- 本 ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582853032
感想・レビュー・書評
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日本の伝統文化といえば京都あたりにある神社仏閣を連想されるのかも知れません。
あるいは、それが象徴するワビ・サビと言った概念を思い起こされるかも知れません。
本書は、現在を生きる私達が思う日本の文化、伝統が西洋文明との衝撃的な出会いを切っ掛けとして創造されたものである事を解き明かすと同時に、日本人の思想の歴史的変遷を解説しています。
その為、本書を読めば、
いま馴染みの在る概念、そして今後新たに登場するかも知れない概念が実はかつて存在していたものとかなり共通点がある
と言った視点を手に入れられるかも知れません。
尚、この手の本として、よく「世間で言う日本の伝統文化というのは実は明治期に作られた概念に過ぎず、本物ではない」と言った感じでそれらを否定するかの様な
内容の書籍があるかも知れません。
しかし、本書はその手のものとは全く違い、各時代の日本人が考えた様々な日本論、天皇論などの思想がどの様にして生まれたのか、そしてどの様な特徴を持つものであったのかという点についての理解が深まる内容となっています。
(これは他の多くの方も同じではないかと思うのですが)少なくとも私自身は寡聞にしてこの手の事柄はほぼ全く知らず、その為、かなり参考になりました。
ご興味を抱かれた方は一読されてみてはいかがでしょうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
教科書チックで勉強になる本。中国語や韓国語にも翻訳されているようです。
著者HP
<http://sadamisuzukihp.jp/index.html>
【目次】
はじめに [009-012]
第一章 文化ナショナリズムとは何か 013
1 いま、なぜ、文化ナショナリズムか 014
グローカライゼイション/今日の世界の構図/新しい歴史教科書/歴史を書き換えるとは?
2 ナショナリズムとは何か 025
ナショナリズムという言葉/ナショナリズムの定義/ネイションとは/ナショナリズムのふたつの型/対立する思想/民族と文化/文化ということば/伝統の発明/国民文化の形成
第二章 国民国家の創造 045
1 発明された歴史 046
暦の発明/古典籍の整理/歴史観の切りかえ/古代の歴史観/古代のナショナリズム/中世、近世のナショナリズム/国学の思想/徳川時代の歴史観
2 天皇制も発明された 064
国家神道の形成/国民の思想/帝国憲法と教育勅語/家族国家論/『家庭教育歴史読本』/国民教化のジグザグ
第三章 国民文化の形成 081
1 「国語」の不思議 082
国語とは何か/言文一致は古代から/民衆のリテラシー/近世の口語体/国語・国字改良論/リテラシーはトリリンガル/国語問題とナショナリズム/言文一致、その論と実際
2 「日本文学」は二重の発明 107
宗教と学問/宗教とナショナリズム/「文学」の意味/「文学」は人文学/二重の発明/「文学」の広義と狭義
3 伝統の評価基準 125
国民文学の代表は?/『源氏』評価の移りかわり/「日本美術」の発明/アジアはひとつ/武士道の誕生/修養の思想/明治の読み方
第四章 「帝国」の思想 147
1 大衆ナショナリズムの時代 148
二〇世紀のナショナリズム/文化相対主義と文化圏の思想/大衆の登場?/日韓併合と民族独立運動/大衆文化の幕開け
2 普遍主義と文化相対主義 161
明治の総括/ふたつの国民性/自然志向と宗教新時代/民衆文化の創造/童謡と民芸運動/西田幾多郎『善の研究』/生命中心主義/筧克彦『古神道大義』/神道とエロスの解放/芭蕉再評価/「日本的なるもの」の誕生/震災という転機/エロ・グロ、ナンセンス/天皇制打倒のスローガン
3 「大東亜共栄圏」の思想 195
「満州」建国/「満洲国」の文化政策/平和主義天皇論/日本の使命/平和の剣/総力戦体制へ/皇軍の論理/大東亜共栄圏へ/矛盾の露呈/「近代の超克」と「世界史的立場」
第五章 戦後の文化ナショナリズム 221
1 敗戦の思想 222
戦争の傷痕/象徴天皇制と平和憲法/生きることが全部/「終戦」の論理/うしろめたさの払拭/国民主義の建設/日本の後進性/真の愛国
2 日本文化論の季節 240
錯綜する日本文化論/深層のナショナリズム/戦後思想へのリアクション/三島由紀夫の場合/大江健三郎の場合/丸山真男の場合
3 ナショナリズムの相対化へ 256
吉本隆明の方法/幻想のアジア
むすび 263
引用・参考文献 [268-277]
【抜き書き】
□p. 18
〔……〕イスラーム過激派をめぐる今日の動きは、宗教と宗教が、それ自体として対立しているわけではない。対立の根は価値観のちがいにあり、それに国家の政治や経済の問題がからんで紛争になっている。そのからみあい方をよく見ることが肝腎だ。事態を「文明間の衝突」のようにとらえていては、その肝腎のことが抜け落ちてしまう。文化ナショナリズムについても、それは同じだ。
□pp. 20-21
〔……〕「つくる会」のメンバーには全体主義や軍国主義、そして共産主義に反対する自由主義の立場、リベラルな思想の持ち主が多い。さまざまな主張をしているが、最大公約数は、日本のしたことには「歴史的必然」があった、あるいは、イギリスなどの帝国主義とそれほどちがっていないのに、なぜ日本だけが卑屈にならなければならないのか、というところだろう。
□pp. 21-22
「新しい歴史教科書をつくる会」の主張のおかしさは、まず日本人が自ら選んで行ったことを「歴史的必然」であるかのように言いくるめるところにある。また、イギリスなどの列強が一八世紀、一九世紀に行った、いわば古典的な帝国主義を肯定することも根本的におかしい。そして、それらと日本が二〇世紀の国際情勢のなかで行ったこととのちがいも無視している。
□pp. 138-139
明治中期ころから、私利私欲を求める風潮をいさめ、公のために尽くす精神を説くとき、武士の生き方が持ちだされていた。そして、武士の生き方を「武士道」と呼ぶ呼び方は徳川時代からあるにはあった。しかし、それらがひろまっていたわけではない。新渡戸稲造は、自分が創始したものと思っていたくらいだ。
新渡戸稲造『武士道』は、「武士道」とは「民族の信仰」(national faith)としての神道を起源とし、その「忠君愛国」の精神に「知行合一〔ちこうごういつ〕」などの陽明学の論理が与えられたものだ、と説いている。これは、まったく創作された「伝統」だ。
徳川時代の武士の「忠」は、朱子学のそれ、君主とは藩主、国家とは藩を意味した。仙台の伊達政宗など、お天道さま、つまり太陽を拝む藩主もいたし、天照大御神を、いわば日本民族の信仰の対象と説く神道思想もあったが、それらが武士の共通の宗教だったわけではない。民衆は神社にお参りし、八百万〔やおよろず〕の神がみに現世利益〔りやく〕をお願いもしたが、檀家制度の下にあった。明治になって、神社が国家管理となり、「国家神道」がつくられ、八百万の神がみは「淫祀邪教」と退けられ、藩主と藩に対する武士の「忠君愛国」は、天皇と日本国家に対する全国民のものへと組みかえられた。しかも、「国家神道」は皇室の、そして、国民のそれぞれの家の祖先崇拝であり、宗教ではない、とされていた。
新渡戸稲造が、神道を「民族宗教」としたのは、なにも彼が「国学」にそまっていたからではない。これは彼がドイツに留学したとき、プロテスタント神学の第一人者、シュライアーマハーの民族宗教論を学んで、明治の家族国家論にアテハメたものにちがいない。 -
近代以降の日本が、それまでの自国の文化を「国民文化」として再発見してきたという観点から日本文化の多様性を掘り起こすとともに、「国民文化」の構築されるプロセスを解明している本です。
主として、明治期以降の日本における「伝統の創造」の諸相を解明することに、著者の努力は向けられていますが、そのさいに「近代化」と「反近代」、「欧化」と「伝統形成」という二つの対立軸によって、この時期の日本の文学や思想、芸術などさまざまな文化事象を位置づけるという試みがなされています。
「文化ナショナリズム」というテーマそのものに対する考察はあまりおこなわれておらず、思想史上の事実を紹介することに力点が置かれており、ポリティカルというよりもヒストリカルな議論が中心になっている印象です。比較的マイナーな文化史や思想史上の人物も多く紹介されていて、勉強になりました。 -
[ 内容 ]
ナショナリズムは、政治や経済に限られた現象ではない。
それはむしろ文化の面において、より深く広く現れる。
近代国民国家の生成は、文化的自画像の編成をうながし、明治日本も、「国民文化」の創造に乗り出した。
「国語」を制定し、「日本文学」という伝統を作り出し…。
しかしその歩みは、思いのほかジグザグの道をたどったのだった。
錯綜する価値の間を行き来した日本の文化ナショナリズム。
多彩な文化事象を渉猟しつつ、その道行きをくまなくたどる。
[ 目次 ]
第1章 文化ナショナリズムとは何か(いま、なぜ、文化ナショナリズムか;ナショナリズムとは何か)
第2章 国民国家の創造(発明された歴史;天皇制も発明された)
第3章 国民文化の形成(「国語」の不思議;「日本文学」は二重の発明 ほか)
第4章 「帝国」の思想(大衆ナショナリズムの時代;普遍主義と文化相対主義 ほか)
第5章 戦後の文化ナショナリズム(敗戦の思想;日本文化論の季節 ほか)
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
日本の文化ナショナリズム 鈴木貞美 平凡社新書
ナショナリズムというと、主に政治や経済における現象のように認識している場合が多いと思われるが、実はそれは
「文化」という一見フラットな印象を与える概念から生じ、しかもその影響は深い。「国語」「日本文学」「伝統」といった
私たちにとって馴染みの言葉の政治性を国民国家形成期に見出し、更には戦後の文化ナショナリズムまでを視野に
入れた、新書を超えた本格的著作である。(2010:清水均先生推薦) -
恐ろしいほどに内容が頭の中に入ってこなかった。この本を元にテストをやるそうだが対応できないと思う。個々の段落のつながりがいまいちわからず、結局筆者が何を言いたいのかも不明なまま終わった。半分は読んだというより目を通したという感じ。自分の読解力と基礎知識の問題もあると思うが、読みにくくてしかたがなかった。
著者プロフィール
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