昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (548ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582766714

作品紹介・あらすじ

授業形式の語り下ろしで「わかりやすい通史」として絶賛を博した「昭和史」シリーズ戦前・戦中篇。日本人はなぜ戦争を繰り返したのか-。すべての大事件の前には必ず小事件が起こるもの。国民的熱狂の危険、抽象的観念論への傾倒など、本書に記された5つの教訓は、現在もなお生きている。毎日出版文化賞特別賞受賞。講演録「ノモンハン事件から学ぶもの」を増補。

感想・レビュー・書評

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  • 再読。再読ではあるが、最初に読んだのが2007年、今から15年前のことなので、新たに読むのと同じ感覚で読んだ。
    昭和時代である、1926年から1989年が2冊に分けて書かれている。本書はその上巻で、1926年、昭和元年から、1945年、すなわち太平洋戦争終結までを描いている。何故、このような無謀な戦争に突入し、作戦的にも過ちを繰り返し、かつ、悲惨な状態になるまで戦争を辞められなかったのか、ということが主題である。
    少し前に、「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」というNHKが取材し何冊かに分けて書かれた同じテーマの本を読んだ。「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」の方が、その理由を分析的に書いているのに対して、本書は実際に起きたことを読みやすく整理して書いてくれているところに違いがある。
    筆者の半藤一利は、「それにしても何とアホな戦争をしたものか」という一語があるのみ、と書いている。本書を読むと、その言葉の実際に意味するところが非常によく分かる。
    あえて、という形で教訓を探すとすればとして、下記の5つを挙げている。
    1)国民的熱狂をつくってはいけない。その国民的熱狂に流されてしまってはいけない。
    2)最大の危機において日本人は抽象的な観念論を非常に好み、具体的な理性的な方法論をまったく検討しようとしない。
    3)日本型のタコツボ社会における小集団主義の弊害
    4)国際的常識を日本人はまったく理解していなかったこと。国際社会の中の日本の位置づけを客観的に把握していなかったこと。
    5)何かことが起こった時に、対症療法的な、すぐに成果を求める短兵急な発想

    そして、ここまでの昭和史を通しての結論は、「政治的指導者も軍事的指導者も、日本をリードしてきた人びとは、なんと根拠なき自己過信に陥っていたことか」と結んでいる。
    これは、バブル熱狂からバブル崩壊、その後の日本の経済的低迷状態の記述としてもあてはまる部分があるような気もする。

  • 平易な語り口でスイスイ読めるが、時系列が前後したりする部分もあり、しっかり読まないとわかった気になってしまう所もある。

    それにつけても終戦までの日本の昭和史が、今のロシアの状況になんと似ていることか。もっとも日本に独裁者はいなかったが・・

    ロシア国内の状況が本当のところはどうなっているかよく分からないが、プーチンもロシア国民も過去の日本の歴史に学び、無謀で独りよがりの侵略戦争はペイしないことを理解して、一刻も早く戦争をやめてほしい。

  • 名前しか知らなかった事件と事件が、ストーリーとしてつながって理解できた。とても面白かった。

    日本人として知っておくといい内容だと思う。

  • 語り下ろしという形で書かれた昭和史。かなり読みやすく見通しがよい。著者自体の歴史評価については様々な意見があるだろうが(自虐史観だとか)、一つの見方として筋が通っている。昭和史とはいうものの、中身は陸軍・海軍の動きの話がほとんどである。政治は軍隊との関わりでのみ登場するし、戦前の文化について情報は少ない。まして経済状況、企業活動の記述などはほぼ皆無。

    著者の見方から言えば、太平洋戦争に結実する昭和史において、指導者たちは客観的事実に基づく判断をせずに見たいものだけを見て、精神論や建前・義理に引きづられている。「昭和史を見ていくと、万事に情けなくなる」(p.267)、「何とアホな戦争をしたものか」(p.498)というのが基調として流れる。読んでいるとなかなか暗澹たる気分になる本でもある。明治維新(1867)から始まる近代日本の建設は、日露戦争(1905)までのおよそ40年間でピークを迎える。それ以降の40年間は敗戦(1945)に向かって国が滅んでいく過程である(p.500)。ちなみに言うと、戦後は高度成長期を経て約40年間で再びピークを迎える(バブルを経て日本経済が凋落するきっかけの一つであるプラザ合意は1985年)。そこから国が滅んでいく40年の過程に我々はいまいるのかもしれない(2025年に何が起こるだろうか)。

    ひとまず著者の歴史観に乗るとして、軍部の暴走を政治(や軍部の上層部でさえ)が止められなくなった原因は2つにある。一つは昭和天皇の沈黙(p.50f)。田中義一首相にあれこれと介入した挙句、田中義一内閣が倒れ、田中義一本人も病死してしまう結果に至る(1929)。これが昭和天皇および元老、侍従長といった天皇の周囲の人間にトラウマを残す。これ以降、昭和天皇は「君臨すれども統治せず」となり、終戦の決定までほぼ沈黙となる。明治憲法の根本的な欠陥として、軍隊が内閣の管理下になく、天皇が大元帥として統括する。したがってその天皇が沈黙する以上、軍隊を最終的に統率する人間がいなくなってしまう。
    もう一つの原因は2・26事件にある。これ以降、軍内部のクーデターを恐れて、軍の上層部でさえ青年将校を始めとする血気盛んな意見を止められなくなってしまう(p.301)。上層部は主張しているのは自分たちでなく部下であるとして心情的に責任を転嫁、下層部は黙認とはいえ上層部は許可したのだと考える。ここに誰も責任を取らない体制ができあがる。しかし問題は2・26事件そのものより、それに対する広田弘毅内閣の対処である。これは「とんでもないことばかり」(p.147f)。まず軍部大臣現役武官制の復活。これにより軍部が反対して陸軍大臣・海軍大臣を推挙しなければ政治が止まり内閣が倒れるという事態が生まれる。さらにドイツとの防共協定。日独伊三国軍事同盟への道を拓く。三番目に陸軍と海軍の話し合いにより、南進論が決定されたこと。

    また大きなファクターとしてはワシントン条約による海軍軍縮(p.28)、国際連盟離脱による国外情報の謝絶(p.114f)がある。とはいえ、高橋是清を中心とする軍事費削減の話の件はあまり出てこない。

    他に印象に残るところは1933年の大阪府警察と陸軍の対立に見る、軍国主義への最後の抵抗(p.123-126)、陸軍内の統制派と皇道派における階級闘争(p.147f)、陸軍との対立を避け、軍事費を確保するために(アメリカとの戦争になったら勝てる見込みが無いことが図上演習で何度も明らかになっているのに)三国同盟に賛成する海軍(p.299f)。山本五十六の残した言葉が心に残る。「内乱では国は滅びない。戦争では国が滅びる。内乱を避けるために、戦争に賭けるとは、主客顚倒もはなはだしい」(p.300)。

    陸軍の暴走ばかりが目立つような記述だが、海軍善玉説には乗らないようにバランスを取っている。海軍がまともな判断ができたのは米内光政、山本五十六、井上成美という三人がいたからであって、この三人がいなくなれば海軍も無謀な主戦論一方になったと言う(p.246f,288-294)。

    著者が昭和史から導いている5つのポイントを記しておく(p.503-507)。(1)国民的熱狂に流されたこと。この傾向はいまでもよくある(反原発ブームなど)。(2)抽象的な観念論を好み、具体的・理性的な方法論をまったく検討しない。(3)参謀本部と軍令部に見られる、小集団エリート主義。ある認められた立場の人間の意見を除き、他の意見を認めない。(4)国際常識の無さ。ポツダム宣言の受諾は単なる意思表明で、降伏文書の調印をもって発効するという認識がなかったのでソ連侵攻を招いた。(5)大局観、複眼思想のない対症療法、すぐに結果を求める発想。

    それにしてもここまで陰鬱な気持ちになる読書も珍しい。歴史評価というのは難しいものだが、あまり入れ込みすぎる歴史書もどうかと思う。入れ込むのであれば、そのような事態を引き起こしたものが何なのかを語らなければならない。ただ悲惨でアホな出来事が起こったとか、人物を糾弾することには意味が無い。昭和史から5つのポイントを引き出すなら、それらを生み出したものが何のなのかを考えなければならない。畢竟、それは明治憲法を始めとする明治政府の構造に由来してしまうので本書の範囲を超えるのかもしれない。この点ではとても薄っぺらく感じる一冊だ。

    おそらく著者に欠けていて、この本を薄っぺらくしている視点は、「国民」だろう。太平洋戦争は単なる軍部の暴走とそれを止められない指導部によってなるのではない。国民自体が戦争を煽り、さらなる戦果を求め、政治や軍をけしかけた側面がある。それはマスコミと一体になって進行した。こうした側面はこの本から根本的に欠如している。それはマスコミが開戦に果たした役割に目を向けられない、著者(元新聞記者)の限界かもしれない。

  • 張作霖爆破事件から太平洋戦争の終結まで、なぜ戦争が始まり、戦争が拡大し終結が遅れたのか、著者の平易な語り口でまとめた大書。日本の国民性の負の面が積み重なってしまった不幸な歴史をしっかりと見つめ、学び、同じ過ちを繰り返してはならないと思います。

    ・歴史はリアルな事実の塊、そこから学ぶべきことはとても多い。但し、各々がもっと歴史から「学ぶ」という気持ちを持つことが大前提。

    ・不都合なことは起きないこととするという発想、大局を踏まえ先々を見越そうとせず、現状を改めることをせず、個々の事象に対する根拠のない自信に基づいた行き当たりばったりの対処療法を積み重ねた結果の大敗。

    ・メディアの重要性を再認識。国民の熱狂が国を危うくする。その熱狂を引き起こすのはメディア。メディアは常に冷静で中立性を保たなければならない。

    ・国民はもっと政治に関心を持ち、関与しなければならない。政府の要人に付く人が「そんなことするはずはない」という前提ではダメ。

    ・後から振り返っているから「何て馬鹿なことを・・・」っと言えるが、今の日本でも同じような馬鹿ことを行ってないか?と常に歴史と照らし合わせて検証をしてみる必要がある。

  • 歴史をキチンと学んでいなかったので
    この辺りは よくわかっていませんでした。

    が とてもわかりやすく書かれていて
    勉強になりました

  • 「日本のいちばん長い日」が映画化された時にその原作と一緒に買って以来ずっと積読。平成が終わって、令和になってやっと読了しました。
    まずは、終戦の夏まで。いかに戦争を始め、いかに戦争を続けるかの20年。
    歴史に学ぶことの難しさも痛感。かつての軍事大国日本を批判する諸外国の人にも読んでもらいたい。
    時の勢いに駆り立てられてはいけない。日本人は抽象的な観念論を好み、具体的な理性的な方法を検討しない。タコツボ社会における小集団主義の弊害。国際社会の中での位置づけの客観的認識不足。対処療法的な短兵急な発想。
    昭和20年8月の数週間の判断が、もう少し早く正しいものであったならば、多くの命が救えたのにな。

  • 2017/8/30やはり噂通り濃い内容だった。★5

  • 黒船来航から明治維新を経て、列強の仲間入りを果たした日本。昭和に入って、自らの力を過信して、結果的に敗戦という結果を招いたのだと思う。戦況が芳しくなくとも、そういった不都合な真実にはひたすら目を背け、抽象的・扇動的イデオロギーを信奉する姿勢。数百万人の命と引き換えにするにはあまりにお粗末ではないか。読んでいて、胸が痛くなる。
    敗戦から72年が経過して、我々の生活もまるで変った。しかし、日本人の根底にある甘ったるい精神構造はそこまで変わっていないのではないか、と不安になる。福島第一原発事故、大企業の製品欠陥、探せばいくらでも出てくる。「何とかなる」では済まされないし、起きてからでは取返しがつかない。
    現代の日本に住んでいれば、戦争なんて縁遠い話にしか聞こえないというのも理解できなくはないが、惨事を招いてしまった原因に目を向けて己を律しない限り、また別の形で惨事は発生してしまうのではないか。歴史を学ぶ意味はそこにこそあるのだと強く感じる。

  • 1926-1945:B210.7-ハン-1
    300524444
    戦後篇 1945-1989 :B210.7-ハン-2
    300524436]
    近年、日韓、日中の関係が以前に比べてギクシャクしています。これに関して多様な意見が出されていますが、特に若い人の意見の中には自分で歴史的な事実を勉強することなく、ネットなどに流される意見をベースにした意見が多く聞かれます。高校では習わなかった日本の近代史をまずは勉強して広い視野で現在の問題を考えて貰えればとおもいます。昭和史に関しては近年いろいろな立場からの著作が発行されていますが、先ずは手始めとしてこの本をお勧めします。著者の意見に疑問を感じたらさらに他の著者の昭和史を勉強して、自分なりの考えを持っては如何でしょうか。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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