ロクス・ソルス (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582765113

作品紹介・あらすじ

ブルトンが熱讃し、レリスが愛し、フーコーがその謎に魅せられた、言葉の錬金術師レーモン・ルーセル。言語遊戯に基づく独自の創作方法が生み出す驚異のイメージ群は、ひとの想像を超える。-パリ郊外はモンモランシー、天才科学者カントレルの奇想の発明品が並ぶ広大なロクス・ソルス荘へ、いざ、-。

感想・レビュー・書評

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  • 科学者の友人マルシャル・カントレル先生の別荘”ロクス・ソルス”に招かれた私たちは、広大な庭園に配置されている発明品の数々を紹介される。
    まず奇妙な装置や人々の行動が書かれ、読者の頭が「?」となったところでそれがなんであるか、どうやって作ったか語られるという構図。
    発明品たちは「どうやって作ったか」が懇切丁寧かつ平坦に説明されているんだが、「こういう器具で人間の歯からある種の電磁波を集め…」「ある種のメロディーを聴くと蛍光色を発する平べったい虫を手に入れ…」などと言うような余計に頭がこんがらがりそうなこと几帳面に記載してゆくこの作者はよほど凝り性に違いない。


     ✔人間の歯から出る微粒子をエネルギーとして騎士に夢見られている撞槌型の飛行機械
     →おかげで痛くない抜歯方法を発明しましたよ。(序盤でまだこの本に頭がついて行っていなかったのでこれ以上説明無理(笑)) 
    合間に挟みこまれた寓話的エピソード「自分の命を狙った男の命を助ける乙女たち」のエピソードは印象的だった。

     ✔呼吸のできる水の中で髪をなびかせる音楽を奏でる美女や、垂直運動を繰り返しながら同じ話を演じる水中人形たち、ギロチンのあと骨と油を取り除かれたダントンの頭部-すなわち脳味噌や、毛を剃られた猫たち。
     →水中人形たちの演技の一つ一つの意味はこのような神話などからとったんです。それぞれの上下運動の規則も計算されています。
     そしてこの水は毛髪などの揺れにより音を発します。
     ダントンの頭はこうやって手に入れたんだけど、防腐処理に失敗して脳みそだけ残しましたよ。などなど説明されている。

     ✔それぞれが奇妙な独り芝居を続ける男たち。
    幼子の石像を抱く男、部屋の中から何かを探していき自殺する青年、自分の指を偽物の万力で締め付ける老人…。そして彼らみて観劇する女や子供たち。
     →死体にある種の電気を通すことにより、その人物が人生で一番印象的な出来事を繰り返すようになるんですよ。
     それぞれの「一番印象的な出来事」を語ることにより、人生の振り返りのような章になっている。愛の思い出、酷い殺人を知るまでの道のりとその殺人の顛末。
    文系脳の私には「どのような電磁波をどうやって死体を動かしたか」ということより、「彼にとってこの場面はどういう意味を持っていたのか」のほうが印象的。

     ✔娘が踏み殺されたことにショックを受けて狂った父親が、娘の最期の場面を再現し、そして失われた娘の姿を求める様相…
     →カントレル先生は、精神を病んだものの治療法としてある種の電気の作用を…
    これまた文系脳の私には、どのような治療法…というより、愛娘を失った父親の失望と再生の一歩として理解しておく。

     ✔女占い師の操る光るカード、男占い師の操る血により未来を予測する鶏。
     →彼らが操る「あるメロディーを聴くと蛍光色を放つ平べったい虫」やら、「血を吐くことにより予言を行うよう訓練させた鶏」などのエピソード、
    そしてその占い師たちの半生が語られる。

    そんなキテレツかつシュールな発明品の数々を紹介された後、私たちは館に入ってご馳走になりましたとさ、おっしまい。

    こんなに明るく「おっしまい」という内容でもなかったのですが、かなりシュールで頭の中に描く映像に酔ってしまいそうなので、明るく締めてみました(笑)

    • なつめさん
      淳水堂さん
      コメントありがとうございます。ルーセルはその作品より当人自身のほうがよほど面白いような気がします。岡谷公二『レーモン・ルーセル...
      淳水堂さん
      コメントありがとうございます。ルーセルはその作品より当人自身のほうがよほど面白いような気がします。岡谷公二『レーモン・ルーセルの謎―彼はいかにして或る種の本を書いたか』に詳しいので、もしお目に止まることがありましたらぜひご一読ください。
      2018/05/03
  • 科学者カントレルが道楽の限りをつくして(?)造り上げた別荘「ロクス・ソルス荘」を舞台に、その大邸宅のそこかしこに造られたさまざまな仕掛けを、来訪した主人公が案内してもらうという形式で物語は進行します。次々登場するこの装置がどれも奇想天外ですごい。個人的には死体が生前と同じ動作を繰り返すという芝居仕立ての装置がとてもお気に入りでした。

  • 奇想の発明家カントレルによる、やたら非効率でまわりくどい奇妙な機械装置の並んだ、「人里離れた場所」の物語。ブルーノ・ムナーリの可笑しな絵本『le macchine di Munari』にも通ずる、ナンセンスだが蠱惑的なギミックが次々と紹介される。

  • 言葉が孕んだ奇械の数々をご堪能あれ。

  • 2013/03/15 ★★★★ - ★4に評価上げ。この一か月で伝記や解説本、他の作品を読んで自分なりの読み方が定まったこと、再読なので先行きがわからない不安がなかったことで格段に読みやすくなった。熱狂的なファンがいることを理解できるくらいには楽しめたと思う。

    ルーセルは、自分が決めた方法で言葉のパズルを組むようにしてあんなに長い文章を書いたのに、緊密な奇想が延々繰り広げられ、しかもどこを切ってもルーセル味(芸をする小動物、血、針、遺産、死、などなど)なのがすごい。この感想は、割り箸やレゴでお城や映画の名場面を再現する職人さんたちに感服するのに近いかもしれないけれど。

    もうひとつ面白かったのが、ルーセルが展開する面白アイテムの、想像力を喚起する力だ。想像もつかないものや音楽などは、ネットで探さずにいられなかった。これは本職のアーティストにとっても同じらしく、「Locus Solus Roussel」で画像検索すると結構いろいろ出てくる。一度自分で想像してみて、あとでほかの人が思い付いたかたちを見てみると、なかなか楽しい。撞槌のシーンで挫折しそうな人は、とりあえず画像検索をしてみるのもありなのでは。

    博士やら狂人やら何人も登場してくるが、どの人もルーセル本人を思わせる。伝記を読んで本書に戻ると、平板な人たちの平板さが奇妙に味わい深くて愛しいような気がした。

    2013/02/13 ★★★ - 奇妙な発明品の数々を科学者が見せて回るという物語なのだけれど、発明品が喚起するイメージに奇妙なアクがあるのがおもしろかった。なにか食べつけない香辛料が入っている知らない料理とか、高性能な扇風機が発生させる、最適な風量なんだけど遠くで焦げ臭いそよ風とか、そういう感じのちょっとした違和感。

    構成は単純で、「なんだこりゃ?」な発明品が披露されたあと、発明のきっかけとそのしくみが解説される。披露のパートの記述がとにかく平板に詳しくて読むのに根気がいるので、解説パートでほぼ自動的にすっきりしてしまうバカみたいな自分がいて、軽く苛立ちを感じた。解説編が本当に何かを説明しているのかっていったらそうでもない気がするんだけど、因果関係という「見立て」がないと物事を把握できないタイプなんだなと。

    ルーセルは別に「君はそういう浅い人なんでしょ」と言いたいわけではなくて、彼のルールでできた面白いものをわけてくれているだけのようだけれど。なんというか、この本をさらりと楽しめる人は羨ましいです。

    • 淳水堂さん
      なつめさん
      最近読み終わったのですが、レビュー読んで「なるほど」でした。
      たしかにこの本をさらりと楽しめる人はすごいですねーー。
      私はやっぱ...
      なつめさん
      最近読み終わったのですが、レビュー読んで「なるほど」でした。
      たしかにこの本をさらりと楽しめる人はすごいですねーー。
      私はやっぱり頭で「どこがどうなってるの?なんで作ったの?何が言いたいの?」って考えてしまう。
      2018/04/28
  • レーモン・ルーセルのエクリチュールは、イノセントという言葉を強く想起させる。これほど、無垢な、目的を持たない言葉があるだろうか。

  • 架空機械の取り扱い説明書。
    死体が動く箱がおもしろい。
    舞台でみたら寝てしまいそうだな…
    想像力を試される書だと思った。これを絵を描け、という仕事がきたら…と思うとゾクゾクする。

  • 天才科学者の邸に招かれてその庭園のキテレツ収集品や発明品についての細かい説明を延々と聞いていくだけ、のストーリー。どんな細部にもいちいち物語が潜んでいて、その神話や逸話を几帳面に語っていく。そのキテレツ発明品の無意味なシュールさにこの上なくわくわくさせられル。風力でたくさんの抜いた歯を使ったモザイク絵を描く気球機械。全く意味解んなくて素晴らしい。でもそれは原文であるフランス語を解体して再構築した言葉遊びに起因するらしい。これが100年も前に書かれたなんて。メタ文学としても最高だ。フランスの金持ちのボンボンだった作者、フーコー、ブルトンなどのシュールレアリスト達に熱狂的に支持された作者、作品に一切の風刺も含まないと断言する作者、レーモン・ルーセルに俄然興味津々だ。

  • ブルトンが熱賛し、レリスが愛し、フーコーがその謎に魅せられた、
    言葉の錬金術師レーモン・ルーセル。
    言語遊戯に基づく独自の創作方法が生み出す驚異のイメージ群は、ひとの想像を超える。
    -パリ郊外はモンモラシー、天才科学者カントレルの奇想の発明品が並ぶ広大なロクス・ソルス荘へ、いざ-


    映画「イノセンス」で暴走したアンドロイド、Type2052 “ハダリ(HADALY)”がロクス・ソルス社製だったことは記憶に新しいと思います。
    本著もまた「イノセンス」の世界観に多大な影響を与えており、
    天才科学者カントレルのロクス・ソルス荘での出来事やイメージを、「イノセンス」の中のキムの邸宅の様子に色濃く伺うことが出来ます。

    本当にあったら、ぜひぜひ、カントレル氏のロクス・ソルス荘を訪れて、驚愕の実験や様々な趣向の数々を見てみたいものです。

    なにしろ本著の世界観が物凄い!

  • 文学

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