武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582838657

作品紹介・あらすじ

2019年12月、アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師。35年にわたってパキスタンとアフガンで人道支援にあたった生涯をたどりながら、その生き方、考え方を伝える。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカがつくるB1爆撃機は一機で2000億円するそうで、それは、重症の新型コロナウイルスの患者を救う人工呼吸器が1万台も買える値段になるそうです。

    戦争は一部の人たちだけがしているのであって、ほとんどの人たちが関係ないことは、自分の国で起こったことで知っているはずなのに、他国のことになると、一般的に流れるニュースの内容だけで判断してしまっていた自分が、本当に恥ずかしい。
    アメリカのナショナリズムにしても、湾岸戦争にしても、アフガニスタン問題にしても。

    私が、アフガニスタンのことを、もっと知りたいと思うきっかけになったのは、小林豊さんの絵本、「せかいいちうつくしいぼくの村」でした。
    そこに描かれていた自然や夕焼けの美しさに、何か共感できるものを感じ、世界は繋がっているんだなと思ったのが、印象深いです。

    本書で取り上げられる中村哲先生の、アフガニスタンにおける活動は、施しなどの一瞬で完結するものではなく、そこで生きていかなければならない人びとの目線に立った敬意と思いやりをもった、人びとが自立できるようにするための活動でした。

    それは、用水路を建設して農地をつくり、食べ物や仕事を確保することで、貧困の回復に加え、生活するために武装集団に入らなくてもよくなったり、農業や技術を教える学校の建設に、自分たちだけでも継続できるような配慮を感じ、更にマドラサ(イスラム社会で伝統的な学校)の建設には、人びとの文化や誇りを回復させることの大切さ、古くからある、その国の人たちにしか分からない伝統文化を重んじる姿勢を感じました。

    また、砂漠を緑化して農地をつくる考えには、アフガニスタンだけではなく、地球環境全体の未来にも関わることで、改めて、今後の自然と人間の関係を教えてくれましたし、堰の土木工事に、蛇籠と、川端にヤナギの木を植える日本の伝統的工法である、『柳枝工(りゅうしこう)』が使われていたのは、やはり世界の繋がりを感じさせられ、こんなに離れた場所で日本の伝統が役立っているんだなと、表現が適切か分かりませんが、誇りに思いました。

    そして、何より最も印象的だったのは、中村先生のアフガニスタンの人びとに対する姿勢で、どこか先進国の見下したような行動(武力行使や制裁)ではなく、それこそ古くから日本人が持っている、他人の気持ちを推し量る、人情や優しさ、思いやりの姿勢で接しておられることに、真に頭が下がる思いがいたしました。

    何者かの銃弾に倒れたという事実には、ひどく哀しい思いをしましたが、アフガニスタンの人びとの心には、永遠に中村先生の気持ちは残ると感じました。

    それは、アートロードが中村先生の業績を称える壁画を、カブールとジャララバードに描いたことや、生まれてきた赤ちゃんに「ナカムラ」と名づけたことや、WESAの運動場を「ナカムラ運動場」と名づけたことなどからも分かると思いますし、食べ物をあげたのではなく、食べ物をつくる方法を与えた中村先生の支援は、半永久的に繋がっていくものだと思うからです。

    最後に、中村先生の生き方を実感させられたようで、とても印象深かった、アフガニスタンの詩人、ルーミーの詩を掲載します。
    この方の詩、もっと読みたいのですが、ネットで探しても見つからないんですよね。


    さあ、行くがいい、そして助け手となれ
    あなたの助けを必要としている者がいる
    案ずるな、時は常にあなたに味方しよう
    時は決して恩を忘れたりしないだろう
    全ての者がいつかはこの世から立ち去る
    富も財産も、あの世へはもっては行けない
    あなたもいつかはこの世を去る日が来る
    その時の、現世の置き土産には富よりも
    たった一つの善行のほうがはるかにまさる
    (西田今日子訳)

  • 中村哲著述アーカイブを公開しました | 九州大学附属図書館
    https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/news/39828

    武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方 - 平凡社
    https://www.heibonsha.co.jp/book/b561025.html

  • 〇中村医師や緒方貞子さん、他の復興や支援に尽力された日本人先達の方々のおかげで、今はまだ日本への印象は悪くない。話し合うこと、人々への持続のための支援をしていけないか。
    戦火によって、これ以上に命を散らさないでほしい。
    欧米諸国も日本も、現状の人権を考える国になるのに沢山の時間を要した。(そして今でもまだゴールは見えていない)先行事例があり、現在のネット社会があり、目があれば…と、願う。

    ●はじめに 
    40年以上続く戦争の地、アフガニスタン。
    「人が死んでいるところに爆弾を落としてどうなるんですか」
    武器は絶望しかもたらさない
    「以一言生涯守るべきことありや それ恕ならんか」

    1:中村哲医師が世界に示した平和主義
     テロとの戦争
     →はじまりは何なのか。
     「干ばつとともに、いわゆる対テロ戦争という名前で行われる外国軍の空爆、これが治安悪化に非情な拍車をかけておるということは、私はぜひ伝える義務があります。」
     →自分の国に置き換えて考えてみる
     欧米流の民主主義ではなく、アフガニスタン流の民主主義を。
     「殺人に協力するのは、殺人者に等しい」

     武器にお金をたくさん使う帝国は没落してきた
     →古代ローマ帝国、大英帝国、第三帝国(ヒトラーのドイツ)
     「富と武器への信仰こそが偶像崇拝」

     タリバンの大仏破壊
     →「ペシャワール会は非難の合唱に加わらない。餓死者が百万人と言われるこの地獄のような状態の中で、今石仏の議論をする暇はない。暴をもって暴に報いるのは我々のやり方ではない。建設的な相互支援を忍耐を以て続ける。我々は諸君を見捨てない。人類の文化とは何か。人類の文明とは何か。真の『人類共通の文化遺産』とは、平和・相互扶助の精神でなくて何であろう。それは、我々の心の中に築かれ、子々孫々伝えるべきものである」

     アッ=サラーム・アライクム…あなたの上に平安がありますように
     暴力はイスラムの教えに背く
     「近親者に当然あたえるべきものは与えよ。貧者と旅人にも。しかし濫費してはならない」
     「両親にはやさしくあれ。また縁者、孤児、貧者、縁続きの隣人、縁のない隣人、そばにいる仲間、旅人、そして自分の右手が所有するものにも」
     忘己利他(最澄)

    2:アフガニスタンでの30年間の苦闘
     食べることこそが平和をつくる
     農業国が農業を出来ない現状
     →地球温暖化による水不足、戦乱
      国民の4分の1が飢えた状態にある
     『火垂るの墓』野坂昭如
     紛争をしている国で、十分な食事が出来るのは武装集団

     アメリカのタリバン攻撃後、中村医師は食糧緊急支援に奔走する
     →六億円が日本で集まる。
      現地でアフガニスタン人職員が小麦と食糧油を配り、15万人の人々が冬を越せる食べ物を得た

     砂漠の緑地化、農業の再生を目指す

     農業技師 尾崎三雄さん
      →植林、灌漑、ミカンなどの果樹栽培の指導
     
     農学者 遠山正瑛さん 
      →中国 内蒙古自治区 エンゴペイ砂漠の農地化に成功
      「砂漠の緑化は世界平和に緊密に関わる。地球の三分の一の土地は乾燥しており、地球の温暖化、人工の増加や無制限な開墾などは、砂漠化を加速させ、これによって糧食不足などの問題は深刻化している。だから砂漠を緑化して、砂漠化を止めるのはこれらの問題を解決する上で最善の選択なのだ」

     陸軍軍人 杉山龍丸さん
      →インドとパキスタンの幹線道路にユーカリの木を植林する
       ユーカリ…根が深く水を吸い上げる力が強い。地中の根が水を貯めて土壌を潤す。

     中村哲医師
     河川から砂漠に水を引き、農地を拡大して人々に食糧を与えたい
     江戸時代に筑後川に造られた「山田堰」を参考にする
     →川から水を斜めに取り入れる
      「舟通し」水上交通
      「中通し」魚が遡上出来る
      「砂利通し」取水口近くの土砂がたまらないようにする
      …三本に分かれた川の流れが合流して勢いを弱める。水の氾濫を防ぐ。魚の生態系にも配慮されている。
     アフガニスタンの多くの人たちが参加
     →雇用の創出
     堤防を築く護岸工事
     →コンクリートではなく、蛇籠の方法を取り入れる。
      鉄線を編んだかごの中に現地の石を積み上げてつくる。日本・アフガニスタン、両方に元々ある工法。
      さらにヤナギの木で補強。柳枝工
     緑と水の景観…コーランでの天国のイメージ
     用水路は現地の農民たちの知恵と労力がつくり出した。
     
     現地の人々による水の管理や農地の拡大、農業技術の向上→持続のための支援

     カンダハル「オガタ・ロード」
     アフガニスタンへの支援に奔走したJICA緒方貞子さんの名前

     カンダハル「カレーズの会」レシャード・カレッド医師
     …無料の診療費と薬剤費。アメリカのタリバン攻撃後に始まる。 
      清潔な水の必要
      光触媒による殺菌効果を持つチップ(静岡県で防災用に開発)の利用→消化器感染症の激減

     人間と自然の和解を考える
     澤地久枝さん
     「過去の政治の産物である難民が日常生活へ、ふるさとへ戻る道。働いて生きてゆける道を切り開くこと。その最大緊急の前提として、砂漠化した農地に水を引くこと。山岳国家アフガン全土で、農地を取り戻す可能性をさぐる必要があろう。ことはアフガン一国の問題のようだが、おそらく地球環境の未来にも関わっている」

     武装集団を弱めるには、農地を増やすことが必要。

     アフガニスタンでは気候変動がもたらす影響で、山岳地帯からの水量が減る。
     →乾燥に強いケシの栽培が盛んになる。武装集団・犯罪集団の活動資金。アフガンは世界一のケシの生産国
     →食糧を農地で生産することで、ケシに頼らない健全な農業のあり方を示した
     「今ほど切実に、自然と人間との関係が根底から問い直されている時はない」
     
     国会で自衛隊のアフガニスタン派遣に反対
     戦いがある→難民たちは武装集団としての職を得る

    3:中村医師が見たアフガニスタンの社会
     親日国家であった
     …ヨーロッパ諸国に対しての独立不羈の姿勢、日露戦争、長崎・広島、かつてアフガニスタンや中東諸国に政治的な口出しをしなかった
     

  • 小~中学生を対象にしたであろう平易な文章で、故・中村哲医師の功績と現代の政治への憂いが書かれている。中村さんの活動について詳しいことは全く知らなかったので、とても勉強になった。また、アフガニスタンがどうしてこのような状況になったのかについての歴史的背景が、分かりやすく説明されているのも良かった。私も人のために生きるということがしたい…。

    ただし、女性の人権問題への言及がほぼない(この論点を問題視していない)のと、現代の政治についての語りが長めなので、★マイナス。あなたの意見に興味はなくて、中村さんの功績だけでいいのよ。

  • 伝記として、戦争と平和を考える資料として、地球温暖化を考える資料として、宗教を理解する資料として、地理や政治を考える資料として、大きくSDGsを学ぶ本として。何度でも読み返したくなる本です。

  • 中村哲医師の生き方が、とても分かりやすく書かれていた。

  • <閲覧スタッフより>

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    所在記号:333.8271||ミヤ
    資料番号:10263045
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  • 3.7

  • 忘己利他

    自分の損得や幸せになりたい気持ちは置いておいて、他の人が幸せになって得をするように努めなさい。

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著者プロフィール

現代イスラム研究センター理事長。1955年生まれ。慶応義塾大学大学院文学研究科史学専攻修了。UCLA大学院(歴史学)修了。専門は現代イスラム政治、イラン政治史。著書『現代イスラムの潮流』(集英社新書)『中東イスラーム民族史』(中公新書)『アメリカはイスラム国に勝てない』(PHP新書)ほか

「年 『集団的自衛権とイスラム・テロの報復』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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