びることになる、美しさ。それは一種のフェティシズム(宇宙そのものの代理としての標本集)に由来するものであるかもしれない。



    これまで澁澤の書いたものはサドの翻訳を二冊ほど読んだだけで、中公文庫の『少女コレクション序説』などは数ページ読んでは読み進めぬを繰り返すうちに手つかずとなって二十年近い。文体にせよ思想にせよ、あまり相性のいい作家だとは思っていなかった。

    ところがこの本では、澁澤が引用する古今東西の詩句は味わい深いものであるし、旅先で出会う花のある風景の描写も、いままで見てこなかったものたちを見せてもらったような気持ちにさせる。世界がこういう方向へ広がる余地があったのかと発見するような感覚。そして、そこへと広がっていく自己が、広がって図々しくなるのではなく、その広がりの中で薄められ軽められていくような感覚。

    だからこの本の美しさは、この本自体の美しさにとどまるのではなくて、そのままこの本を読むことに伴う感覚の美しさでもあったのであり、そして願わくばこの本を読み終わってからこの本を記憶と本棚に携えていくこれからの時間の美しさでもあってほしい。

  • 「美しい本は?」と聞かれたら迷わずこの本を挙げます。
    澁澤氏による軽やかな25の随筆と、75点の植物画がオールカラーで同時に楽しめる贅沢な一冊。

    掲載されている図版は東西混合の色彩豊かで精緻に描かれたものばかり。個人的にルドゥーテの描く薔薇が大好きなので掲載されていたことが嬉しく、他にも綿密に描かれた植物画がこんなにもあるのかと思わぬ収穫でした。『澁澤龍彦のフローラ逍遥美術展』なるものが開催されれば間違いなく足を運びます(ぜひ…!)。

    著者最晩年の作品とのこと。植物を優しく愛でる視点は趣きがあり、終始とても心地良いです。一編一編を読み進めるたびに背筋がしゃんと伸びるよう。
    水仙は美少年、梅はテキレキ、スミレは花環、太陽を追うヒマワリ…。澁澤氏の広く豊かな知識と、彼のフィルターを通して見た光景とその表現力をもって品良くまとまったこの本は、読者をどっぷりと世界観に浸からせてくれます。

    心の浄化装置として手元に置いておきたい本。今回は文庫版を読みましたが、初版は函・装丁ともにこだわり抜いている様子。いつか手にできればと思います。

  • 文化や歴史、文学に芸術にと、多彩な場所で咲き乱れる花々のエピソードと著者の体験が織り交ぜられた文章の横に差し込まれる美しい植物画。博物誌、エッセイ等単一のジャンルではくくれない本でした。

    1種に対して実質4Pという短文ながらも、感性を刺激される花物語から著者の各分野への造詣の深さが伺える。値段の前に躊躇してしまうものの、1節を読めばもう本棚に戻すことはできない。ちなみに一番のお気に入りは牡丹です。

    • megumi33さん
      初めまして。
      「いいね」、ありがとうございます。
       こちらの本に興味を持ち、購入しようと思います。
       花やキレイなものが好きなので、読...
      初めまして。
      「いいね」、ありがとうございます。
       こちらの本に興味を持ち、購入しようと思います。
       花やキレイなものが好きなので、読むのが楽しみです。
      2017/12/04
  • 澁澤の生涯の最期を飾る優美にして閑雅な博物誌。東西の植物画75点をオールカラーで楽しむことができます。たとえば、薔薇の章にはルドゥテ『薔薇図譜』が掲げられています。今まで読んできた澁澤の本の中で一二を争う好著。自信をもっておすすめ致します。

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  • あとがきで本人がおっしゃっているけれど、「書物の中で出会ったフローラ、記憶の中にゆらめくフローラが、現実のそれよりもさらに現実的に感じられ」ているのがよく伝わってくる。味気ないという意味ではなくて、観念との対面として(本の中の知識と、実地もしくは別の書物などで出くわした、というように)花をみる様子に感じられてなぜかしみじみする、といった具合だ。現実というものの手ざわりも、氏の世界の中で観念的なものに記憶とともに変じ、精神の散歩道、逍遥先になったのかなぁと考えるとなんとなく味わい深い。遊ぶ、ということ、定石を知った上でそのうえに夢想を描くことを思う。知識の中に溶け込んで生きるというのは、ひとつの憧れである、けれども。

  • 肩の力が抜けている。
    図版も美しい。
    龍子夫人がお好みなのも肯ける。
    花というのはやはり猥褻な存在だ。

  • 理知的でエロティズム漂う文章、美しい図版、そして装丁のバランスの良さ‥‥
    これは本屋でないと出会えない宝石箱のような本。友達にプレゼントしたくなります。

  • 綺麗。
    たまに読み返したくなる。

  • 角田光代さんオススメ

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著者プロフィール

1928年東京生まれ。東京大学仏文科卒。フランス文学者、エッセイスト、小説家、翻訳家。マルキ・ド・サドやジョルジュ・バタイユの著作の翻訳・紹介をする一方、人間精神や文明の暗黒面に光を当てる多彩なエッセイを数多く発表。晩年は小説を発表するようになり、遺作となった『高丘親王航海日記』は第39回読売文学賞を受賞した。1987年没。

「2018年 『ドラコニアの夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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