待つこと、忘れること?

著者 :
  • 平凡社
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本棚登録 : 94
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582831177

感想・レビュー・書評

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  • 年々ピンと来る事が増えて行く。主にうんざりする事や億劫さ、「ケッ!」と思う事、あとはこまごまとした楽しみの部分で。金井姉妹ほど細やかに敏感にでは当然ないけれど、手抜きに手抜きを重ねてはいるけれど、自分もまたそのように暮しているのだろうと思う。この本を読む楽しさは、〈トラーの縞の濃い色のところって、ギネスの色に似てるよね、そっくり。それに、お腹の毛がフワフワしているところは、ギネスの泡の色に似てるよね?トラーちゃんのお鼻はスモークサーモン色だね〉などと言った猫見酒真っ只中の姉妹の会話をおすそわけしてもらったり、紅玉を新しいうちに〈シャクシャク、シャクシャク、シャクシャク、せっせと皮を剥いて、ジャムに煮なくてはならない〉こと、〈幾つも幾つものリンゴの皮を私がペティ・ナイフでシャクシャク、シャクシャク剥き、姉がそれを八つ割りにして細かく刻む〉〈リンゴはホーロー鍋二つに一杯になり〉〈家中にリンゴの香りが漂い、鍋のなかでプツプツ煮えている煮つめられつつあるリンゴを柄の長い木のしゃもじでかきまわし〉たりと言った具体的な作業の光景と同時に、その作業によって〈『ボヴァリー夫人』に登場する、文学史上名高い俗物として知られた薬剤師オメーのこと〉を思い出し、〈薬剤師オメーの指揮の下、一族中が顎までかかるエプロンを付けて、手に手に杓子を持って大鍋で煮るジャムには、凝固剤のペクチンが入っていたのではないか〉などと考えたりする、実際的な暮しとそう言ったイメージとの結び付きや自らの暮しの実感に基づいた考察の繊細さを読むことであり(「イモの煮えたも御存知ない」もまさにこれ!)、或いは生活というものが、スーパーで〈!!……、!?……〉としか思えない高級食材の値段の高さを目の当たりにして購入するのを断念したり、〈「チッ!」というか「クッ!」〉と言った反応をせざるを得ない出費が不意に必要になったりするものである事を、共感と共に実感する事、また或いは姉妹の食卓の会話の中で、〈ベーコンの脂の溶けた煮汁をたっぷりと含んで、紺色というより黒に近い色で、つやつやとしているナスの皮〉が、〈その形の丸味といい、確かにシャチそっくり〉である事に気付き、今まさしく食べているその〈『つきぢ田村のお惣菜』に出ていた、「ナスとベーコンの当座煮」〉が、すぐさま〈「ナスのシャチ煮」と名称を変えられる〉ことになってしまう、などと言った、本当に、そう特別な事では決してないのだけれども、こまごまと近しく暮しと親密な、日常的に感じ得る実感をもって結び付いていてあまりにも親密な、だからこそささやかなものながらも魅力的に感じられるエピソードを読む事にあるように思える。
    無論、料理の数々、特に〈蔣介石のコック→母親→姉と私へと伝えられた北京家庭料理〉を作り食べる事を読む事で体験する楽しさがまずあるし、それは実際に作り食べる事へと誘惑するもので、アボカドのスープ美味しそうだな、ミキサー買おうかな、と思ったりもするし、或いは手前味噌と言う言葉を、自分自身の〈他人の作った自家製味噌を食べさせられた経験〉を思い出して実感したりもするのだし、またまた、そこここに描かれてと言うか、いて、のびのびと猫猫しく暮しているトラーちゃんを見る追う眼の楽しさも当然忘れてはいけない。とかく楽しい一冊なのだ。

  • お姉様の装丁がとてもいいです。
    スパイシーぶりがとてもいいです。

    そうです、「私としては、猫を見ていて、何が一番気があわないと思うかと言えば、『待つこと』と『思い出すこと』が、彼には欠けている、ということだと思うのです」。。。
    「何かの瞬間を待つことの不安やおびえや喜び、何かを思い出すことの喜びや怒りや後悔が、時の流れのと共に、自分の人生と共に揺れ動いているという『実感』が無ければ、私たちは生きてはいないわけで」。。。まことに、まことに、その通りで。

  • 主に食べ物に関する日々のことを、徒然なるままに。
    …徒然すぎてあんまり楽しくなく。。

    たまに、出てくるレシピで美味しそうなのはあったけど…ぁ、鍋をするとき、大根をピーラーで剥いてリボン状になったそのまま入れる、っていうのは同感!あれは美味しい☆

  • 2010/9/13購入

  • 864.02.11/25 2刷、並、カバスレ、傷み、帯付。
    H.21.6.1.伊勢BF。

  • 金井さんの辛口エッセイ。食べ物の話やレシピ満載、読み進むうちにお腹が空いてきそうになる。お酒が呑みたくもなる。

  • 「口においしく、目に楽しく、頭におかしく、ピリッと栄養。」

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著者プロフィール

金井美恵子
小説家。一九四七年、群馬県高崎市生まれ。六七年、「愛の生活」でデビュー、同作品で現代詩手帖賞受賞。著書に『岸辺のない海』、『プラトン的恋愛』(泉鏡花賞)、『文章教室』、『タマや』(女流文学賞)、『カストロの尻』(芸術選奨文部大臣賞)、『映画、柔らかい肌』、『愉しみはTVの彼方に』、『鼎談集 金井姉妹のマッド・ティーパーティーへようこそ』(共著)など多数。

「2023年 『迷い猫あずかってます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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