怠惰への讃歌 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
3.57
  • (9)
  • (8)
  • (12)
  • (6)
  • (0)
本棚登録 : 386
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582766769

作品紹介・あらすじ

労働生産性が向上して、それでも同じように働けば、過剰な生産と失業が生まれるのは当然。では、どうすれば?働かなければいいんです!働くこと自体は徳ではない。働かない時間を、価値ある生の時間を得るためにこそ、人は働く。明快に説かれる七十余年前の提言、半世紀前の翻訳が、いまこそ深く胸に落ちる。十五篇の名エッセイ。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ティム・フェリス『俺の生存戦略』で言及

    ・1日4時間の労働で、生活の必需品と生活を快適にするものを得るには十分

    ・余暇ができたときには、人々は疲れていないから、職業に使わない時間を公共的に意味のある研究に注ぎ込むことができる。

    ・その研究は人々の生活に必需のものではないので、邪魔をされない。

  • 著者は「労働を徳とみなす誤った信念が多くの害悪をこの世にもたらしており、仕事を減らすことが幸福と繁栄に至る道である」と説く。一例。瓶を1日8時間労働で世間に必要な数の瓶を製造していた。ある日、2倍の製造方法を発明したとする。分別がある瓶の製造者ならば8時間労働をやめ4時間労働とし、残る4時間を自分の時間とするが、実際にはそうせず8時間労働を続ける。すると、瓶は過剰生産され、経営破綻により業界の半数は失業も。至るところで不幸を起こすことになる。本来ならば、閑暇が人間本来の学問や芸術といった活動を可能とするのに。。。

  • 15篇のエッセイが載っているが、書名にもなっている1章の「怠惰への讃歌」が胸に刺さる。

    テクノロジーの発展で生産性が上がっているのに、労働時間は減らない。
    「労働は美徳」という価値観が人間たちを暇にさせない。
    1日のほとんどを仕事に費やし、残りはそれの回復に費やすような人生にはしたくない。

    学校や教育機関、親からの教育では「従順であること」・「受動的や集団的であること」を良いことと刷り込まれる。
    それが勤労の道徳=奴隷の道徳を増殖させている。
    みんな忙しい、みんな暇がない、みんなが買っているから自分も買う、そんな空気を読んで一本調子の現代になっていく。

    「もっと生産!もっと消費!」をやめたいと強く感じる本だった。

  • 1930年代に書かれたイギリスの哲学者ラッセルの社会批評的エッセイ。

    ・仕事そのものは立派なものだという信念が、多くの害悪をこの世にもたらしている
    ・幸福と繁栄に到る道は、組織的に仕事を減らしていくにある

    ひまの分配。ひまを上手く使うとは。
    もはや感動した。

  • いかにも英国らしいシニカルなユーモアのあるエッセー集。

    生産効率の上がった現代では1日4時間労働にして閑暇を人生のために使うべきという表題作は、現代のワークシェアリング論の祖形ともいえるが、働く根本の意味を閑暇を得るためとする根本的な議論である。

    貨幣への過度の崇拝(現代版マイダス王)への批判も、いわゆる資本原理主義批判に通ずる部分はあるが、情緒ではなく論理によっている。

    ファシズム、共産主義といった「極論」への批判は全く同感。社会計画に重きを置いているのは古臭いが、市場メカニズムへの理解は、適切な規制方法も含めてこの時代より格段に進んだと言うべきであろう。

    アメリカの標準化、画一化を皮肉りつつも、ある程度共感しているのはおもしろい。

  • > 歴史的に見ても、地主たちが快適な怠惰を求めたことが労働賛美の源泉でもあるのだ。彼らは絶対に、他の人々も自分たちと同じように振舞うことを望まない。

    世の中の価値観は、権力者たちによって作られている。
    昔も今も、それは変わらない。

    いま、ただ勤勉に働くこと以上に、クリエイティブに働くことが賛美されているけど、新世代のネットビジネスを支配している人達がそれを望んでいるのかもしれない。

    社会的背景はさておき、クリエイティビティの本質は、他人の評価に惑わされず、自分自身で価値を見出すことにある。その価値が何なのかを考え、それを求めて実際に行動してみる余裕を持つことが、この本がいうところの「怠惰」を意味していると思う。
    真面目に実践すると、その「怠惰」は決して楽ではなく、むしろ予測できない苦難に遭うかもしれないけど、それを恐れて無難に生きようとする弱い心が、まさに支配者の搾取を許す元凶のようだ。ちゃんと「怠惰」するには強い意志がいる。

  • 原題:In Praise of Idleness, and Other Essays (1935)
    著者:バートランド・ラッセル
    訳者:柿村 峻 (1902-1987)
    訳者:堀 秀彦 (1906-1997)

    【感想】
     訳文は若干ぎこちないが、「日本の労働イデオロギー 半端ないって!」と辟易されている皆さんにおすすめ。

    【書誌情報】
    価格:1,300円+税
    出版年月日:2009/08/01
    ISBN:9784582766769
    版型:B6変 272ページ
    品切れ・重版未定

    労働生産性が向上して同じだけ働けば過剰生産と失業が生まれる。ではどうすれば? 働かなければいいんです! 七十余年前のエッセイが今こそ胸におちる。解説=塩野谷祐一 
    http://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b160867.html

    【簡易目次】
    序 [005-007]
    目次 [008-009]

    第一章 怠惰への讃歌(1932年筆) 010
    第二章 「無用」の知識 033
    第三章 建築と社会問題 052
    第四章 現代版マイダス王(1932年筆) 069
    第五章 ファシズム由来 090
    第六章 前門の虎,後門の狼――共産主義とファシズム 120
    第七章 社会主義の問題 133
    第八章 西欧文明 172
    第九章 青年の冷笑(1929年筆) 193
    第十章 一本調子の現代(1930年筆) 206
    第十一章 人間対昆虫(1933年筆) 218
    第十二章 教育と訓練 222
    第十三章 克己心と健全な精神(1928年筆) 232
    第十四章 彗星について 247
    第十五章 霊魂とは何であるか(1928年筆) 250

    解説(堀秀彦) [257-261]
    平凡社ライブラリー版解説――怠惰礼讚(塩野谷祐一) [262-271]

  • 「あんまり働かなくても幸せに暮らせる」社会を目指そうというラッセルの理想は素敵だ。技術が発展し、経済的に豊かになっても、まだ不安が伴う社会はおかしい。
    なぜ政治家たちは右も左も「働け、働け、死ぬまで働け」と号令をかけるのか。
    人口が減るから、働かなければならないのか。
    働くことも含めて「やりたいことができる、やりたいことがなければ、何もしなくても、普通に『文化的な暮らしが』(決して『最低限の』ではない)社会を目指したい。表題作も含めたラッセルのとぼけたユートピア論をimagineしましょう。
    巻末の塩野谷祐一先生の解説も素晴らしい。

  • 生産に重きを置きすぎて狂ってしまった現代を見事に指摘している。
    これが1930年前後に書かれたものには思えない。
    もちろん現代から見ると妙なことも書いてあるが、そこはご愛敬。
    新しい解説のほうはよくまとまっていてよかった

  • 141101 中央図書館
    ラッセルといえば入試英語であった時代は、とうに過ぎた。この本におさめられたエッセイも、WW2前に書かれた相当に古いもの。その時代のイギリスの良識を体現する頭脳が、共産主義とファシストが世界を荒らしつつある様子を見つめている。そして、穏健な社会主義的考え方をベースに世界を見つめ直す思索を、正確で輪郭のはっきりした平易な言葉で語る。乱暴で性急なもの、思考より先に試行錯誤の行動という20世紀型の社会原理にほのかな嫌悪感をいだく様子が見て取れる。
    ラッセルはケインズとも交友があったという。社会をとらえる見方に共通するものがあるだろう。

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1872-1970。イギリスの哲学者。17世紀以来のイギリスの貴族ラッセル家に生れる。ケンブリッジ大学で数学・哲学を学ぶ。1895年ドイツを訪れ、社会民主主義の研究に打込む。1910-13年にはホワイトヘッドと共に画期的な著作『プリンキピア・マテマティカ』(3巻)を著わし、論理学や数学基礎論に貢献した。第一次大戦が勃発するや平和運動に身を投じて母校の講師の職を追われ、1918年に4カ月半投獄される。1920年労働党代表団とともに革命後のロシアを訪問。以後社会評論や哲学の著述に専念、ヴィトゲンシュタインとの相互影響のもとに論理実証主義の形成によって大きな影響を与えた。1950年哲学者として3度目のノーベル文学賞受賞。また原水爆禁止運動の指導者のひとりとして99歳の生涯を閉じるまで活動を続けた。多数の著作のうち邦訳の主なものは『西洋哲学史』(1954-56)のほか『懐疑論集』(1963)『ラッセルは語る』(1964)『人生についての断章』(1979)『私の哲学の発展』(1979、以上みすず書房)『哲学入門』(1965、角川書店)『ラッセル自叙伝』(全3巻、1968-73、理想社)など。

「2020年 『西洋哲学史【新装合本】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

バートランド・ラッセルの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ミシェル・フーコ...
ウンベルト エー...
ミヒャエル・エン...
J・モーティマー...
村上 春樹
國分 功一郎
三島由紀夫
村上 春樹
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×