文学におけるマニエリスム 言語錬金術ならびに秘教的組み合わせ術 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (703ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582767698

作品紹介・あらすじ

文学におけるマニエリスムの展開の諸相とその本体を、ヨーロッパ世界の厖大な作品のうちに追い求め、レトリックや文体論、神秘主義や錬金術、その他多種多様な領域を精神史的洞窟学が探査するとき、解体し断片化する世界と時代の別の光景が立ち現われる。美術史の局所からこの概念を解放し、精神史的"常数"にまで鍛造した鬼才ホッケの、種村季弘翻訳になるこの圧倒的書物、待望の再刊。『迷宮としての世界』姉妹篇。

感想・レビュー・書評

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  • 『迷宮としての世界』でマニエリスムを〈ヨーロッパの常数〉として定義しなおしたホッケが、文学のなかにこそ明確に見いだすことができる〈マニエリスム的なるもの〉を膨大な文献から汲みあげていく。美術史の一区分だったマニエリスムが精神史・観念史に展開可能な概念だと説く、歴史的大著。


    ホッケの文章、学術的というにはあまりに情熱的で、それゆえに炸裂する魅力があるのは十分にわかるしこういうタイプの学者は好きなんですが、なんとなく掴めてきたと思ったら次の一行でギュンと突き放されるような暴走具合に450頁付き合うのがなかなか大変(笑)。これに振り落とされまいとみんなが食らいついていった時代が高山宏の言う60年代のアツさなんだろうな。
    とはいえ、本書では言語芸術を扱っているので、例示が具体的でレトリックの解説もわかりやすい。巻末にもマニエリスム詩アンソロジーがついているので、とにかく具体例が豊富。第一部~第三部まではおもに詩について。古代ギリシャ時代から語り起こし、ヨーロッパの伝統が〈アッチカ風〉の古典主義と〈アジア風〉なマニエリスムの二項対立によってできあがってきたと説く。第一部の最初の章「ヨーロッパの隠れた緊張の場」は、『迷宮』から発展したマニエリスムの定義がまとめられていて、おさらいのようにも読める。
    アッチカ風とアジア風の対立は、ミメーシス(自然の模倣)とファンタジアの対立として描きだされる。そして読者は人工的で装飾的なレトリックを駆使したマニエリスム詩の世界へ案内されていく。ここからホッケの独壇場で、16世紀の話をしていたかと思えばマラルメやノヴァーリスを自在に召喚してくる(特にノヴァーリスはマニエリスム詩研究の先達として援用されているようだ)。そうして「太古的なものの再発見」を目指し、「神話的魔像」を知性化させようとしたマニエリスム詩が錬金術・カバラ・ネオプラトニズムに思想的ルーツを持つことを明かしていく。ここで種村訳の傑作造語として名高い「綺想主義 Concettismus」が登場。ホッケは「驚異」「狂気」「崇高」を尊ぶマニエリスムの遊戯性が、既存秩序の崩壊に対応する切実な手段でもあったことを、『迷宮』から続いて主張する。第三部は澁澤や種村に与えた影響が如実に読み取れてめちゃくちゃ面白く、ここを読み終えて集中力が一度途切れてしまった。
    第四部は音楽、演劇、小説を題材にマニエリスム論を応用させていく。面白いのは、音符の組合せ術である音楽を錬金術的なものとしてバロック音楽を解体していくところだろうか。ダイダロスとディオニュソスというマニエリストを象徴する神話的存在についても語られる。ここは完全にニーチェ。
    第四部はパスカルを中心に、神学や哲学の世界に表れるマニエリスムを見ていく。キリスト教神秘主義のなかの肉体と精神、アポロンとディオニュソス、相反物の統一を成し得た唯一の〈人間〉、イエス・キリストという視点が与えられる。パスカルを読んでないのでわからんところも多かったが、近代的な神の概念が出来上がってくる裏で、マニエリスムの「変則的神話」が関与しているということらしい。
    『迷宮』の感想で「クレリチびいきなのが嬉しい」と書いたら、本書の訳者あとがきでホッケがクレリチと一緒に来日して天ぷら屋にいくほど仲良しと知ってズッコケた(笑)。いや、作風が好きだから仲良しだったんだろうけど。しかしホッケ、クレリチ、種村で天ぷらを食べた夜があったなんて……ポワーンとしてしまう。

  • 松岡正剛の千夜千冊『迷宮としての世界』によると、
    引用<<本書(引用者註「迷宮としての世界」)は、このようなマニエリストたちの古今にわたる試作と冒険の大半をイメジャリーに話題にした記念碑である。文芸的な試作と冒険については、このあとに書かれた『文学におけるマニエリスム』のほうに網羅されている。個々の作品例についてはこの2冊にあたられるのがいい。作家名と作品例の多さに驚くだろう。>>
    http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1012.html

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著者プロフィール

(Gustav René Hocke)
1908年ブリュッセルでドイツ系の父とフランス系の母のもとに生れる。ベルリン大学在籍中にE. R. クルツィウスの著作に触発されてボン大学に移る。長期のパリ留学を経て1934年に師の審査のもとで哲学博士の学位を得る。同年ケルン新聞に入社。最初のイタリア旅行後イタリアと大ギリシア文化の研究に没頭する。1940年ケルン新聞ローマ特派員。戦争による中断後1949年戦後初のドイツ通信員としてローマを再訪し精力的なジャーナリズム活動を続ける傍ら包括的なマニエリスム研究に従事。その後は今日の世界における人間の地位に関して、文学と芸術の間の関係を主な研究テーマとした。1985年7月14日死去。1950年来ドイツ言語文学アカデミー会員、1969年イタリア共和国地中海アカデミーの、1970年ローマのテーヴェレ・アカデミーの会員。1978年ウィーン芸術大学から教授の称号を贈られ、またヴィエンナーレ国際美術批評賞を受賞したほか各国政府から数々の顕彰を受けている。主な著書は、著者のライフワークであり本書をも含めてマニエリスム研究の三部作をなす、『迷宮としての世界』(1957)、『文学におけるマニエリスム』(1959)が知られている。

「2014年 『ヨーロッパの日記 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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