- Amazon.co.jp ・本 (549ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582767506
作品紹介・あらすじ
ヨーロッパ各地で、現代の国民語のもとになった俗語が擡頭しはじめた時代、バベル以前、多言語状態以前の単一の祖語「アダムの言語」への復帰、あるいは"完全言語"の再建への探求が始まる。そこに投入される、さまざまな理説、我々にも親しい哲学者や思想家を含む多彩な人々の情熱、百科全書や、コンピュータ言語、またエスペラントなどにも行きつくその多様な道筋を、練達の筆で見事にさばき描き切るエーコの傑作思想史!待望のライブラリー化。
感想・レビュー・書評
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篠山
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原書名:La ricerca della lingua perfetta nella cultura europea
アダムから「言語の混乱へ」
カバラーの汎記号論
ダンテの完全言語
ライムンドゥス・ルルスの「大いなる術」
単一起源仮説と複数の祖語
近代文化におけるカバラー主義とルルス主義
像からなる完全言語
魔術的言語
ポリグラファー
アプリオリな哲学的言語
ジョージ・ダルガーノ
ジョン・ウィルキンズ
フランシス・ロドウィック
ライプニッツから『百科全書』へ
啓蒙主義から今日にいたるまでの哲学的言語
国際的補助言語
著者:ウンベルト・エーコ(Eco, Umberto, 1932-2016、イタリア、小説家)
訳者:上村忠男(1941-、尼崎市、思想史)、廣石正和(1956-、熊本県、思想史) -
【由来】
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【期待したもの】
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※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。
【要約】
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【ノート】
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【目次】
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地域研究と異文化理解[Regional and Cross-Cultural Studies]
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3/4 読了。
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ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』以来の傑作で、この『完全言語の探求』は思想書でありながらもエーコのナラティヴへの傾倒は表現されていると思った。つまり小説として読んでも十分面白く、それこそ同じく思想的作品像のボルヘスやジョイスと同じ要領で楽しめる。「語り」の巧みさがエンターテインメントの機能を備えているのだ。小説だけに限らず、こうした思想書にも小説の旨みはある。
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さほど期待していなかった本ながら、読んでみるとなかなか面白かった。やや厚めの文庫本だが、文章も読みやすく、興味深いトピックが次々と出てくるので一気に読めた。
書名の「完全言語」というのは、エスペラントのような普遍性を狙った人工言語のことかと思ったが、そうではない。エスペラントの話題も最後の方に少し出てくるが、大半は遙かな太古、人類の黎明期にあったと想像される「原初の人間が持っていた言語」の探求についての歴史である。
話はヨーロッパに限定されており、つまり、キリスト教に支配された世界観の内部の歴史だ。聖書(創世記)によると、人間が思い上がって天まで届こうとバベルの塔を建立したところ、神が怒ってこれを破壊し、ついでに「互いの言うことがわからないように」人間の言語をバラバラにしてしまった。
これに則れば、こんにちの多文化・多言語現象は「バベル以後」の苦難なのである。
バラバラになった世界を、神の意志を伝える「教会」によって統一しようと目論むキリスト教思想は、一方で、バラバラになる前の原初の言語を探求しようと、中世から近代に至るまで連綿と努力を重ねることになる。その原初の言語とはすなわち、アダムが使っていた言語であり、それは神と対話できる言葉であり、従って「完全」なのである。
このキリスト教的テーマに基づいて、言語学あるいは文化史的なトピックが沢山飛び出してくるのが圧巻。
さすが、博識なエーコである。この人のイメージはマンガに出てくる「ハカセ」だ。ハカセは都合の良いところに出てきて、事態に解説を与えることにより、周囲の人びと(子どもたち)の世界観を一気に豊かにしてくれる。
ライプニッツの、まだよく知らない側面についても詳しく書かれていて興味深かった。薔薇十字団も登場する。