新書459吉本隆明1968 (平凡社新書 459)

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582854596

作品紹介・あらすじ

団塊世代を中心に多くの支持を獲得してきた吉本隆明。独学によって自らを鍛え、比類なき思想を作り上げた彼の根底にある倫理観とはいかなるものだったのか-。「永遠の吉本主義者」がその初期作品を再読、自らの「一九六八年」の意味を問い直し、吉本思想の核を捉えた著者渾身の評論。吉本隆明はいかに「自立の思想」にたどり着いたか。「私小説的評論」を通して、その軌跡をたどる。

感想・レビュー・書評

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  • 吉本隆明を読むためのブックガイドとして良いのではないか。自分の言葉で、自分の生活に引き付けて、エモーショナルに語ることは大切だと感じる。

  • 2016/6/29購入
    2021/8/15購入

  •  3月に、ニューヨークに20年ぶり?に行った際に、父の友人(日本人)宅に泊めてもらい、そこで発見した本著。元々吉本隆明の本をいくつか読み、ファンであったため、見つけた時に驚いたのだが、なぜ持っていたのだろう…
     本著は当時の時代背景を知らないと、理解が難しい。

  • 1968年の学生運動にコミットした著者が、当時の若者たちがなぜ吉本隆明を支持したのかということを明らかにする試みです。

    転向論や芥川龍之介論を読み解くことで、吉本の思想の中心概念である「大衆の原像」が当時の学生たちにどのような問題を投げかけたのかを解き明かします。その後、本書で著者がもっとも力を入れて論じている、『高村光太郎』の解読がつづきます。フランス留学時にロダンに触れることで掲示された「世界的普遍性」と、父・光雲によって象徴される「日本的特殊性」のあいだで苦悶した光太郎は、長沼智恵子との恋愛、結婚、セックスに「性のユートピア」を見いだし、それによって問題の解決を図ろうとしたと、吉本は考えました。そこには、西洋的な教養に生きる個人と、彼の生活を支えてくれた「家」との葛藤という、近代日本の伝統的な問題と密接に結びついていることが見てとられます。

    しかし、やがて智恵子との生活は破綻し、「世界的普遍性」と「日本的特殊性」の矛盾を彼女との生活という「自然」において止揚することをめざした光太郎のもくろみは挫折することになります。その結果、彼は大東亜戦争の肯定という道へ進んでいくことになります。

    著者は、吉本の高村光太郎論を紹介するとともに、そうした吉本の問題意識が、郷里の親たちの期待を受けて大学に入学しながら、マルクス主義の説く革命に自分自身の理想を重ねあわせようとした当時の学生たちを動かしたことを指摘しています。

  • 売却済み

  •         -20090731

    「吉本隆明の偉さというのは、ある一つの世代、具体的にいうと1960年から1970年までの十年間に青春を送った世代でないと実感できないということだ」という団塊の世代の著者が、吉本隆明はいかに「自立の思想」にたどり着いたか、著者流の私小説的評論を通して、その軌跡をたどる。

  • ・今年吉本隆明が亡くなった時、一度はその著書に目を通してみたいと思っていたが、ようやくその機会に巡り合うことができた。と言っても、本書は鹿島茂著である。吉本隆明その人の文章はあまりに難解なためとても理解できるものではないと思い、多少なりとも馴染みのある鹿島茂を通して、その世界の一端を垣間見ようと思った。
    ・本書もやはりなかなか難解で理解に苦しむ箇所も非常に多かったが、それは彼ら団塊の世代(鹿島茂)やその親の世代(吉本隆明)の生きてきた社会的背景が、僕の生きている時代とあまりに異なるからとある種の割り切りをもって読み進めることで、何とか克服した。
    ・鹿島茂(また彼という人間を通した吉本隆明)が言わんとしていることは、体感としては感じ取れたと思っている(文章として書き著すことはとてもできない)。なぜ団塊の世代のある種の層は、吉本隆明にこれほどまでに魅かれたのか、初めて僕の中でも感覚として落とし込めたように思う。
    ・本書を読んで、僕自身、高校も終わりを迎えた頃に「大学に行けばすごい世界で勉強できるんだ」という過剰な期待を持っていたことや、また卑近な例だが当時父親に城山三郎の「落日燃ゆ」を勧めたけれど、全く読んでもらえなかったことにある種の憤りを感じたことを思い出した。社会的状況は異なるが、本書で語られていたことと重ねられる部分もあり、懐かしく思った。
    ・吉本隆明がある層に一定の共感を得たのは、『吉本隆明はお為めごかしや偽善的なことは絶対に言わない」という非常に単純な「倫理的な信頼感」であった』(P413-414)というのは、なるほどと思った。
    ・大雑把に言えば、日本における、現代まで続く思想的な側面における諸相の根源には、明治時代から強力に浸透していった西洋化の波を、各々がどう受け止めるのか、また対峙するのかという問題があるのだと感じた。
    ・本レビューはいつにも増して何を言っているのか分からないと思うが、自分のこの複雑な思いはうまくまとめあげる自信がない。自分へのメモとして書き残す。

  • 67点。吉本隆明の思想や論理はあまりに脆弱で隙だらけだとか、ポストモダン論者からみたら、スターリニズムを諸悪の根源とするのは古すぎ。とか言われたりしているが、ある世代の人たちからは絶大なる支持を集めているのも確か。
    自分ら世代でぶっちゃけ吉本隆明ファンという人は聞いたことがない。
    著者もそれくらいのことはわかっていて、60年から70年までの10年間に青春を送った世代でないとわからないだろうといっている。
    そしてまた、吉本隆明の本質は『共同幻想論』などの主著ではなく初期の論文集に、現れているんだって。
    本書はそんな青春時代がまさにドンピシャな著者が、当時どのように吉本隆明を経験したのかを振り返りながら、初期作品に焦点をあて吉本思想を論ずる私小説的評論。世代間の共通認識の隔たりってなかなか埋まらないけど、なんとなくの理解の一助にはなります。

  • 先日吉本隆明が他界したときに、ちょっと前に本書を古本屋で購入していたことを思い出し、引っ張り出して読んだ。
    「吉本隆明」という名はよく目にもするし耳にもするのだけれど、一体何をやったから「巨人」などと形容されるのだろう、というちょっとした好奇心があるだけだった。本書はそれに十分とは言えないまでも応えてくれた部分はあった。
    著者の鹿島氏の問題意識、というかこの本を書くそもそものはじまりが「なぜ我々の世代が吉本隆明を支持したか」というところなので、その点が興味深くて読んだ。

    前半部分の「転向」に関する箇所、そして芥川龍之介や高村光太郎の分析についての解説はとても興味深く読めた。とりわけ芥川・高村両者の出身階級と内面(精神・価値観)との関係性を作品から導き出していく過程は見事。文学論に関しては実際に吉本の著作を読んでみたくなった。しかし、後半のナショナリズムに関する話がちょっと頭にはいってこなかった。自分の嗜好と集中力の問題もあるかもしれないけれども。
    あと、気になったのは吉本の著作の引用の後にやたら褒めまくる点。「なんという見事な分析でしょう!」的なことが何回も書かれてある。著者が「吉本主義者」というのは自分でも認めており、それはそれでいいのだけれど、何度も『ビフォーアフター』の加藤みどりを彷彿とさせるような口調で言われると、いや、わかったから…とうんざりしないでもない。

    ともあれ、「吉本隆明」を知らなかった自分にとっては読んでよかったと思える本だったし、興奮した箇所もいくつかあったので、有意義な読書であったことには違いない。

  • 本書を手に取ったのは単なる偶然だった。2011年12月末をもって東梅田の旭屋書店が閉店するというので、とりあえず目に付いた書物を買い漁ったのだが、そのなかに本書は含まれていた。なぜ目に付いたのかというと、おそらく現代思想を語る上で吉本隆明は避けて通れないのだろうが、『共同幻想論』で早々に降参した僕には負い目というのがあり、著者もおなじみの鹿島茂なので、いっちょ読んでみるかと考えたように思う。そうこうしているうちに、とうの吉本隆明が鬼籍に入られて、これもなにかの運命かと思い、いろいろ悩みを抱えていた折なので、注意深く読むことになった。人間のサガとして楽な方に流れるのは否めない。ときに考え方ときたら極端に顕著で、僕自身のことを言えば、自分の都合の良いように還元して、他者の立場とか意思とかをないがしろにするという傾向が強い。とんでもない言い訳だが、理学的な発想というのは定点観測から全体像を掴むもので、捨象することが解答にたどり着く最短の道筋だと居直ることを是としてきたのだが、鹿島茂の語る吉本隆明の思想に触れて、生き方に軌道修正を余儀なくされた。僕らは日本人なのだから、出自やしがらみから完全に脱却することは不可能なのであり、学問も西洋のように神に近づくための術ではなく、どこか宙釣りにならざるをえない。つまり、定点観測ではなく、複眼的な立場を取ることでしか、「日本」という現状にかぎれば、僕らはなんにも言及することを許されない。それって不条理なことだと思うのだ。でも、それが現実であり、カタストロフが迅速に訪れない現状なのだから、それを受け入れるしかない。それは『バイバイ、エンジェル』で矢吹駆が、ラスコリーニコフじみたニヒリズムに取り付かれたテロリストに諭す言葉に通暁しているようだ。分かったようで、分からない。大人になるってのは厄介だ。吉本隆明が聞いたら朗らかに笑ってくれるはずだろう。

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著者プロフィール

1949(昭和24)年、横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ風俗』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「All REVIEWS」を主宰。22年、神保町に共同書店「PASSAGE」を開店した。

「2022年 『神田神保町書肆街考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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