電信柱と妙な男: 小川未明怪異小品集 (平凡社ライブラリー お 28-1)
- 平凡社 (2019年7月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582768848
作品紹介・あらすじ
「日本のアンデルセン」と礼賛される童話作家が怪奇幻想世界に嬉々として遊ぶ。黄色い雲、波の音、黒い男、白い影。そして赤く爛れた目のようなランプから異音が響く――。
感想・レビュー・書評
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小川未明の怪異作品を集めた1冊。
前半はちょっと不気味なおとぎ話や民話…といった作品が多かったのですが、後半に行くにつれてぞくりとする読後感のものが多くなってきて、背筋が寒くなりました。
特に、結末が描かれていないときの余韻が…
語り手がブリキ屋根の粗末な家に住む女について思いを馳せる「抜髪」は、語り手の感情の高まりからの唐突な結末に、空しさと気味悪さがあとに残ります。
「暗い空」は、黒い煙突になぜか強く惹かれた語り手がむかえる、理不尽なのに逃れられない結末にぞくり。
しかも、その結末を自然なことのようにすんなり受け入れようとする語り手…「なぜ?」が語られない怖さが印象的でした。
余談ですが、平凡社の文豪怪異小品シリーズ、中川学さんのカバー装画がどれも美しくて見入ってしまいます。
怖い話はそんなに得意ではないのだけれど、美しさに惹かれて怖いもの見たさが勝ってしまう…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
童話作家として名高い小川未明の「影の世界」。
アンソロジスト東雅夫セレクト、未明地獄編とでも呼びたくなる
儚げで残酷で美しい物語の数々(厭戦・反戦感情強し)。
小学生のとき「赤いろうそくと人魚」その他を確かに読んだはずだが、
中身が記憶にない(!)……なんというポンコツだ私は(笑)!!
我が半生に一点の悔いアリとすれば、
読書日記を綴り、保管してこなかったことだなぁ……と、しみじみ。
そんなワケで、定番として扱われる人口に膾炙した名作と
比較しようもなかったのだが、ともかく、この本は面白い。
構成は以下のとおり。
後半は特に、不吉な死の匂いが充満する、
大人の、しかも「好事家」向けの作品群。
序
小川未明の幻想文学観を示す随想。
ラフカディオ・ハーン一周忌に寄せた、
恩師を偲ぶ「面影」他。
Ⅰ 妖魔たち
人の形を取って現れる妖(あやかし)。
厭世的な人間嫌いの男が深夜の散歩で出会ったのは……
「電信柱と妙な男」他。
Ⅱ 娘たち
可憐な美女・美少女たちの姿を写し取りながら
世の無常を感じさせ、
結末の残酷さにハッと胸を突かれる作品群。
男たちを足止めし、沈没させる、砂漠の町の
悲しい伝説の銘酒「砂漠の町とサフラン酒」他。
Ⅲ 少年たち
此岸と彼岸を身軽に往還する、
あるいは彼方に攫われてしまう少年たちの様相。
ソログープ「かくれんぼ」の印象を喚起される
「過ぎた春の記憶」他。
Ⅳ 北辺の人々
作者の故郷である上越地方の海辺に張られた幻想の網。
森の中の家でひっそりと手仕事に勤しむ女を描く、
和製ラヴクラフト的なムードを醸し出す
「森の暗き夜」他。
Ⅴ 受難者たち
章題どおり、
理不尽な目に遭って死の恐怖に直面する人たちの姿。
都会で初めて見た機関車に
得体の知れぬ脅威を感じる老婆「血の車輪」他。
Ⅵ マレビトたち
漂泊者の怪しいシルエット。
不老不死の托鉢僧が訪れる度、村の誰かが死ぬ。
彼は死神なのか、それとも、信仰心のない人々に
罰(ばち)が当たっただけなのか……「僧」他。 -
小川未明がラフカディオ・ハーンを師と仰いでいたことを初めて知った。成る程、北国の寒々しさと陰惨さを上手く書く訳だ。
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『金の輪』『赤い蝋燭と人魚』しか読んだことが無かったので。
これらのテイスト(突然死ぬ、因果応報など)もありつつ、また違った面も楽しめた。『血の車輪』がお気に入り。 -
小川未明の怪異色の強い作品を集めたアンソロジー。「金の輪」や「赤い蝋燭と人魚」といった有名かつ容易に読める作品を排除し、児童文学以外からも多くチョイスしているあたり、さすが東雅夫といったところ。
小川未明はプロレタリア文学の持つ悪趣味なグロテスク嗜好とは違う、残酷さに美を見出した人で収録先にもその傾向は色濃く感じる。収録された「囚われ人」などはちょっとケッチャムを思わせるような筋立てだが、そこに悪意や憎悪はなくただひたすらに残酷なだけだ。「血の車輪」も物語自体はプロレタリア文学風のグロテスクなものだが描きだされるイメージは未明自身の持つ社会主義的な思想を超えたものがある。そこらへん、本格を指向するも何を書いても変格になってしまう江戸川乱歩に近いものがあるのかも。
収録先はどれも素晴らしいが、一番気にいったのは「櫛」。物語としての体をなしてはいない分恐ろしい。 -
初小川未明。
アンソロジーの編纂による効果は大きい。 -
小川未明の幻想・怪異系の作品を集めた1冊。
未明の作品は純日本を舞台にした作品の一方で、どことも判然としないエキゾチックな国を舞台にした無国籍風の作品がありますが、私はその無国籍風の作品の方にとても心惹かれるのです。
本書の解説でゴシック・ロマンスやスラヴ浪漫派文学などの影響について触れてて、ああなるほどと思う気付きがあり。西洋風の城や墓場が出てくる訳ではないけれど、そのかわりの工場だったり一軒の小屋なわけで、要は抱えてるテイストがそっち方面と地続きなんですね。
恩師であるハーンの書く怪談話はあくまで説話的な印象なんですが、未明の作品はロマンチックでかつ童話的でありながら、読んでる最中ずっと読者の心の中をぞわぞわと不安にさせる薄気味悪さがついてきてて面白いですねぇ…。 -
小川未明の作品の中から幻想・怪奇色の強いものを集めたアンソロジー。恩師L・ハーンを偲んだエッセイのほか、27作品を<妖魔たち><娘たち><少年たち><北辺の人々><受難者たち><マレビトたち>の6テーマ別に収録。「電信柱と妙な男」はひきこもりの男と電信柱、共に孤独な者同士でつかのま仲良くなるという異類間友情もの。モダンでヘンテコで最高。「角笛吹く子」は、祖母に手を引かれ町から家に向かう間ずっと不安そうだった男の子が広い野に戻った途端に猛々しく変身する姿が何とも素敵だった。
「老婆」「暗い空」はよく分からない怖さが後をひいた -
平凡社ライブラリー夏の恒例、怪異小品集シリーズ、今年は小川未明。
『童話作家』『教科書に載ってる』ぐらいのイメージしかなかったのだが(あ、あと、読書感想文の課題図書?)、ひょっとするとメジャーな作品より、埋もれていた作品の方が面白いタイプなんだろうか。何となく抱いていたイメージがガラッと変わったのが面白い。