ゲイ短編小説集 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
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感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582763157

作品紹介・あらすじ

近代英米文学の巨匠たちの"ゲイ小説"を集約。新たな視点による大作家の読み直しとしても、英米文学の「古典」としても、読み応えある作品集。これぞゲイ・キャノン。

感想・レビュー・書評

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  • キリスト教に根ざした英米ゲイ小説は破滅的としか言いようがないんだけど『幸福な王子』は好きです。添い遂げてるから。
    『プロシア士官』の将校→従卒の描写はエロくて良かった。
    舐めるような視線と突き上げるような欲情を感じるのに、その一切を否定しようとして結果暴力と死を迎えるのたまらんね。やはり破滅的。

  • 19世紀末から20世紀前半にかけての英米ゲイ文学の短篇を集めたアンソロジー。

    O・ワイルド「W・H氏の肖像」「幸福な王子」
    H・ジェイムズ「密林の野獣」
    サキ「ゲイブリエル‐アーネスト」
    D・H・ロレンス「プロシア士官」
    シャーウッド・アンダソン「手」
    E・M・フォースター「永遠の生命」
    S・モーム「ルイーズ」「まさかの時の友」

    大作家ばかりで全ての作品がすでに邦訳されており、「ゲイ文学」の主題を取り払っても単純に上質な短篇集として楽しめる。O・ワイルドの有罪判決の衝撃が尾を引き続けていた時代で、明白に同性愛を主題にしている作品は多くない。だからこそ「なぜこれがゲイ小説といえるのか」を明らかにする解説が重要になる。「カミング・アウト」と「パッシング」の概念など非常に読みごたえがあるのだが、各作品の解題は分散して作品の後に入れる方がわかりやすかったかもしれない。

    お目当ての「密林の野獣」はH・ジェイムズ魂が迸って最高だった。彼については別の機会にじっくり語りたいけれど、じらしにじらされる快感。でもその核心は実はとてもシンプルで、深く共感できる。

    もう一つのお目当て「永遠の生命」はE・M・フォースターのおいしい所獲りのような作品。背徳性・耽美性を排し、真摯かつみずみずしく抒情的な彼の同性愛小説がとても好きだ。

  • 2013年04月18日
    ゲイブリエル=アーネスト サキ(H=Hマンロー)

    自分の敷地の森で出会った、人食い野獣の裸の少年とそれをなかったことにしたい主人公=男性の同性愛的態度のお話というのが編者の解釈のようですが、私にはまず少年が裸とか正体が人食い狼とかいう設定にさして意味があったようには思えず、何だかレディスコミックなどの萌えのための萌え的な、安易さここに極まれり、的な猫耳キャラクターのような三流臭さを感じました。(萌え要素のみのキャラクターの誕生という点でなら歴史的作品なのかも知れません。いつ誕生したのか知りませんが)

    さて、男性の同性愛が芸術として描かれる理由は何かと問われたなら、おそらく男性の愛や男性そもそもの性質が存在への許容という仕組みになっているためだろうと私は答えます。

    この話の面白さは、女性のように相手の存在を否定したり抹消したりできない男性性、つまりあらゆることを許認してしまう男性の性質と、人食いの少年が主人公の敷地に住んでいたために思いがけず共犯的になったことや主人公の一般社会への執着とことなかれ主義が高じた挙げ句のイレギュラーな存在への許認という態度が相まって、本来抹消すべき対象である野獣少年への愛を描き出しているように見える構図にあるように思いました。

    これを同性愛作品とする解釈は萌えキャラクターに耐性のない人達がそのインパクトを無視できなかった故に生まれたのではないかと思います。

    むしろ見所は主人公の徹底して人として小さすぎる現実主義がその徹底した小ささ故に大きな非現実をこともなげに内包した「小ささの極み」にあったのではないでしょうか。猫耳少年の萌え属性に対しても無反応という主人公にアガペー(に似た何か)故のエロスを読者が感じ取ることがあったとしても、この愛をして同性愛要素はあまりに一部分に思えます。

    2013年02月14日
    密林の野獣 ヘンリー=ジェイムズ

    前半部分の大変に長く面倒くさく訳の分からないどうでもいい男女のやり取りが全て後半部分のたった一つのオチの伏線だったというびっくり作品でした。
    くだらなさに憤りを感じながら渋々読み進んでいると最後辺りになってこれまでの異様な無駄さが豪華さにまで転じられるのです。読むのも苦痛な駄文が意図的だったとは見事です。

    私的な読みどころとしては情報伝達の「必要となる情報のみが記載される」性質(例えば小説に書かれない部分は共通認識によって読者が勝手に補う)がトリックとしてうまく利用されていた点でしょうか。このような作品でこれをする人がいることには驚きました。

    なお、登場人物の関係には何らかの愛が存在しているように作られていますが現実には関係の継続が可能な環境においての愛は完全な需要と供給が成り立つ場合にしか存在しえません。男性がゲイだの女性がオコゲだのの解釈があるようですがこれは現実の世界を適用して何かを解釈するとかいう類いの作品ではなく、あり得ない風景があり得るように見える錯覚を楽しむ作品なのではないでしょうか。

    もし小説にもトリックアートというジャンルがあるなら私は初めて出会いました。

    2015年7月20日
    推理小説の世界には叙述トリックというものがあるそうです。


    2013年02月14日
    W・H氏の肖像 オスカーワイルド/大橋洋一訳

    訳の大橋さん曰く、ここにワイルドの文化的表象のカテゴリー、越境、贋作、同性愛、芸術が出そろうと。デカダン派と呼ばれるに相応しく目の付けどころは素晴らしいと思います。またバカバカしい演出も面白かったです。が、私としては内容的に薄っぺらに感じられて満足できるものではありませんでした。

    まず実際のシェイクスピアがどんな人が知りませんが(とは言えワイルドさんの表現はかなり的確に思いますのでこれを私的にシェイクスピアとします)この話に出てくるシェイクスピアがうさん臭過ぎるのが気になります。これは少年どころか誰かを愛する感性など到底持ち合わせていない人物でしょう。経験値がまるで足りていないか感性偏差値が低い人の感性回路です。所謂、色ボケしている女子や青少年や老人やその辺で交尾している鳩のレベルと何ら変わりない、要するに平均的なオッサンということです。
    そしてそれはワイルドさんからも感じることです。

    私には、彼らの書くという行為からはひたすら自分が持ち合わせていない「誰かを愛する感性」への憧れしか感じられません。
    おそらく彼らは「真に憧れるべき色ボケではないもの」の存在を知る才能と、その憧れに自分などが届くはずもないという恐れ、つまりデリカシーという才能を持っていたのでしょう。それをいつしか大衆が「平均的なオッサンという部分」だけに反応し自分と近しいものと感じたか何かで、気分良く祭り上げられたというところではないでしょうか。

    大衆という外野のせいで、ない能力をさもあるかのように振る舞わなくてはならないという人生はさぞや暗闇の中を歩くようで辛かったことと思います(彼らが自分という存在を認識していたかどうかはともかくその魂は傷ついていたでしょう)。少なくとも彼らにはデリカシーという非凡な才能はあるのです。気の毒です。

    押井守という人の庵野秀明氏(エヴァ)への批評「演出能力は抜群だからその気になるでしょうが、騙されたいと思って見るぶんには十二分に機能しても、 表現を成立させるための方便に過ぎないから結末を引き伸ばすだけで、落とし所が想定されていない」というのを思い出しました。

  • 縦横無尽な読解。

  • ゲイ小説…と言っても、正にゲイ小説っていうのもあれば、グレーゾーンなものもある。
    ワイルドの『幸福な王子』の王子とツバメまでゲイにされちゃうと…なんだかなぁ。好きな話だけに「ちょっとやめてほしい」って気になる。

  • どこがゲイ小説やねん
    ってわからないやつ多数。
    『プロシア士官』と『永遠の生命』が印象深かった。

  • 「W・H氏の肖像」ソネット集の献辞、W・H氏について自論を展開した友人が証拠として出したW・H氏の肖像は友人の作らせた贋作であった。そのことを指摘したら友人は自殺した。という話を聞かされた主人公はその説に傾倒するが、話してくれた人へ手紙を書いたら熱意が冷めてしまった。話してくれた人も結核で死に、主人公はその肖像を送られる。

    「幸福な王子」名作。泣ける童話BL…二つの最も尊いものとして神様に正しいとされその元で永遠に輝き続けるものとなった王子とつばめでしたというエンドが素晴らしい

    「密林の野獣」自分が人と違う何か恐ろしいことが起きると知っている主人公は、唯一それを知る女友達のメイと己のそれを見守るが、主人公は気づかぬ間に、しかメイは気づいて先に逝ってしまう。死後数年、彼女の墓を訪れた時に見た別の墓参りに来た男の顔を見たとき、初めて気づいたのだった。
    ゲイというよりクィア的な作品だと思った。が、後に続編として出版されたクィア短編小説集の中にも明らかにこちらのゲイ短編小説集に入れるべき作品などがあるので、そこら辺の区別は99年ではまだ曖昧だったのかもしれない。

    「ゲイブリエル−アーネスト」「密林の野獣」と並べての掲載したのはこちらの作品がもっと「野獣」をあからさまなシンボルとして描いてあるため。サキという明らかにゲイチックなペンネームの無視を解説は指摘する。

    「プロシア士官」ゲイ的傾向を持つ貴族の上官プロシア士官が若い当番兵にサディスティックな欲を持って接する、ホモフォビアの色も濃厚な作品。

    「手」ウィングの名で呼ばれるほどよく動く手を持つ孤独な老人の過去は誰も知らない。かつてこの手の所為で子供を魅了したと教職を追われた男の話。

    「永遠の生命」何度読んでもいい…最高…

    「ルイーズ」「まさかの時の友」モームから二編。彼が同性愛者であったことは有名だが作品からその傾向は読めない。解説によればルイーズと語り手がイコールになり、男と女の皮を被ったそれだ、と言うが暗示を穿ちすぎでは


    読みたかった話がいくつも入っていて面白かった。古典がどのようにゲイを書いていたか、その表現の種類の広さに作家達の創意が伺えます。
    解説380ページ、「ウィルコット博士」は「ウラコット博士」の誤植かな

  • 好:D.H.ロレンス「プロシア士官」/E.M.フォースター「永遠の生命」

  • 2015-3-3

  • どれも名作揃いのセレクトなだけにゲイという枠に括ってしまうのはちょっと勿体なかったかなあ、という印象。でも多様な読み方ができて、誰もが自分に引き寄せた読みができる、それでいて力を失わないというのが名作の名作足る所以なのかも。そういう意味ではやはりヘンリー・ジェイムズの「密林の野獣」が一番色々な読み方ができそうで一番面白かったかな。

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