オーウェル評論集 1 象を撃つ

制作 : 川端 康雄  George Orwell 
  • 平凡社
3.69
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本棚登録 : 70
レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582766875

作品紹介・あらすじ

玻璃のように澄んだ言葉で大英帝国への憎しみを語ったオーウェル、「右であれ左であれ、わが祖国」と、英国への愛を語ったオーウェル、どちらもおなじディーセントなオーウェル。英国植民地政策を批判した「絞首刑」「象を撃つ」、一民兵として戦争の内実を綴った「スペイン戦争回顧」、子供時代のアイロニカルな回想「あの楽しかりし日々」など、"経験"をテーマとした自伝的エッセイを収録。

感想・レビュー・書評

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  • 「象を撃つ」を読みたかったので借りてきた本で、「絞首刑」「象を撃つ」だけ読んだが、面白かった。

    「絞首刑」
    看守たちがインド人に死刑を執行する様を描く。主人公は、他の看守とともに、あるインド人を執行場まで引き立てていく。その途中で、インド人は水溜まりを避ける。それを見て主人公は、彼も生きている、自分と同じ人間なのだと気付く。また、執行後、看守たちは妙に明るく振る舞う。
    上に立つ側の人間が、支配下に置いている人間が実は自分たちと対等な存在他なのだ、と気づいて「しまった」とき、支配する側の人間にも迷いが生じたのだろう。しかし、現場の支配者を支配する人間もいる以上、彼ら現場の支配者は、支配者として振る舞う以外の選択肢を持たない。

    「象を撃つ」
    こちらも支配・被支配を描いた作品。
    警官である主人公は、逃げ出してしまった飼い象をどうにかしてほしいと頼まれる。自衛のためにライフルを持っていくが、それを見た被支配者たる地元住民は、警官は象を殺すのだと思い込み、肉や象牙欲しさも手伝って?、見世物に大いに期待を寄せる。主人公は、象を殺したら、飼い主との間に問題が生じることをわかっていて、しかも象を殺したくなどないのに(象は既に大人しくなっていた)、支配者としての行動を迫られる。
    「力ある支配者」という像を、彼は守らなければならなかった。被支配者が支配者を操るという構図、非常に面白かった。実際に政策を決定する場でも、そのようなことがあったのかもしれない、と想像させられる。すなわち、「こんな生半可な政策をとっているようでは、あいつらになめられてしまう」というような決定のしかたも、少なからずあったのではないか。

  •  トランプ政権になってからというもの、ジョージ・オーウェルの「1984年」が世界中で空前のブームとなっているようで、なんとも笑えないジョークで恐ろしい。たしかに、全体主義は差別や人権の不平等から始まるのですから(-_-。「1984年」も「動物農場」にしても、全体主義に向かう静かで不気味な過程や、その後の陰惨で破滅的な世界を、オーウェルは透徹した筆致で描いていて、まことに秀逸な作品だと感激します。

     そんなオーウェルの評論集を読んでみると、ますます彼の観察力の高さが伝わってきます。文筆家としての視点、政治と世界情勢、ユーモアの分析、イギリスの風土や民衆の文化など多様性にとむ数多くの評論が紹介されていて面白いです。なかでも№1の<像を撃つ>と№2<水晶の精神>は私のお気に入り(^^♪ (でもあぁ…№4の<ライオンと一角獣>の愛国心の考察は面白い)

    「私が本気で書いた作品は、どの一行も、直接あるいは間接に全体主義に反対して書いたもの」

     まったく臆することなく自らの執筆態度を表明する勇気には驚嘆します。そしてなんといってもオーウェルの文章は明快でわかりやすいのです。率直で気負わず、奇をてらうこともなく、ごてごてした飾り気もない、余計な描写や的外れで使い古されたような比喩を持ちだすこともありません(ちなみにオーウェルがひとたび比喩を使うと、そのあまりの素晴らしさにほれぼれします。タイミングのよさ、読者の読みと想像を決してとどこおらせることのない流暢さ、生き生きとした斬新な描写……ふと誰かのそれと似ていると思いきや、夏目漱石でした(^^♪

     ずばり核心に切り込んでくる洞察力の鋭さに思わず私はたじろいでしまって、ときには行を読み進めることが怖くなることもあります。でもだからこそ、彼が本気で書いた作品は普遍的名作として世界中で読み継がれているのでしょう。一方で、人はいとも容易に忘却の水を飲み干してしまい、またぞろオーウェルの描くような歴史を直接あるいは間接に繰り返そうとするのかな……そんなやりきれなさを覚えながら、でもでも彼の言葉のひとつひとつに力が宿っていて、くりかえし読まずにおれない魅力がいっぱいです♪

    「その虚偽とは、独裁的政府の下にあっても、内面は自由であると信ずることである。……かなり多くの人がそう考えて自分をなぐさめている。なぜこの考えが虚偽なのか。現代の独裁は、実際には昔流の専制支配のようにすきまを残しておかないという事実にはふれないでおくとしよう。また、全体主義的教育方法のために知的自由を求める欲求がおそらく衰えるであろうことにもふれない。そのもっとも大きな誤りは、人間が自律的な個人であると思っていることである。専制政府の下で秘密の自由が享受できるなどと思うのはナンセンスである。なぜなら、人の思想はけっして完全にはその人自身のものではないからである。哲学者、作家、芸術家あるいは科学者さえもが、はげましや読者だけでなく、他の人々から不断の刺激を必要としている。話すことなしに考えるのは、ほとんど不可能である……言論の自由を取り去れば、創造能力は干上がってしまうのである」

  • 偉くあるための不自由がある(らしい)社会の上の方の権力構造ってこんな感じなんかな

  • 経験をもとにした評論をメインに収録。難しいセンテンスを用いずに、純粋な感情を発信するオーウェルの文章は、彼が敵視するナチズムのプロパガンダのようでもあるが、それが経験から絞り出されている意味合いで大きく深みがあった。ユーモアもあり、楽しく読めた。

  • 象をうつはよかった。

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著者プロフィール

1903-50 インド・ベンガル生まれ。インド高等文官である父は、アヘンの栽培と販売に従事していた。1歳のときにイギリスに帰国。18歳で今度はビルマに渡る。37年、スペイン内戦に義勇兵として参加。その体験を基に『カタロニア讃歌』を記す。45年『動物農場』を発表。その後、全体主義的ディストピアの世界を描いた『1984年』の執筆に取り掛かる。50年、ロンドンにて死去。

「2018年 『アニマル・ファーム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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