- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582855555
作品紹介・あらすじ
1910年、大日本帝国自立の犠牲として同時並行的に生起した大逆事件と韓国併合。天皇制国家の理想は植民地主義的想像力と結びつき、日本人の境界を規定する排除/内包の構造を創出した。その衝撃から産み落とされた「日本語文学」を再読し、事件から百年の今、国民国家のフィクションを暴き出す。日本人、在日朝鮮人、被差別部落民、引揚者たち-「日本人」とは誰なのか。
感想・レビュー・書評
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明治までは「日本という国家」の認識が人々にはなく、日清日露を経て「日本国民」という意識を生み出すために「日本人ならざるもの」を捏造して外敵とみなした、という視点においての大逆事件を取り扱っている。
佐藤春夫と与謝野鉄幹についてさわりつつも、森鴎外はスルーして夏目漱石と谷崎潤一郎の作品に落ちている影を拾っているのが目新しいところか。
タイトル通りの内容は一、二章で、その後は明治から昭和までの小説、および文壇から読み取れるホモソーシャルな関係性について、話の主軸が移っていった印象がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文学者たちの大逆事件と韓国併合 (平凡社新書)
(和書)2011年08月11日 14:38
高澤 秀次 平凡社 2010年11月16日
高澤秀次さんには朝日カルチャーセンターと長池講義でお目にかかったこともあり、この本の題名にも興味を覚えて手にとってみました。
なかなか興味深く、この主題なら新書ではなくて大書に書き上げても良かったとも思うけど、普及版として読みやすくこれでも良かったのかもしれない。
高澤さんの本で吉本隆明さんのことを書いた本を、朝日カルチャーセンターの講義後のサイン会と書籍販売で見かけたので、その本も読んでみようと思います。 -
新書文庫
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2012/12/11購入
2013/3/15読了 -
この新書のタイトルにもある「大逆事件」、俺が持っている山川出版の「日本史用語集」によると
1910年、無政府主義者の明治天皇暗殺計画という理由で、幸徳秋水・管野スガら社会主義者26名を起訴。翌年全員有罪とされ、幸徳・管野ら12名が死刑となった。以後社会主義運動は不振となり、「冬の時代」と呼ばれた。また石川啄木は「スバル」の詩人で事件担当弁護士の平出修から情報を得て深い関心を持った。
とある。俺は、幸徳秋水、「大逆事件」について、さらに突っ込んだ事を知る目的で、この新書を取ったが、ここに書かれているのは、「大逆事件」そのものより、「大逆事件と韓国併合が与えた影響」(ちなみに共に1910年に起こった)を当時の文学者(夏目漱石、永井荷風、与謝野鉄幹など)や後の文学者(三島由紀夫、大江健三郎、開高健など)に与えた影響をそれらの作品の文中から汲み取り、高澤秀次の解釈を読む本であった。目的から外れてしまった。
俺はこの間ベトナム戦争について知りたくなり、開高健の「ベトナム戦記」を読んだが、似たような失敗だった。「この一冊で、手っ取り早く知ろう」的な目的で情報を得ようとすると、ろくな事にはならない。ちょっと反省(けど、また繰り返すだろう)。
しかし、たまにこの手の本を読むと関心させられるのが、無意識に読んでいた小説が、持っていた構造である。
筆者の高澤秀次は文芸評論家、
夏目漱石「坊ちゃん」の構造を、「坊ちゃん」は、生粋の江戸っ子、パートナーの「山嵐」の出身が会津、で敵対する赤シャツが山の手弁を使う事から(赤シャツの出身はあかされていない)事から、赤シャツは、維新政府の高位高官の子と推定、幕末の旧官軍と旧賊軍の、幕府と新政府の末裔の対決という構造
と指摘。漱石が実際そう意図したかはわからない(けど、この指摘は事実だと思う)。俺は「坊ちゃん」を読んだのは、中学の時だから、そんな事、考えもしなかった。そして、その解釈にグッと読み応えを感じた。
この新書で取り上げられた様々な作品のうち、俺が読んでいたのは、金石範「雅の死」、開高健「日本三文オペラ」、三島由紀夫「英霊の声」、ぐらいであったが、高澤秀次の解釈、ウンチクは楽しく読めた。で、この新書で取り上げられた小林勝の「蹄の割れたもの」、井上光晴の「地の群れ」を読もうと新たな意欲が湧いた。
一方で高澤秀次の日本の韓国併合に対する、植民地主義が全てとする、考え方(少なくとも俺にはそう思えた)には、違和感を覚えた。日本は、当時、韓国が自前で、近代化する事を願っていたとする情報は、多々読んだ事がある。決して綺麗事ではなく、日本にとってその方が、安上がりで、侵略される可能性も低くなるから、というのがおおざっぱに俺の知っている事だが、その辺の事情を高澤秀次は、目を背けているように感じた。
しかし、また、俺がまだ当時をよくわかっていないのかもしれない。まあ、じっくりとこの疑問を今後、読書で解明できればと思えた。 -
4/9
全編通して面白かったし、特に大逆事件と文学者のかかわりについてこれまで頻繁に語られてきた鷗外や啄木だけでなかったのはよかった。
ただ、安易に「ゼロ年代」とか使わないほうがいいと思いますよ。 -
整合性よりも熱がある