いま、憲法は「時代遅れ」か―〈主権〉と〈人権〉のための弁明(アポロギア)

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582835205

作品紹介・あらすじ

個人と国家にとって、この天災と人災の時代を生きぬくために、いま、何が必要か?もう一つの「憲法」入門。

感想・レビュー・書評

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  • 憲法を改めて考える
    グローバリゼーション、多元主義などの諸問題と憲法とを照らし合わせながら、「主権」「人権」という憲法の基本概念の再検討を行っている。
    興味深かったのは、「近ごろ学校では、民主主義とは他人に迷惑をかけないことだ、と教えている」らしい。「自由論」を書いたジョン・シュチュアート・ミルは自由には政府の圧迫に対抗する自由だけでなく、社会の専制に対抗する自由があるという。「個人の良心は国家が侵してはならない」だけではなく、「世間に対してこそ個人の良心が守らなければならない。」
    もう一つは伊藤博文と森有礼との論争で、「そもそも憲法を設くる趣旨は、第一、君権を制限し、第二、臣民の権利を保全することにある」と伊藤博文が言えば、対する森有礼は「およそ権利なるものは人民の天然所持するところにして、憲法により初めて与うられるものにあらず」と応酬する。
    明治政府をつくった人々は、「人権」「主権」といった基本概念をしっかりと踏まえていた。
    憲法のことは知っているようで実は知らなかった。現在の問題と照らし合わせながら、基本を再確認できる本である。

  • 推薦理由:
    著名な憲法学者である著者が、憲法とは如何なるものであるかを、一般向けに語っている。
    巻末に憲法の全文が載っているので、参照しながら読み進めると理解しやすい。

    内容の紹介、感想など:
    「憲法とは、国民の意思によって権力を縛るものである」これが憲法を制定する目的であり、立憲主義という考え方の根本である。著者は、大日本帝国憲法制定にかかわる会議で伊藤博文が「そもそも憲法を設くる趣旨は、第一、君権を制限し、第二、臣民の権利を保全することにある」と語ったというエピソードを紹介し、これが立憲主義の基本である事を述べている。
    しかし、この基本となる事柄が世の中に広く伝わっておらず、誤った認識に基づいて改憲論などが論じられることが多い事は憲法学者にも責任があるとした著者は、本書の目的を、第1に憲法論の当たり前の基本を改めて世間に伝える事、第2にその基本を突き詰めていくと、当たり前でない、反常識な要素がでてくる事を示す事としている。
    本書では、憲法が想定する「国民」とは何か、基本的人権である「自己決定」と「人間の尊厳」の矛盾、司法の在り方と裁判員制度の問題点などの様々な問題点について憲法上の解釈が論じられている。憲法第9条をめぐる議論については、改憲論者が主張する「正当防衛のための軍事力行使」とは、国家が諸個人の生命を侵害することで国民全体を護るという理屈になり、歴史的体験からも反証されている事であるとし、「攻められたらどうするか?」「国際協力をどう考えるか」という問いについても、著者の見解を分かり易く論じている。立憲主義の基本が「国家の権利を主張する」ものではなく、「権力を縛り、国民の権利を守る」事である限り、第9条は極めて正当である事を示している。現行憲法が「押し付けられた憲法」だという主張への反論も明快である。
    大震災など様々な困難に直面している現在、憲法は決して時代遅れなものではない事が納得できる。

  • いま、憲法は「時代遅れ」か―〈主権〉と〈人権〉のための弁明(アポロギア)
    (和書)2011年07月28日 16:32
    樋口 陽一 平凡社 2011年5月13日


    柄谷行人さんの書評から読んでみました。

    図書館で借りられたのはラッキーだったと思います。

    憲法=国家・国家権力ではないということに瞠目させられてしまった。憲法は逆にそれらを縛り・抑制することにある。戦争を起こさず、逆にそこから守るためにあるという。面白い。初めて法学が面白いと感じた。

  • 2011/09/28

  • 日本の「憲法学」の権威である著者が、戦後最大の危機と言えるいま、この時代に、厳しい現実を見つめ直し、一市民の立場から、「憲法」の在り方とその活用を、広い視野で語りつくす。

  • 1回読んだだけでは、消化しきれない部分もありますが、憲法について分かりやすく教えてくれる1冊だと思う。

    「憲法とは、国民が権力を縛るもの」という定義に目を覚まされた。今までは「憲法とは国民の行動の規範」、あるいは国民を縛るものと考えていた。
    「国民が権力を縛るものとしての憲法」というのは、新鮮な響き。
    この言いようがもっと広く流布するならば、今のような権力者の横暴は止められるのではないだろうか、と思うけれども、それは思い過ごしなのか?

    憲法9条について、
    憲法に限らず普通の法律も含めて、ある法規範がつくられたときにはどういう事実がそれ支え、意味を与えていたかというのを、「立法事実」というものがある。それを考えると、9条を支えた事実は、いまだに9条を必要としていると言う著者の論はその通りだと思う。

    また憲法改正派が主張する「正当防衛」について検証しているが、とても明快です。
    「国家が軍事力を持ち、それを行使するということは、国家を構成する個人を兵士とし、それからまたその結果、一般人をも戦争の被害者とすることを想定しています。そういう諸個人の生命を侵害することによって、諸個人全体、国民全体の生命を保護するのだ」という理屈になる。
    「国家の正当防衛の名において、自国民を犠牲にしつつ多国民への加害を繰り返してきたということは歴史上枚挙にいとまがありませんが、何よりも私たち自身の体験ではなかったでしょうか」
    「攻められたらどうするか」という問題もあるが、「他国から攻められない、あるいはこちらから攻めると疑われないという、それだけの前提を満たす努力が必要。そしてそのことをとりわけ9条は要求している」という著者の論にもその通りだと思う。

  • ちょいと難しいが,2回読むとわかってくるかも。

  • 日本国憲法は、第1条【天皇の地位・国民主権】から第103条【同前-公務員の地位】まであります。
    で、1947年5月3日施行から一度も改正されていません。
    これをどうみるか?

    日本国民である私は、103つの条文の上に暮らしていることを、普段はすっかり忘れているなあ。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2019年 『憲法を学問する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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