月光果樹園: 美味なる幻想文学案内

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582833980

感想・レビュー・書評

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  •  ガイド、案内人といったポジションの人物に、並みならぬ敬意を抱いている私にとって、最高レベルの出会いでした。高原英理さんという、審美眼が確かで信頼のおける案内人を得て、いざ、耽美な和の幻想文学の世界へ☆
     この本自体が眩暈のするような美しい書物です。章題に、山査子や葡萄、巴丹杏、茘枝など、果実の冠が被せられる趣向も蠱惑的。

     月光果樹園とある通り、太陽の光を浴びて熟した果実のような健全なファンタジーは少なく、平熱低めで若干ゴシック寄りの選書です。しかし日本の文学に湿度や冷気はつきもので、この仄暗さが案外心地よかったりするのです★ なんて得がたい一冊だろうと、ただひたすらひたっていたい誘惑も感じるのですが……。
     ひんやりしていて、口に含むとえもいわれぬ甘美な味が広がる、そういう物語群にうっとりと溶けながらも、妙味の秘密を分析して、理詰めで迫っていくような冷静さにもどきどきします。

     その中で一つ、心に留め置きたくなったのが、もともと日本では幻想文学こそが主流だったという解釈です。
     書店や図書館の書架では、都合上そう分類せざるを得ないのだろうけれども、いわゆる『純文学』『普通小説』と『幻想文学』がはっきり隔てられていることに、小説好きほど違和感をおぼえるのでは? そんな仕切りはかつての日本ではなかったと、澁澤や足穂らの古典派幻想物をもって解消してもらえるのがこの本☆ 幻想優位でさえあった土壌が解かれていて、腑に落ちるものがありました。

     同著者の『少女領域』と千野帽子さん著『文藝ガーリッシュ』での取扱作品はちょくちょくクロスしているので、併読すると愉しみ倍増。特に『文藝ガーリッシュ』で重要な位置づけにある小川洋子、矢川澄子については、千野論から高原論へと続けて目を通すと発見あり。

     幻想と怪奇に導く、月の浮かんだ冷たい水のような評論集。出会えてよかった。

  • 院生のときに同著者の『少女領域』を拝読してからずっとファンでした。近代文学、幻想文学、少女、少年といった私が形も作れず「好きだなあ」と思っていた世界をまるごとパッケージして縦横無尽に語り尽くされる論考にはちゃめちゃに心が踊ってずっと大切にしていた一冊でした。

    不思議と著者の別の作品を探そうという発想が浮かばず(就職してから余裕がなかったのもある)、書店で10年ぶりに高原さんの著作を見つけた瞬間ぶわっと院生の頃の気持ちが甦ってすぐ購入しました。

    尾崎翠、小川洋子、松井栄子、矢川澄子、稲垣足穂の論考が本当に面白かった。まだ読んだことのない赤江瀑の紹介にも興味が高まりました。多分取り上げられている著書の作品を読み終わるたびに、この作品を繰り返し読むと思う。

  • 筆者お得意の分野。

  • 第1章 山査子、第2章 葡萄、第3章 檸檬、第4章 巴旦杏、第5章 橄欖樹、第6章 桜桃、第7章 柘榴、第8章 無花果、第9章 棗、第10章 茘枝 といった、果実の名が冠せられた本。それぞれの章で扱っている作家はお楽しみに…。
    著者にしては意外な程肩肘張っていない文章だと思ったが、「第9章 棗」の坂口安吾論で他著作の様な文体が復活してしまう。何故だろうと考えると著者の思い入れの強い作家や好みが強い程あの読み難い文体になってしまう様だ。『夜長姫と耳男』、『桜の森の満開の下』、『紫大納言』は「望ましくない安吾のテクスト」で「嫌な感じ」と断じている。「無垢」なる物への「憧憬」をテーマにしたこの本で安吾に限り「無垢」を描くのを認めない。「リアリティ」こそが安吾で「幻想物」は書いて欲しくないと言うのはもう叶わぬ夢で只の我儘だ。

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著者プロフィール

高原英理(たかはら・えいり):1959年生。小説家・文芸評論家。立教大学文学部卒業、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。85年、第1回幻想文学新人賞を受賞。96年、第39回群像新人文学賞評論部門優秀作を受賞。編纂書に『リテラリーゴシック・イン・ジャパン 文学的ゴシック作品選』『ファイン/ キュート 素敵かわいい作品選』、著書に『 ゴシックスピリット』『少女領域』『高原英理恐怖譚集成』『エイリア綺譚集』『観念結晶大系』『日々のきのこ』ほか多数。

「2022年 『ゴシックハート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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