ドクター・ハック: 日本の運命を二度にぎった男

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582836806

感想・レビュー・書評

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  •  元々は「ドキュメント昭和9・ヒトラーのシグナル」からクリヴィツキーに関する個所を削除した増補版のような本。「ドキュメント昭和7・皇帝の密約」と「満州国皇帝の秘録」との関係と同じだ。
     大木毅は同著者の「トレイシー」を読んでいないのに「兵士というもの」の邦訳者に「有益な助言」なるものをしたそうだが、その結果、見当違いな事が書かれてしまったにも関わらず「極東ナチス人物列伝」でハックを書いた文章を再録した際に「臣下の大戦」と一緒に撫で切りにしている。
     たまたま「兵士というもの」に写真が掲載されているウルリヒ・ケスラー将軍は前線の指揮官だったので騎士十字章の佩用者なのに「トレイシー」では先輩達が取材した事をそのまま書いたような形跡があるが、イタリアのユダヤ人の運命や対パルチザン戦などで責任を負うべきなのにイタリアでのドイツ軍の降伏に際してOSSと裏取引でもしたのか?戦犯裁判にはかけられていないSS大将カール・ヴォルフについて甘いのではないか?という気がする。
     面白いのは「ドキュメント昭和9・ヒトラーのシグナル」には出てこないが、終戦に際して在スイス大使館が連合国側から日本軍の捕虜になった将兵の為に寄託した供託金を返金したくないからと「国際赤十字に皇后陛下の名において寄付する」と暴走しかかったというしょうもない逸話が出て来る。どうやらこれが工藤美代子・加藤康男夫妻が使い回している「スイスの銀行にある皇室の隠し預金」の元ネタであり、実態なようだ。「情報機関が収集した貴重な情報」が実はつまらない逸話を針小棒大に膨らんでしまったといういい例だ。

  • 第二次世界大戦において日本が墜ちていくのを止めようとしたドクター・ハック。日独間、日米間において何をしたのか? 何をしようとしたのか? 教科書で習わなかった近代史。

  • 思っていたいたよりかなり古くから日本と関わり合いがあったことに驚いた。

    以下、引用

    ●ドクター・ハックは、ドイツ大使館でオット武官に会うたびにゾルゲにも会っている。だが、ハックは、ゾルゲの素性を知る由もなかった。オットとの会見では、最初口をつぐんでいたが、やがて求められるままに、目下交渉が進んでいる日独防共協定についての情報を打ち明けた。その席に、ゾルゲも控えていた。当然、ハックから重大な情報は、ゾルゲからモスクワにもただちに報告されていた。ゾルゲは2・26事件に関する報告を3月6日にモスクワに送っている。

  •  日独防共協定、そして日米和平交渉において日本との仲介役を果たしたドイツ人スパイ、ドクターハックの半生を描いたノンフィクション。

     日本人そして日本のことをここまで理解し、動いたドイツ人がいてくださったのか!という驚きとともに、エリート集団であろうにまったく情報を軽視し間違った方向に導いていった大本営作戦参謀のありかたを読むにつれ、個人の資質で国家の命運がこうも左右されるのか・・と、居た堪れない気持ちになる。
     今の日本もそんな状況になりつつあるのでは…。 

     内容はとても深く、なぜ日本が戦争に突入していったのか、なぜ戦争終結に至るのに時間がかかったのか等々、納得のいくものであるのだけれど、どうしたことか、本当に読みにくい文章で。話が前後するし、表現がわかりにくいし、図書館の返却期限は迫るし、途中何度も心が折れかけた!
     でも読み進められたのは、ドクターハックの魅力ゆえ。☆4つの内容だけど、文章との相性でマイナス1。

     お得意の余談ですが。
     ハックは、日独合作映画のプロデューサーとして来日しているのです。その映画の日本版の監督が愛媛出身の伊丹万作さん、主役に抜擢されたのが原節子さん。その
    映画というのが「武士の娘」。長岡藩家老の娘として生まれた杉本鉞子さんのあの作品が原作でした!

  • [揺れた方向と揺れぬ思慕と]一度目は日独防共協定の、二度目はスイスで行われた日米和平交渉の仲介役として、二度にわたり日本の分水嶺で決定的な役割を果たしたドクター・ハック。日本をこよなく愛した一人のドイツ人が迎えた数奇な運命と、彼が身を置いたスパイ網を記したノンフィクションです。著者は、NHKのプロデューサーとしても活躍された経歴を持ち、『トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所』などの優れたノンフィクションを残している中田整一。


    不勉強にしてハック氏とその役割についてはまったく知らなかったのですが、本書で明らかにされる氏の半生を知るにつれ、昭和史にはまだこんなに一筋縄ではいかない、かつ興味深いエピソードが眠っているのかと驚かされることがしばしばでした。また、「表の顔」のハック氏が往年の名女優である原節子さんの飛躍にも絡んでいることがわかり、おもわぬところで歴史が交差していくことの奥深さを再確認することにもなりました。


    ハック氏という、歴史と諸国家の隣接点にいた人物から見る戦中の工作史は、まるでスパイ小説を地で行くかのよう。最近では一般名詞化した感のあるインテリジェンスの一例として、本書から得られるものも多いのではないでしょうか。近年、欧州における和平工作を取り上げた優れた書籍が多く出回っているように感じられるのですが、本書も国際的視野を備えたその系譜に連なる良作だと思います。

    〜藤村に別れを告げにきたハックは、藤村に小さな箱をにぎらせた。餞別の品物だった。箱を開けると中には、菊の花をかたどった18Kのカフスボタンが入っていた。〜

    ドイツ行かなきゃ☆5つ

  • 第二次世界大戦の埋もれていた歴史を掘り起こし、数奇な運命をたどったドイツ人を語る一冊。
    それにしても、ソ連を仲介者とした終戦交渉に固執した軍部、外務省はあまりに悲しすぎる。

  • 改めて、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間隔の短さに驚かされる。

    暴走する日本の陸軍と比較的冷静な海軍という風に読める。

    映画化の権利を誰かが買っていそう。
     

  • 日本を愛してくれたスパイ?のお話し。

    ドクター・ハックなる人のことは知らなかった。

    著者が、現在生きている関係者に行った取材も紹介されており、丁寧にまとめられています。

    今の私には、知らないことが多く、もう少し、関係書を調べてみたくなるきっかけをくれる1冊。

  • いまから70年前、恩義に報いようと身を捨てて奔走してくれた一人のドイツ人。そのハックが愛した日本がいままた戦争への道に進もうとしている。著者の現状に対する並々ならぬ危機感が筆をとらせたのだろうと理解できるし、往年の名女優である原節子が出演した日独合作映画の影で、その後の三国同盟につながる協定交渉が進行していたという、いかにもテレビ向きの題材を前に胸が高鳴ったのかもしれないが、あまりに安直で散漫に過ぎた。歴史もすでにわかりきった当然の成り行きとして眺めるなら、資料と証言の隙間は予定調和で埋められるしかない。

    本書を読んでドクター・ハックについての関心は高まったが、著者の描く人物像よりももう少し複雑な印象を受けた。各国の情報機関や日独国内での彼に対する評価をもう少し聞いてみたいし、なにより著者の手元にある彼の戦況報告をもっと読みたいと思った。晩年の精神の変調も、ナチスに男色の疑いをかけられた彼の女性関係も、本書ではお行儀よくさらりと触れられる程度にすぎず物足りない。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。
1941年熊本県生まれ。66年九州大学卒業後、NHK入局。おもに現代史を中心にドキュメンタリー番組を手がける。『戒厳指令「交信ヲ傍受セヨ」二・二六事件秘録』で、日本新聞協会賞・文化庁芸術祭優秀賞などを受賞。大正大学教授を経て、執筆に専念。『満州国皇帝の秘録―ラストエンペラーと「厳秘会見録」の謎』で、毎日出版文化賞・吉田茂賞を、『トレイシー―日本兵捕虜秘密尋問所』で、講談社ノンフィクション賞を受賞。他の著書『盗聴二・二六事件』『最後の戦犯死刑囚』などがある

「2013年 『四月七日の桜 戦艦「大和」と伊藤整一の最期』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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