- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582834079
感想・レビュー・書評
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明治の文豪・森鴎外は、陸軍軍医総監をつとめるなど、軍医としてもエリートコースを歩んだ。
小説家と軍医の両立。それは、鴎外文学を論じるうえで欠かせない要素である。にもかかわらず、「これまでの鴎外論で、鴎外と戦争のかかわりについて本質的に問い、その意味について全面的に解き明かそうとしたものはなかった」(あとがき)。
本書は、従来の鴎外論が避けて通ってきたそのテーマに、真正面から挑んだものである。文学者・鴎外と、彼が軍医部長として出征した日清・日露戦争のかかわりを、徹底的に見つめ直した長編評論なのだ。
「文学者は戦争に直面したとき、最も根源的に文学者たるゆえんを問われる」と著者は言う。一兵卒ではなく指導的立場で2つの戦争に参加した鴎外は、同時代のどの文学者にも増して、その問いを己が心に厳しく突きつけられた。軍医官僚としては国家の側に立たねばならず、文学者としては一個人としての自己に重きを置かねばならなかったのだ。
鴎外がその矛盾とどう立ち向かったのかを、著者は戦争中に鴎外が書いた文章を読み込むことによって検証していく。軍医として書いた公的記録から私的な書簡に至るまで、さまざまな文章が俎上に載る。著者はそれらを手がかりに、戦況や時代背景などもふまえ、鴎外の心に分け入っていく。
著者は、日清戦争中の鴎外が戦争の冷酷な現実から目をそらし、そのことによって「内なる文学者森鴎外を封殺してしまった」と、厳しく批判する。しかし一方で、鴎外の日露戦争従軍中の詩歌集『うた日記』や、愛妻とかわした数多くの手紙の中に、「隠された主題としての『非戦』のメロディ」を聴き取っていく。
そして、日露戦争後に鴎外が小説家として復活するに際しても、2度の従軍経験で獲得した「戦争の『悪』を見据える目」が、決定的な意味をもっていたと著者は言う。
立場上、ストレートには「戦争の『悪』」を表現できなかった鴎外の文学。その奥底に流れる「『非戦』の通奏低音」を汲み取る著者の手際が鮮やかだ。鴎外文学に新たな光を当てる労作。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000214725
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森鷗外に関する新しい情報を与えてくれたことは確か。
しかし、いかにも恣意的である。 -
2008.11.24購入(amazon.com)
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