将軍家御典医の娘が語る江戸の面影 (平凡社新書 419)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582854190

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、十四歳で維新に遇った幕臣のお姫様の回想録「名ごりの夢」を題材とした本です。
    奥医師桂川家はオランダ流外科を専門とし江戸蘭学の総本山といえる地位にあり解体新書の刊行に協力しています。福沢諭吉を始めとする著名人達が出入りしていましたが、維新により没落していきます。
    維新後のある種の見事な処世を観るに感嘆を感じえません。また江戸時代の上流階級の生活が伺えて楽しい本です。

  • [ 内容 ]
    “江戸はあんまり泰平に酔っていました”―十四歳で維新に遭遇した御典医の娘みね。
    彼女の目に「江戸の終わり」はどう映ったのか?
    福沢諭吉をはじめとする偉人たちとの思い出とともに語られた証言から、幕末・明治維新が鮮やかによみがえる。
    知られざる名著『名ごりの夢』を読む。

    [ 目次 ]
    第1章 福沢諭吉に背負われて
    第2章 なつかしき江戸の情景
    第3章 お姫さまの御維新
    第4章 武士でも姫でもなくなって
    第5章 薩長にお辞儀なんかするもんか
    第6章 すべては夢のように

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    [ 参考となる書評 ]

  • 『将軍家御典医の娘が語る江戸の面影』安藤優一郎(平凡社新書)


    ちょっと前にすでに読み終っていましたが、そのあとなぜかひとりで『鬼平犯科帳』ブームをしていたので書くのが遅くなりました。
    安藤先生続きでしたからね。なんか頭が江戸、でして。
    ちなみに、『鬼平』は四冊&『乳房』(←平蔵さんが出てくる入門書みたいな本)を読んでいました。
    映像は中村吉右衛門なんですってね…それは……いいかも。はまっていそう。


    さて、今度の本は私が読んでみたかった平凡社東洋文庫『名残りの夢』をベースにした本です。
    東洋文庫って見付けにくいし高いです。だから内容を知れるのは嬉しい。

    タイトル通り、旗本の娘のおひぃさん(みねさん)の半生でした。
    半生なんです。
    しかし、タイトルをすっかり忘れていた私は、「ええっ!ここで終っちゃうの?夫と死別してみねさんの苦労はいままで以上のはずなのに…」
    と思いました。でも、まあ『江戸の面影』ですから。
    みねさんにとって立場や主張は違えど(それがケンカの種になっても)、『江戸』という時代の空気を直に知っていた唯一の家族が夫で、そういった意味で夫の死(しかも殉教に近い死)はもしかしたら彼女のなかでの決定的な『江戸との別れ』だったのかもしれません。

    みねさんはとても女性らしい方で、感性も綺麗なひとであったのだな、と思います。
    小さなころ、母がおらずとも育ててくれた伯母がいて、慈しまれて育ったのがわかります。諭吉さんの背中から隅田川を見て、みなで一日かけてお芝居を観にいき、浜離宮で従兄弟と遊ぶ…江戸の思い出は、家族がいて、家があって、楽しくて、なんだかキラキラしています。
    だから14歳なんて多感な時期に明治維新を迎えることが痛ましくてなりません。

    『幕臣たちの明治維新』と似た流れをもつこの本に感じることは、明治維新は本当に天と地がひっくり返ったのだ、ということです。
    それまでお姫様だったみねさんも一転、貧乏長屋住まいで父の微々たる収入の仕事を手伝います。


    読んでいると、人々が今まで太陽だと思って永々と営んできたのに、突然薩摩長州なんて遠いところから来たよくわからない人間に「もうこんな古い太陽はいらぬ。いいかあれは偽物の太陽だ。本当の太陽はこっちだ」と言って大きな黒子つきのもっと古い太陽をひっぱりだしてきた感じがします。


    文中でみねさんは意見のあわない夫に、薩長は徳川を細かく悪く言って自分たちは忠義というけれど、忠義といっていることを忘れない忠義、皇室も自分がいないと困るだろうというような鼻の高い忠義だ、と言っていますがまったくその通り。
    だからこそ、薩長ばかりが要職につくのでしょう。もし本当に忠義なら、そんな仲間意識や優越感なんて排して、皇室のために必要な人材を差別せず手当たり次第集めればいいのです。

    さすがに、徳川に否定的な夫でもこれは肌で感じていたことだから余計になにも言えなかったことでしょう。

    それでもふたりは「西郷どん」については共通した思いをもっていたから、西郷さんの名前がでるとケンカは収束します。生きていても、死んでからもすごいお人らしい。
    この夫婦のケンカはあまりにも生活してきた基盤に流れていた思想(しかもそれはみねさんにとっては生活そのものでもあった)が違うことから生まれるケンカですが、みねさんにとっては敵方であった西郷さんは、その人柄ゆえに江戸で受け入れられていたのでしょう。

    みねさんの苦労は、そのほとんどが、自ら飛込んだが故に生まれた苦労ではありません。
    江戸末期の生まれ、
    旗本の生まれ、
    蘭学者の家の生まれ、
    幕府滅亡、
    明治維新、
    一家離散、
    勝手に進む見合い話、
    西南戦争、
    夫の転勤、
    夫の死…

    そのすべてを飲み込んで、ただ自分のことをありのままにはなして聞かせ、昭和の時代に亡くなったみねさんは、市井のひとなのにそうではない。
    天地がひっくりかえり太陽が替わった明治維新のとき、それぞれがそれぞれの物語があったのだ、ということなのだ、とつくづく思う一冊でした。

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著者プロフィール

歴史家。1965年、千葉県生まれ。早稲田大学教育学部卒業、同大学院文学研究科博士後期課程満期退学(文学博士)。JR東日本「大人の休日倶楽部」など生涯学習講座の講師を務める。おもな著書に『江戸の間取り』『大名格差』『徳川幕府の資金繰り』『維新直後の日本』『大名廃業』(彩図社)、『15の街道からよむ日本史』(日本ビジネス文庫)、『東京・横浜 激動の幕末明治』(有隣新書)、『徳川時代の古都』(潮新書)などがある。

「2024年 『江戸時代はアンダーグラウンド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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