愛書狂 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582768114

作品紹介・あらすじ

「稀覯本余話」「愛書家地獄」「ビブリオマニア」――19世紀フランス、古本道楽黄金時代のフローベール、デュマら、名だたる書物狂いによる〈書痴小説〉アンソロジー。本の病は不治の病……。

感想・レビュー・書評

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  • ビブリオマニアとは、書物の装丁の美しさや稀少価値にこだわり、その蒐集に取りつかれた人たちのこてで、私のように何冊積んでもそのうち必ず読むことを前提に本を買っている普通の読書人とは、ちょっと違うみたい。それでも面白かったのは、どちらもかかったら治る見込みのない病気、という点で共通しているからかな。フローベール「愛書狂」ノディエ「ビブリオマニア」がその書痴ぶりを強烈に表していると思うけれども、両方とも実在のモデルがいたなんて!恐るべし...。

    ちなみにもともと白水社から出た単行本は、普及版以外に題名にふさわしく野中ユリ装丁の豪華な革張り、函入りの部数限定本があるそうで、見るだけでも見てみたい。できれば触りたい。

  • 生田耕作が編んだ19世紀フランスの「愛書小説」集(ただしイギリスの作家の作品も一つ含む)。「愛書小説」なる分野が存在していたことに驚く。19世紀フランスはビブリオマニアの黄金時代であったという。



    本書所収の作品では、書物への愛は、「文学への関心とは別個に、書物をそれ自体独立したものとして観賞する、すなわちその外的形態、用紙、印刷、装丁などを愛で、もっぱらその造形的美しさ、稀少性、保存程度などに書物の価値基準を置く」ブルジョア的な俗物趣味の一変種として描かれている。登場する愛書家たちの心性も、ありふれた近代人そのもの。

    「虚心に我々の良心に照らし合わせてみるならば、如何に純粋なものであれ、およそ趣味[マニア]と名がつくからは、物欲、贅沢、思い上がり、執着、義務への怠慢、隣人への蔑み、こうしたものをすべて含んでいるとは言えないだろうか。さよう、これら禁断の果実を摘み取る連中のうち誰か一人でも見かけたおりには、その悦楽時の瞳を窺ってみるがいい、そこには賭博師の激情や放蕩者の横暴さにも似たなにものかが見出せないだろうか」

    「彼の言う〈罪のない趣味〉は実際には地獄堕ちの大罪をほとんど一つ残らず、いずれにしたところでそのうちの現在にも通用するものを数多く含んでいたからだ。例えば隣人の蔵書を欲しがったことがないとはいえない。その機会があれば本を安く手に入れ、それを高値で売り払い、文学を商売の位置[レベル]にまで引き下げたこともある。本屋の無知に付け込んだことも。嫉み深く、他人の幸運を怨み、失敗を喜ぶ。貧窮の訴えには俄か聾をきめ込む。贅沢好きで、自分一人の楽しみに分不相応な金を費やし、古いアランソン編みのレースなどを頭に描いて空しく嘆息する夫人を尻目に、度々モロッコ革を使って本を飾り立てる。貪欲で、傲慢で、嫉み深く、吝嗇で、そのくせ浪費家で、おまけに取り引きにかけては抜け目なく、・・・。」

    本格的な近代社会の到来を目の当たりにした19世紀フランス文学の感性に馴染んだ描かれ方とでも云おうか。



    しかし、書物の魅力はブルジョアの所有欲や蒐集欲を満たすだけのものではない。もっと根源的で形而上学的な何か、個人を超え出たヨリ大いなる《永遠客体》に通じていく何か、「高度の感覚」を伴う何かであるような気がしてならない。

    収録されている物語は、書物への常軌を逸した偏愛ゆえに現実生活が破滅へ導かれるというものが多いが、そのような見世物を見るような視線で語られる筋書きを採ることによっては、書物という存在から導かれるあの不可思議な美的感覚の正体を捉えることはできないのではないか。19世紀フランス的な写実主義やロマン主義では表現しきれない何か、例えば20世紀のボルヘスを待たねばならぬような何か。

    ほとんど他人事のようにしか読めなかった。

  • 同じ訳者のA・ラング『書斎』のあとがきで本書を知り、調べたところなんとKindle版が出ていたので、ありがたく拝読。エルゼヴィル版やら書物の余白やらに魂をすりへらす人々の話をキンドルで読むというのも皮肉なものですが。
    ひとつひとつは、よく考えるとじつにへんてこな話ばかりなんだけど、全体から愛書という沼にはまった人たちの生態が浮かびあがってくる。よく考えてみると、今もあちこちにいろいろな沼にはまった人はいるわけで(笑)。対象こそちがえ、共感できる面はあるかも。
    また、巻末の作者紹介にいたるまで、編訳者の生田氏の愛情もひしひしと伝わってくる本であった。

  • 街を歩くたび、内的衝動に突き動かされるままに書籍を買い漁り、リュックに詰め、いよいよ肩がいかれるぐらい重くなるとも、依然眼光鋭く書店を這いずり回り、だいたい五冊ほど抱えてレジに向かい、購える品がリュックに入らないとなれば、マイバッグを展開し、それでもまだ財布に紙幣の残存してあるのを見てとれば、宵越しの銭は云々と理屈をつけて次の肆へ殺到し、あるいは財布に紙幣なかりせば呆れつつ銀行に足を運ぶ、次と、その次と、その次と本を買い続け、家に帰っていささか悲しくなり、装丁を撫で、数頁ときに数十頁読むうちにまた読みたい本が心に浮かんで、ブクログに登録して、眠りに就き、夢のなかで街を歩く。

  • 面白かったけど、どうしても本を読みものというよりは骨董品?みたいな扱いなので古本屋で買っちゃって重いということとか、箔押しすばらし〜みたいなところしか感情移入できなかった……本が好きな人とはまた違うんだな〜

  • 古本屋巡りや古書蒐集が好きで好きでたまらない「愛書狂」たちの姿を切り取った短編集。暇さえあれば書店へ足を運び、競売に参加し、一冊を巡って一喜一憂する主人公たちは、周囲の人々からは「不思議な人」とみなされてしまう。自分なりの「愛しかた」をもって本という生き甲斐に情熱を注ぎ、人生を賭ける愛書家の姿は、滑稽でありながらも、しかし、思わず引き込まれるようなエネルギーを放っている。
     美しい街並みや薄暗い書庫、雑多な商品が並ぶ古書店などの風景描写も、本書の魅力の一つである。読者は、まるで主人公と一緒に街を散策し、書架をかき分け、本の香りを感じているかのような気分になれる。さらに、ユーモアあふれる会話、テンポの速い展開にも心を掴まれる。こういった臨場感、没入感は、フローベールやデュマといった名だたる文豪だからこそ生み出せるものだろう。
     今述べたように、本書には文学史に名を連ねる有名作家たちの作品が収められている。しかしそれらは、少なくとも日本では、『ボヴァリー夫人』(フローベール)や『三銃士』(デュマ)などと比較すると、あまり知名度は高くないのではないかと思う。「だからこそ、読みたい」と思ったあなたは、本書に登場する愛書家のよきお友達になれる……かもしれない。悪魔の囁きにはくれぐれもご注意を!
    (文科三類・2年)(3)

    【学内URL】
    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000024238

    【学外からの利用方法】
    https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/literacy/user-guide/campus/offcampus

  • ビブリオマニア(愛書狂)という不幸な病に侵された人々に焦点を当てた短編集。
    登場する人物たち自身はこの世に存在しなくとも、モデルとなった人物がおそらく在ったもので、極めてノンフィクションに近い愛書家小説集であると思います。
    一言に「愛書狂」としても、十人十色で様々なタイプが見受けられます。
    読書家だけでなく、文字が読めなくとも本の形・装丁だけに拘ったり、いや、そのような難しいことではなく書物の存在自体を愛しているような病人もいるのです。
    私自身も書痴であると感じていましたが、この一冊に綴られているような猛者に対しては平伏し、尊敬し、そしてある意味では安心します。

  • 2014 8/23読了。
    フランスの小説を中心に、モノとしての本が好きで好きでたまらない、愛書狂、あるいはいわゆるビブリオマニアを主役においた複数の小説をまとめた作品集。
    著者らも多くは愛書狂、ただし訳した人はそうでもない、ということ。

    A・デュマの話は短めだけど小気味いい感じ、愛書狂の変人っぷりが際立つ程度な感じなんだけど、他の作品は、まあ出る奴出るやつ、不幸になるw
    ビブリオマニアの末路はみんなそんな感じということなのか。もっとも、フロベールの作品の主人公は、当人は実に幸せそうではあるんだけど、ほかは逆に余人には理解し難い不幸の中に落ち込んでいく感じがする。

    ものとしての本なんか愛しても不幸になるだけだ、としめたら怒られるか。でも愛書狂ら自身が一番そう思ってるんじゃ。

    あとセーヌ川沿いの古本屋露店をまたのぞきたくなる。

  • 随分前に白水社から出ていたものを平凡社ライブラリーが復刊してくれた! 白水社版はタイトルに相応しい、凝った造本の単行本だったが、平凡社ライブラリー版になると予想以上に薄くて吃驚した。もう少し分厚くなると思ってたんだがなぁ……当時は贅沢な単行本が出ていたものだ。
    内容はと言えば、タイトル通り、愛書家の哀しい(?)生態を描いた短篇のアンソロジー。登場人物の気持ちが否応なしに解ってしまう読者も多かろう。
    本文中にある『人間の一変種』、訳者あとがきにある『業病』という表現は正にその通り。
    編訳者の生田耕作も泉鏡花の初版本のコレクターとして知られ、また、『サバト本』と呼ばれる凝った本を世に送り出した愛書家。この本を作るのにこれほど相応しい人はいないだろう。『サバト本』、財布と相談してGOが出たらつい買っちゃうもんね。
    生田耕作は、この本の他に2冊、書物愛についての本を編訳している。残りの2冊も平凡社ライブラリーで復刊されますように……。

  • ・生田耕作編訳「愛書狂」(平凡社ライブラリー)もまた書物をこよなく愛する人々のアンソロジーである。例のフローベール「愛書狂」に始まつて、A・ デュマ「稀覯本余話」、ノディエ「ビブリオマニア」、アスリノー「愛書家地獄」、ラング「愛書家煉獄」の計5編を収め、更に作者名なしの、たぶん訳者自身による「フランスの愛書家たち」を載せる。作者紹介と訳註があるのは親切でありがたく、私にはうれしい。さうして最後にあとがきと恩地源三郎「解説ー〈愛書狂〉生田耕作」がある。至れり尽くせりである。本書の元版は1980年白水社刊、もはや古典的名著であらう。
    ・デュマ「稀覯本余話」はエルゼヴィル版「仏蘭西風菓子製法」なる書を読む男の蘊蓄話とでも言へようか。このエルゼヴィル版はエルゼヴィル家 代々によつて出版された書をいひ、しかもその代々によつて様々な違ひがあるらしい。それが無知の男の問に答へる形で語られる。たぶんそれだけの話と言つて良い。ただ、そんな書誌的な蘊蓄話でもそれなりにおもしろい。学問的といふよりは実用的な事柄なのであらうと思ふが、それにしても日本の書誌学とはずいぶん違ふ世界である。最後の方に「エルゼヴィル版の値打はすべてその余白の寸法によって決まる。余白が広ければ広いほど値打の上がるのがエルゼヴィル版です。」(53頁)とある。「余白の全くないエルゼヴィル版など一文の価値もない。」(同前)といふのは古書的価値を言ふのであつて、学問的な価値ではないのであらう。和本の場合、残存数自体が少ないから、匡郭や余白を問題にしたところで、値段が高いのに変はりはない。もつともこれは19世紀の話、現在では 欧州でも事情が変はつてゐるのかもしれない。この余白、ノディエ「ビブリオマニア」でも問題になつてゐる。これは愛書家、いや愛書狂か、テオドール氏に対 する追悼文の形を採つた作品である。この人の死因が余白にあつたらしい。売りに出た「一六七六年版のヴェルギリウスの大型判」(72頁)の余白が自分の所蔵本より「三分の一行」(同前)大きいといふのである。テオドール氏はこれが悔しくて、これを気に病んで「重症のチフス」(同前)に罹つたのであつた。ビブリオマニア・チフスである。何とつまらぬことをと言ふ勿れ。「ネルリ版の『ホメロス』の値段を百ルイつり上げたのは三分の一行なんだぜ!」(73頁)と いう世界である。テオドール氏所蔵本がどのくらゐになるのか、本人にはよく分かつてゐたのであらう。いづれにせよ、これは物理的にはごく小さいものである。初版本を探し回る男たちよりも更に小さな世界への拘泥である。その意味ではつまらぬと思ふのだが、ただこの愛書家達の書は古い。和本のやうに手垢にまみれて古ぼけてはゐない。装丁は美しい。「自分で本を買い、お気に入りの製本師にモロッコ革の表紙で装わせ云々」(149頁)といふ世界だから、1冊として同じ本はできないのであらう。余白も問題にならうといふものである。美しい装丁に小さな余白、それは実に重大な問題なのである。ただ集めるだけのコレクターは装丁の美しさを求めるものであらう。その一方で、古書価を問題にするのに余白を以てする人々もゐるのである。奥が深いといふより、実に大変な拘泥の世界である。そんなわけで、日本と欧州の古書の世界は、特にフランスのとは大いに違ふ。さうして私は、当然のことながら、こんな愛書家、愛書狂とは無縁の 存在であると思ふばかりである。それにしても21世紀の日本に生きてゐてもこんな世界が堪能できる。ありがたい時代である。次なる愛書狂の書はいつ出るのかと首を長くして待つてゐよう。

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著者プロフィール

1821年生まれ。19世紀フランスを代表する小説家。主な作品に、本書のほか『ボヴァリー夫人』『聖アントワーヌの誘惑』『サラムボー』『三つの物語』『紋切型辞典』『ブヴァールとペキュシェ』など。

「2010年 『ボヴァリー夫人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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