子どものための文化史 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
3.70
  • (2)
  • (3)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 95
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582766578

作品紹介・あらすじ

「魔女裁判」「カスパル・ハウザー」「ファウスト博士」「カリオストロ」などヨーロッパの基本問題に触れ、魅力的話題に溢るる書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 前半は、ドイツの子供が聞いたことがありそうな、歴史的事件、人物などに対する、ベンヤミン流の解説、後半はベルリンの人や街の解説からなる。
    後半は、ベルリンについての知識が無いと分かりにくい。ベルリン特有の言い回しについての記述は、多分翻訳ではわからない。
    前半は、選択されている題材、見方ともに、非常に面白い。魔女裁判、山賊、カリオストロ、バスティーユ監獄、リスボン地震など、時代、場所も様々ながら、ヨーロッパの共通意識を作っている物事に対する20世紀の進歩的知識人としての解釈を与える。
    日本でこういう本を書くとしたら、忠臣蔵や、天皇などを題材にするのだろうか。幅広い雑多な事柄に、自分の解釈をつけていくことは、日本の専門家には難しそう。

  • ラジオ放送用の原稿として書かれた本書の断章たちは
    普段の彼の占星術士のような予感に満ちた文章とは趣が違うけれども
    優雅にエピソードを渡っていく手つきは、どれも惚れ惚れとする。

    ドイツ、というよりはベルリンについて語られるその空気は
    日本ではなくて、東京が固有の磁場を持っていることを踏まえて
    現れている文化放送にも似ているような気がする。
    まーどっちも聞いとりませんが。

    しかし、子どもと文化というものの距離といえば
    どんどん切り離しがいものになるでしょう。
    私たちの出生率は下がり続けて、成人になるまでの時間は長くなっていきます。

    遺伝子を中心に進化を語ろうとすれば、
    人間の進化が多様になる可能性は低くなっているし、
    将来に渡って変化していく速度も遅くなっていると言えます。

    それでも、人間は未だしばらく環境の変化に適応しながら生きると思われるのは
    遺伝子によって環境に適応するのではなくて、
    文化と技術によって適応するからです。

    技術は直接的に必要なものであればほとんど
    自動的に保守の動きが起動します。

    しかし、人間の社会のパターンを形作る文化は語られなければ残りません。
    しかも魅力的でなければならないのです。
    ベンヤミンは意識的に語られなければ忘れられるだろうテーマを選んで
    王冠を授けるように(もちろんそれは子ども向けのサイズだが、しかし、儀式としては本式で)
    電波に乗せて届けていったのだと思う。

    扱われたものは
    ジプシー、ドイツの昔の強盗団、ブートレッガーたちなどのアウトロー。
    リスボンの地震、広州の劇場の火事、一九二七年のミシシッピー川の氾濫などの事件・事故。
    それから最後にベルリンの方言、ベルリンのおもちゃの旅などのベルリン風俗。

    どれもこれも強い印象を与える。
    フラッシュを焚いた瞬間の明るさを感じた後に残る映像のように
    読み終わった時には、現在の像とすれ違いながら重なるものにそれぞれの感じ方が現れると思う。

    >>
    ブートレッガーたちが彼らの酒類を確保するために、ありとあらゆる手を編み出したことはあきれるばかりである。かれらは警察に仮装し、ヘルメットの中にウィスキーを忍ばせて国境を越える。かれらは葬列を仕立て、柩のなかに酒瓶を詰めこんで、国境を通過する。かれらはゴム袋でできた下着に酒をみたして、それを着込む。かれらは酒の小瓶を仕込んだ人形や扇を作らせ、それらをレストランで売らせる。そうこうするうちに、雨傘や写真機や靴型といったいかにも無害な品物の中にも、ウィスキーが隠されているのではないかと、税関や警察が気を廻すようになった。(「ブートレッガーたち」p.119)
    <<

    禁酒法は誰のためにあったのか、何かを禁ずるという時に何が起こったか。
    面白げなエピソードだけれど、ほとんどゼロ距離だね。2020年と。

    >>
    ライプツィヒからドレースデンへの鉄道が通じたとき、これに対して、ある粉屋が訴訟を起こした。風車への風が鉄道によって奪われる
    、というのだった。(「テイ川の河口での鉄道事故」p.158)
    <<

    テクノロジーの一番初めの恐怖は滑稽かもしれないけど、皆真剣だし、
    実際にやってないことの問題は、やってみるまで分からなかったよね。

    >>
    その頃中国の皇帝は、異常に高い家々の絵を初めて見せられたとき、かれはひどく軽蔑的に言ってのけた。「ヨーロッパはひじょうに小さい国にちがいない。だからそこの人間たちは地上に住むだけの場所がなくて、空中に住まなければならぬのだ。」(「賃貸集合住宅」p.301-302)
    <<

    土地があっても、高層建築になってしまったベルリン。
    だから皇帝のこの言葉は的外れなのだけれど、僕らもきっとそう思ってしまうだろう。

  • 来年からのゼミの教授が薦めてくれた本のうちの一冊。

    子どものため
    と、書いてあるけれど、
    大人も十分楽しんで読むことができます。

    実際に、ドイツでベンヤミンが子ども向けに
    ラジオ放送していたものを、収録したようです。

    彼の子どもに対して語りかける口調が
    非常に優しくて
    信頼して聞くことができる。
    そんな一冊。

    内容としては、
    目次を見るだけでも心が躍るような

    魔女裁判
    ジプシー
    カリオストロ
    盗賊
    ヴァスチーユ監獄に囚われた王子
    ファウスト博士
    銀行切手詐欺

    などなど、
    歴史上スポットライトが
    当たっていない人々、物事の話ばかり。

    面白いです。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

1892-1940 ドイツの思想家・文学者。「ドイツ悲劇の根源」「パサージュ論」など

「2011年 『ベンヤミン・アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ヴァルター・ベンヤミンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ミシェル・フーコ...
ウンベルト エー...
ミヒャエル・エン...
ミシェル・フーコ...
ヴィクトール・E...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×