犯罪者の自伝を読む ピエール・リヴィエールから永山則夫まで (平凡社新書)

著者 :
  • 平凡社
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本棚登録 : 89
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582855432

作品紹介・あらすじ

尊属殺人事件、無差別連続殺人事件、人肉食事件…世を騒がせ、人々を震憾させる凶悪犯罪。犯行の異常性ばかりを喧伝するメディアの陰で、見えにくくされたものとは何か。自伝分析から、犯罪者を線引きし創り出してきた社会の「負のメカニズム」の輪郭を描き出す。狂信者から性倒錯者、精神障害者まで-犯罪者とは、だれなのか。

感想・レビュー・書評

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  •  おもに19世紀のフランスを舞台にして、社会と自己に対して訴えかける「自伝」を取り上げ、彼らがおかれた社会的な環境、犯罪者として生きざるを得なかった背景、またその産物である自伝に対する(政府や人民といった)社会の犯罪への認識を読み取ることのできるおもしろい本です。

     犯罪者という、自伝を書くような偉業とは程遠い人びとが自身の罪や人生を語るとはどういうことなのか。彼らはその記述によって社会に対して自身の犯行をめぐる主張を行い、あるいは潔白を訴えかけます。その自己弁明は同時に、彼ら自身が自分を語ることによって自分と対話を重ねることでもありました。

     とくに、比較的裕福な家庭に生まれながら不遇の扱いを受け、さらに社会からの疎外感によって「社会の災厄」として犯行を重ねていったピエール=フランソワ・ラスネールの自伝にはこんにちの日本でもありうるような社会体制への恨みが書き綴られていると思いますし、疑問点が残されたまま夫をヒ素で殺害したとされたマリー・ラファルジュの自伝では、彼女が異なる社会(貴族的→商人、パリ→監視的農村)に放り込まれ翻弄されながら生きてゆく様子が描かれているようです。とても興味深い内容だと思いました。読んでみたいのですが、和訳はないようで……。

  • 19世紀以降のフランスを中心とした、犯罪者の自伝を紹介。

  • 「犯罪者の自伝」を受けてどう考えたか、
    または社会がどう変化したかを丁寧に説明した本。
    作者自身のそれらへの評価は研究者の姿勢を一貫している印象。個人的には嫌悪してそう。

    最後にあった一文、
    「犯罪者であるという事実が、彼にとっては自己の存在理由になった」
    あってはならないし増やしてもいけない、どこか虚しさを感じさせる自己定義だと思った。

  • とてもおもしろい。
    「死刑囚 永山則夫」を読み、そこからこの本を手に取った。
    犯罪、そしてそれを取り巻く時代背景や環境に興味があったので、どの章も非常に興味深く、今後の司法や、精神鑑定もきっと形が変わって行くのだろうと思えた。

    しかし、ここに挙げられるどの犯罪者も、獄中で自己を語る自由を得るわけだけど、そこまでの人生や環境から、なかなか脱却することができないのは本当に不幸であり、けどそれが誰にでもある現実だと思った。

    とても勉強になる一冊です。

  • 数人の、しかし個性が全く違う犯罪者ならびに犯罪者回り(?)の人を採りあげて、自伝を紹介した本。
    自伝だけではなく、その人の生い立ちや思想、また当時の社会背景等も詳細に記されていて、文学の香りが高いノンフィクションといったところ。

    何より良いのは、著者の文章がめちゃくちゃうまいこと。
    軽すぎず重すぎず、正確性をそこなわないギリギリのところで、うまく興味をそそる煽り方をしている。
    こういう文章が書けるようになりたいなあ。

  • 読み始めた動機は、NHKラジオフランス語講座のテキストにこの筆者の名前を見つけたことです。読み応えのある新書でした。

  • 読んだ。

  • あな怖ろしや、もとい、恥ずかしながらというべきか、誤解を恐れずにいえば、土木作業員が保険外交員を殺害するなどという平凡な悪人にはあまり興味はわかず、あるいは近頃のそこいら辺に雨後の筍のように出没している、世の中が嫌になったからとかお金がほしくてとか、誰でもいいから殺したくなったという子供っぽいアマチュア犯人にも触手は動かず、それよりなにより、あろうことか、こと憎悪に満ちた狂熱的で思索的な古典的犯罪者に関しては、ものすごく無性に知りたがる性分で自分でも困っています。

    まさかそういう性癖だからミステリの深みにはまったわけではないと思いますが、そのあげくの果てには、ついにもっとも過激な犯罪論にまで手を染めてしまう始末で、それが、奇しくもご両人とも昨年一昨年と鬼籍に入ってしまわれた、『犯罪風土記』の著者・朝倉喬司と、『あらゆる犯罪は革命的である』を書いた平岡正明は、それこそ平身低頭、一目も二目も置いて崇めたてまつっておりますです。

    というか、両巨頭によって犯罪の犯罪たる所以、あるいは犯罪の真髄・真骨頂を啓示されて真の犯罪者というものがいかに素晴らし・・、いや、これ以上はよしましょう。

    あっ、それからもちろん、コリン・ウイルソンを忘れるわけにはいきません。『現代殺人百科』に『コリン・ウイルソンの犯罪コレクション』そして『世界犯罪史』などは、プロファイリングなどという言葉が出廻る前から着目していて、その精神分析学や文明批評・社会システム論的に解析してみせてくれる記述に夢中でした。

    ええっと、ただ一点、現実的に盗まれたり殺されたりしてしまった被害者の方には、まことに気の毒でさぞかし理不尽で無念だったことでしょう。そのことを思うと、興味本位で犯罪と犯罪者のお尻を血眼になって追いかけている自分は、いかに犯罪的かなどと思ったりして、内心忸怩たる想いがしますが、どうか平にご容赦いただきたいと懇願するしか方法を知りません。

    ところで、そうかといって変態趣味丸出しの、手足や内臓が切断されて飛び跳ねたり、脳味噌や血飛沫が飛び散るスプラッターまがいの描写も現実にも、これだけはとうてい肌に合わないどころか、きっとたちまち内臓の中が空っぽになるほど嘔吐して、気絶して卒倒してしまうほどみっともない無様な醜態をさらすのが落ちだと思います。

    ・・と、またしても中身に触れる前に終わってしまいそうですが、まっいいか。

  • ピェールリヴィエールは今ならアスペとか発達障害とかいわれるんじゃなかろうか

  • フランスの犯罪者たちの自伝を紹介している本。最後には日本の犯罪者のものも。
    どの犯罪者も反省0だったのが…。美達大和の言うとおりすなぁ。

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著者プロフィール

1956年生まれ。東京大学大学院博士課程中退、パリ・ソルボンヌ大学文学博士。現在、慶應義塾大学教授。専門は近代フランスの文学と文化史。著書に『ゾラと近代フランス』『革命と反動の図像学』(以上、白水社)、『写真家ナダール』『愛の情景』『身体の文化史』(以上、中央公論新社)、『犯罪者の自伝を読む』(平凡社新書)、『パリとセーヌ川』(中公新書)、『近代フランスの誘惑』(慶應義塾大学出版会)、『「感情教育」歴史・パリ・恋愛』(みすず書房)、『歴史と表象』(新曜社)など、編著に『世界文学へのいざない』(新曜社)、訳書にユルスナール『北の古文書』(白水社)、アラン・コルバン監修『身体の歴史 II』(監訳、藤原書店)、フローベール『紋切型辞典』(岩波文庫)、ルジュンヌ『フランスの自伝』(法政大学出版局)など多数。

「2021年 『歴史をどう語るか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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