サンデルの政治哲学-<正義>とは何か (平凡社新書)

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582855531

作品紹介・あらすじ

「ハーバード白熱教室」での鮮やかな講義と、核心を衝く哲学の議論で、一大旋風を巻き起こした政治哲学者マイケル・J.サンデル。彼自身の思想と「コミュニタリアニズム」について、サンデルがもっとも信頼を寄せる著者が、その全貌を余すところなく記した。

感想・レビュー・書評

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  • 白熱教室や「正義の話」から少し距離を置いて、サンデル先生の正義論や哲学を解説した好著。胚細胞の議論がとくに興味深かった。しかし、どのような正義論も根底には自分の価値観があり、そこから逃れられず、したがって絶対的な正当性は保証できない。今年考察したい医療倫理についても大変示唆的な本だった。

  • 「白熱教室」「これからの正義の話をしよう」などで話題になっている、
    政治哲学者マイケル・サンデルの思想について書いた本。

    サンデルの書いた内容を噛み砕いて説明した入門書かと思っていたが、
    実際にはサンデルの著作ひとつひとつの内容を丁寧に解説し、
    政治哲学という学問の歴史や発展の経緯も含めて、
    「サンデルとは何者か」「どんな主張をしてきた人か」というのが、
    門外漢の素人にもわかるようにしてくれている、
    非常に内容の濃いものだった。

    僕は、サンデル本人の著作を読む前に、
    読んでみるべきかどうか、ざっくりとした感触を知りたいな、と、
    軽い気持ちでこの本を買ったのだが、
    むしろ本人の著作を読む前に、サンデルがどういう人なのかを知ることができて、
    とても有意義だった気がしている。
    つまりこの本のおかげで、このあとにサンデル本人の著作を読むに当たって、
    その主張するところを冷静に受け止めることができる下地を、
    先につくることができたように思うのだ。

    サンデルには興味がある。
    その主張も、ざっと聞いたところでは何やらかなり正しそうに見える。
    でも、「白熱教室」に見られるような、あの巧みな会話法は、
    逆に、そうでないことでも正しいような気持ちにさせられるような気がして、
    逆に読んでしまうのが怖いような気もしていた。
    冷静に受け止めるのではなく、魔法にかけられたように
    信奉者になってしまうのはいやだなぁ、とかそんな気持ちがあったのだ。

    でも、この本を読んでわずかとはいえ予備知識を仕入れた後ならば、
    少しは冷静に読むことができそうだ。
    この本の中で整理されたサンデル自身のコミュニタリアニズム、
    あるいは共和主義というような思想について、だいぶ共感しつつも、
    まだ半信半疑なところが僕にはある。
    サンデルの著作で、それぞれの思想の具体的な実践例を見て行きつつ、
    僕自身のこの思想に対する態度を考えていきたい、と思っている。

  • • 現在進行形である政治経済の問題を議論する際には、どうしても実例を取り上げて論じる必要が出てくる。(21)
    • 具体例だけ論ずるのではなく、必ず抽象的な原理・原則と関連させて議論を進めるのも大きな特徴だ。実例だけでは哲学にならないし、他方、抽象的な原理・原則だけ検討しても机上の空論に陥りやすく、多くの人たちを惹きつける魅力に欠けてしまう。印象的でリアリティあふれる具体例と、原理・原則との絶え間ない往復運動が、前述した弁証法的な方法であり、彼の政治哲学の重要な特徴のひとつである(21-2)
    • 学問の原点回帰(26)
    哲学の原点は、ソクラテスと登場人物との生き生きとした対話にある
    • なぜ日本では政治哲学が導入されなかったのか(31)
    多くの学問が導入された明治時代には、政治哲学を研究すると、すぐに主権とか天皇制の問題などに触れてしまうので、その危険を避けた
    • 現代の主流派経済学の基礎にあるのは、「喜び」ないし「快楽」を「効用(utility)」とする功利主義(utilitarianism)の考え方である。(46)
    • 功利主義的発想が端的に現れてくるのが、経済指標のGNPを至上視する見方である。お金を持っていることが喜びないし快楽と連動していると考えれば、喜びや快楽の合計は、GNPという指標に表れることになり、GNPの成長が社会の幸福の増大ということになる。ここから、「経済成長を最も大きくすることが政治の目的である」という考え方が現れることになる。(46)

  • サンデルの本(これからの正義の話をしよう)の要約。こちらの方がある意味わかりやすいかもしれない。

  • リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリズム。
    ハーバーマスはリベラリズム。アメリカと欧州では、その文脈が異なることに注意。

  • 105円購入2014-03-30

  • それでも難しい『サンデル教授』。なぜあんなに売れたんだろう?どれだけ理解できたんだろう?

  • マイケル・サンデルの主要著作を読み解き、彼の政治哲学の全体像を示している入門書です。

    著者は、『正義論』におけるロールズのリベラリズムが「負荷なき自己」という考えに立脚していることを批判した、サンデルの『リベラリズムと正義の限界』の内容を解説している章で、この著作によってサンデルは「ロールズの魔術を解く」ことに成功したと述べています。ロールズの『正義論』は、功利主義的な政治・経済思想が社会に浸透しつつあった20世紀において、「善」と「正義」を切り離すことによって政治哲学を一挙に活性化させることに成功しました。ところがサンデルは、こうしたロールズの戦略の背景に目的論的な「善」がひそかに前提されていることを指摘しました。そのような観点からロールズの「無知のベール」の仮説をみなおしてみると、それは私たちのコミュニティにおいて当然あるべき「公正な正義」を認知し発見していくプロセスだったと考えることができると著者は言います。そして、このような見方を可能にしたサンデルのロールズ批判を、「ロールズの魔術を解く」ことに成功したと表現しています。

    そのほか、『リベラリズムと正義の限界』におけるロールズの立場の変化に対応し、サンデルが『民主政への不満』において「負荷なき自己」に対する批判から、「善に対する正(ないし権利)の優位性」に対する批判へと焦点を変えていった経緯を説明しています。また、コミュニタリアニズムの代表的論客とされるサンデルの立場とは、ウォルツァーのように共同体の内部における基準を絶対的なものとみなすのではなく、「負荷ありし自己」の立場から目的論的な政治倫理をめざす立場だということを解説しています。

    私自身は、現代アメリカの政治哲学ではローティのプラグマティズムにもっとも親近感を抱いているので、本書で紹介されている具体的な問題に対するサンデルの主張には違和感を覚えることも少なくなかったのですが、コミュニタリアニズムとして一括されるサンデルの思想の具体的な中身について知ることができたという意味では有益だったように思います。

  • サンデルの著書を翻訳し、白熱教室等の解説をされている方の著作です。一見難解な言葉も、とてもわかりやすく理解できます。ボリュームがあるため、新書としてはヘビーですが、やさしめの専門書ととらえると値打ちがあります。

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著者プロフィール

千葉大学大学院社会科学研究院教授
東京大学法学部卒業
〔主要業績〕
『サンデルの政治哲学――〈正義〉とは何か』(平凡社,2013年)
『コミュニタリアニズムの世界』(共編著,勁草書房,2013年)
『ポジティブ心理学――科学的メンタル・ウェルネス入門』(講談社,2021年)

「2021年 『公正社会のビジョン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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