フローラ逍遥 (平凡社ライブラリー)

著者 :
  • 平凡社
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本棚登録 : 512
感想 : 46
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582761665

作品紹介・あらすじ

水仙・椿・薔薇・コスモス…「龍彦の国=ドラコニア」に咲く25の花々を描いた、生涯の最期を飾る優美にして閑雅な博物誌、東西の植物画75点をオールカラーで収録。

感想・レビュー・書評

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  • 読んで良し眺めて良しの美しい本です。
    文章は花についてのあれこれ、旅の思い出や西洋東洋織り交ぜての逸話で世界が広がります。
    花の絵も美しい。趣きがあるし澁澤龍彦の文章には写真よりも絵のほうが似合う気がします。
    時折眺めるために、手元に欲しくなりました。難しそうだけど探そう。。

  • フランス文学者で作家の澁澤龍彦(1928-1987)による花々にまつわる随筆、最晩年の1987年。美しいと評判のこの本の、その美しさとは何だろうか。



    まず何よりも、澁澤本人が「あとがき」で書いているように、収録されている花々の図版の美しさ、植物文化史の研究家である八坂安守が蒐集した植物画の美しさがある。ところが、この植物画に感じられる美しさには、単に綺麗と云うのでは収まりきらぬ何かがある。本書に収められている図版の多くは、18世紀末から19世紀にかけられてヨーロッパで刊行された植物図譜を出典としている。よってそれらは芸術的というよりも自然科学的な意図で描かれたものであるが、単に写実的というだけではこの植物画たちの存在感をうまく捉えきれない。

    思うに、自然界を標本によってモデル化しようとする博物学の眼差しが、こうした図譜に独特の雰囲気を与えているのではないか。博物学は、自然物を蒐集し・それを分析解剖し・他の自然物と比較し・他の自然物との関係において分類し・標本として標本箱に排列する。そこでは、自然物から一切の物語=意味連関が排除され、標本という抽象的な即物として lexicographical に羅列される。こうした博物学の眼差しによって自然物の集合体としての世界がアーカイヴ化されることに、なにがしか美的なものを感じとってしまうのではないか。自然物が、標本として博物学的に即物化されるよって帯びることになる、美しさ。それは一種のフェティシズム(宇宙そのものの代理としての標本集)に由来するものであるかもしれない。



    これまで澁澤の書いたものはサドの翻訳を二冊ほど読んだだけで、中公文庫の『少女コレクション序説』などは数ページ読んでは読み進めぬを繰り返すうちに手つかずとなって二十年近い。文体にせよ思想にせよ、あまり相性のいい作家だとは思っていなかった。

    ところがこの本では、澁澤が引用する古今東西の詩句は味わい深いものであるし、旅先で出会う花のある風景の描写も、いままで見てこなかったものたちを見せてもらったような気持ちにさせる。世界がこういう方向へ広がる余地があったのかと発見するような感覚。そして、そこへと広がっていく自己が、広がって図々しくなるのではなく、その広がりの中で薄められ軽められていくような感覚。

    だからこの本の美しさは、この本自体の美しさにとどまるのではなくて、そのままこの本を読むことに伴う感覚の美しさでもあったのであり、そして願わくばこの本を読み終わってからこの本を記憶と本棚に携えていくこれからの時間の美しさでもあってほしい。

  • 「美しい本は?」と聞かれたら迷わずこの本を挙げます。
    澁澤氏による軽やかな25の随筆と、75点の植物画がオールカラーで同時に楽しめる贅沢な一冊。

    掲載されている図版は東西混合の色彩豊かで精緻に描かれたものばかり。個人的にルドゥーテの描く薔薇が大好きなので掲載されていたことが嬉しく、他にも綿密に描かれた植物画がこんなにもあるのかと思わぬ収穫でした。『澁澤龍彦のフローラ逍遥美術展』なるものが開催されれば間違いなく足を運びます(ぜひ…!)。

    著者最晩年の作品とのこと。植物を優しく愛でる視点は趣きがあり、終始とても心地良いです。一編一編を読み進めるたびに背筋がしゃんと伸びるよう。
    水仙は美少年、梅はテキレキ、スミレは花環、太陽を追うヒマワリ…。澁澤氏の広く豊かな知識と、彼のフィルターを通して見た光景とその表現力をもって品良くまとまったこの本は、読者をどっぷりと世界観に浸からせてくれます。

    心の浄化装置として手元に置いておきたい本。今回は文庫版を読みましたが、初版は函・装丁ともにこだわり抜いている様子。いつか手にできればと思います。

  • この間にわかに澁澤龍彦を再読したくなり、BOOKOFFオンラインで6冊ほど大人買い。これはその中の一冊。

    タイトル通り、花を取り上げて解説したエッセイ。
    図版も多数収録されていて、目でも楽しめた。安定の平凡社ライブラリーだ。

    博覧強記な澁澤龍彦だから、花を題材にしても想像の翼は西洋と東洋、幼年時代や最近の旅の記憶など自由自在に羽ばたいている。作者の頭の中を覗いているようで楽しい。
    一冊持っていて、何回か再読するのに最適。

  • 澁澤さん生涯最後のエッセイ集にして、私の大のお気に入りの1冊です。いつか単行本が欲しいと思いつつも、なかなか手に入らず苦悶しております。ほすぃ…
    禍々しいと言うよりは、澄み渡って優美なドラコニアの花々を鑑賞できます。八坂安守さんの図版解説も読み応えたっぷり! 何度も読んでしまう。

    「なぜ流行歌には林檎が好まれるのか。そんなこと、私に分るはずがない」
    ここでクスッと笑ってしまった。ホントにどの本も好きですよ、澁澤さん

  • 文化や歴史、文学に芸術にと、多彩な場所で咲き乱れる花々のエピソードと著者の体験が織り交ぜられた文章の横に差し込まれる美しい植物画。博物誌、エッセイ等単一のジャンルではくくれない本でした。

    1種に対して実質4Pという短文ながらも、感性を刺激される花物語から著者の各分野への造詣の深さが伺える。値段の前に躊躇してしまうものの、1節を読めばもう本棚に戻すことはできない。ちなみに一番のお気に入りは牡丹です。

    • megumi33さん
      初めまして。
      「いいね」、ありがとうございます。
       こちらの本に興味を持ち、購入しようと思います。
       花やキレイなものが好きなので、読...
      初めまして。
      「いいね」、ありがとうございます。
       こちらの本に興味を持ち、購入しようと思います。
       花やキレイなものが好きなので、読むのが楽しみです。
      2017/12/04
  • まだ読みきれてない本の一つですが、、、
    お花についてのお話や作者のエピソードが挿絵と一緒に載っています!文章は難しいです!
    今のところは紫陽花と水仙の内容が
    お気に入りです!その影響で
    ギリシャ神話にも手を出し始めてしまいました。

    飛鳥ちゃんへ
    お花を知るっていいことですね!
    庭に沢山のお花を植えて、
    毎日朝の早い時間からお水をあげて
    手足に土をつけたり、服に虫をにつけて
    帰ってくる祖母を思い出しました。
    懐かしい記憶です。
    私は生粋のおばあちゃんっ子で
    毎日おばあちゃんと寝ていました。
    朝起きたらおばあちゃんの膝に座るのが
    当時の私のモーニングルーティンでした笑笑
    いつも朝の外の匂いがしました。
    そういう記憶って愛おしいですね!
    飛鳥ちゃんの幼少期の好きな記憶は
    なんですか?今度どこかで聞きたいです✨

  • 2022/5/22

  • she comes to me with a poison in her flower...

  • 花、果実など植物に関するエッセイを25の章に分け、フルカラーの図版を挿入した澁澤晩年の美しい書物。
    澁澤が取り上げている植物は以下の25種。

    水仙、椿、梅、董、チューリップ、金雀児、桜、ライラック、アイリス、牡丹、朝顔、苧環、向日葵、葡萄、薔薇、時計草、紫陽花、百合、合歓、罌粟、クロッカス、コスモス、林檎、菊、蘭。

    鎌倉の自宅の庭に咲く花から、幼少期に記憶、旅の思い出、
    ギリシア神話、プリニウス、童謡、文学、美術、歴史など東西を問わず、澁澤の広く深い博学が何気なく散りばめられ、ドラコニアに咲く花は溢れんばかりです。

    椿にはマルグリット・ゴーティエ、
    董には芭蕉、
    金雀児には、黄色に咲き乱れるジル・ド・レ領地の野原の夢想をジュネの文章で紹介し、
    薔薇には、ルドゥテの絵を入れることを忘れない。

    庭の土いじりもしたこともなく、草木を植えたのも数えるほどしかないという澁澤は、『太陽』という雑誌の連載として書いたこの植物のエッセイは、晩年、自らの癒しになり得ただろうか。

    手元に置くべき書物である。

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著者プロフィール

1928年、東京に生まれる。東京大学フランス文学科を卒業後、マルキ・ド・サドの著作を日本に紹介。また「石の夢」「A・キルヒャーと遊戯機械の発明」「姉の力」などのエッセイで、キルヒャーの不可思議な世界にいち早く注目。その数多くの著作は『澁澤龍彦集成』『澁澤龍彦コレクション』(河出文庫)を中心にまとめられている。1987年没。

「2023年 『キルヒャーの世界図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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