マンガはなぜ規制されるのか - 「有害」をめぐる半世紀の攻防 (平凡社新書)

著者 :
  • 平凡社
3.10
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本棚登録 : 212
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582855562

作品紹介・あらすじ

東京都の青少年条例、児童ポルノ禁止法など、マンガについての規制が強化されつつある。日本独自の表現であり文化であるマンガは、なぜ国や自治体に縛られなければならないのか?規制の仕組み、バッシングの歴史などをわかりやすく記述し、「非実在青少年」問題の深層を解明する。

感想・レビュー・書評

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  •  いわゆる「非実在青少年」で話題になった東京都青少年健全育成条例にまつわる解説。この、「〇〇はなぜ△△なのか」というタイトルの付け方は最近の流行に沿ったのかもしれないが、その質問の答えが示されているわけではない。むしろ副題にあるように、「マンガはいかに規制されてきたか」と言うべき内容だ。

     著者は規制反対の立場であるため完全に公正中立な内容とは言えないが、事実の提示と著者の意見は一応区別できる記述にはなっている。従って、この問題について考察するための資料として使える本だと思われる。

     条例の内容や推進派の主張について思うところは多々あるがここには書かない。彼らが規制によって具体的に何を実現しようとしているのかが不明なので、できればそれを述べた本でも読んでみたいところだが、そういう本は見当たらない。多分、漠然とした嫌悪感以上の理由はないのだろう。

     本書の初版発行からちょうど1ヶ月後に都議会は条例改正を可決した。施行は今年7月からだが、石原都知事の人気はその前に切れ、選挙が実施される。石原氏が出馬するかどうか現時点では不明。やれやれだぜ。

  • マンガに対する規制とそれに対抗する動きを紹介する一冊。前半で昨今の状況、後半で戦後以降のマンガ規制に関する歴史を紹介している。

    [マンガ規制反対派の<弱さ>を示す一冊]
    読んでいてとにかく不思議でならないのは「人を楽しませるのが商売の漫画家がそのおもしろさを保つために規制と戦う。こんな面白い話をなぜここまでつまらなく紹介できるのか?」ということ。
    マンガはバトルが命、という部分があります(少年向けは特に)。この本はベースに『バトル』があるにも関わらず、その命を失ってしまっている。

    正直なところ、この本よりももっと「マンガへの規制との戦い」を描いている本はあると思うのです。例えば「コミックマスターJ」という本があって、そこでは『非実在のマンガアシスタント』が活躍する中で『マンガを規制しようとする人たち』とも戦う。その過程の中で「まるでマンガキャラ並みに滑稽なマンガ規制派たち」の姿も描かれる。
    別に面白くなければ本じゃない、というわけではない。しかし、ある意味で「面白い」題材を面白く書けていない、というのは良い悪いは別として不思議な現象だと思う。

    [マンガ規制賛成派の<強さ>を示す一冊]
    この本で強く感じたのは『非実在青少年』という言葉が持つ無限の可能性。
    物語で書かれた『非実在青少年』の受難が、現実に影響し「実在の青少年」に不利益を与えるのではないか?という、そんな考え方。

    しかし、この『非実在○○』という概念は非常に独創的。
    例えば、絵を描くのが好きで絵に貼るトーンの種類のことで頭がいっぱいの「実在する青少年」は、自身の属する学級では「存在感のない子」だったかもしれない。でも、そんな彼・彼女が書いた『非実在青少年』の物語はもしかすると「実在の青少年」に影響を及ぼし、ついには政府や各種団体をも動かした(横やり、という形ではあるがw)。

    例えば、とあるサッカー漫画に出てきた『非実在サッカー少年・大空翼』の物語は、国境を越えて「実在のサッカー少年」に影響を与え、そんなサッカー少年の一部は今開催中のW杯サッカー大会にも出場している、と聞く。

    「だからこそ、『非実在青少年』の活動を制限するべきだ」という考えも分かるし、「だからこそ、『非実在青少年』の活動を規制することは「実在の青少年」を縛るのと同じだ」という考えも分かる。本来、どちらが正しい、と白黒付けるような問題でもないような印象は受ける。
    ただ、そんな万能の言葉『非実在青少年』という言葉を作り出したのは表現を規制しようとしていた側である、という皮肉な現実には目を向けるべきだと思う。

    [総じて言えば]
    「事実の列挙」のような記述が多くあり、「正しい一冊」ではあるのですが「読むことを推奨したい」とは思わせない一冊。
    ただ、後半の「マンガ規制に関する歴史」は比較的よくまとまっており、一定の資料的価値はあるのではないか、と考える。

  •  日本における漫画などの表現規制の歴史(1950年代~現在)について述べた本。こういう本が出たのも「非実在青少年」という文言で名を挙げた東京都の青少年健全育成条例の影響だろう。

     畢竟、どの時代にも共通して言えるのは、規制は風紀や道徳の遵守云々よりも、行う側の理屈で一方的に行われること。

     この本の記す時代は1950年代の『太陽の季節』と「太陽族」の流行、悪書追放運動や文部省の「図書選定制度」、60年代の東京都青少年条例制定後の「サンデー」、「マガジン」などの少年漫画誌ブーム、80年代後半の宮崎勤事件と様々だが、その裏に規制する行政(東京都など)や規制を求めるPTAなどの思惑があり、注視する必要があることを確認した。

     ただ、東京都の条例に影響を受けたと思われる割には、今現在の問題と直接関わる記述は少なく、機を逸している感じがした。

  • ●太陽族の時代。太陽の季節や処刑の部屋の上映に際し、制定されたばかりの青少年条例によって未成年者の入場が禁止され、母親らによって悪書追放運動が燃え盛った。
    ●サンタフェが18歳未満の時に撮影されたものが、3号ポルノ画像をそのまま当てはめれば、児童ポルノとされかねない。
    ●中行こう。私もハレンチ学園で叩かれた。子供が異性に関心を持つことが罪悪と思って育ってしまうと、大人になったときの衝撃が強すぎる。
    ●手塚治虫。悪書追放運動は、主に青年向きの雑誌が対象だったが、やがて矛先が小人漫画に向けられてきた。
    ●「子供を守る親の会」の中心メンバーは念法真教と言う新宗教の信者さん。
    ● 1992年、「コミック表現の自由を守る会」が立ち上がった。石ノ森章太郎から里中真知子、さいとうたかお、ちばてつやなど。
    ●そもそも漫画を筆頭にした創作物をなぜ規制しようとするのだろうか。
    ●アメリカの諮問機関は、性的メディアに繰り返し接すると、性的関心の飽和より性欲が減少し、性的メディアの解禁で、性犯罪が減少したとの報告を行った。
    ●性表現・暴力表現、1人で見るのか、家族や友人と見るのか、他人と見るのかによって、効果が変わる。表現規制よりもむしろメディアの受容環境を制御することこそが重要だ。
    ●子供にとって「有害」とは何か?大人の勝手な思い込みで健全育成しようとするのは、子供の「自己決定権」の侵害だ。子供の差別である。

  • まんが
    メディア

  • 「有害」図書や「非実在青少年」をめぐる賛成者と反対者の攻防を時代ごとに丁寧に追っている。行政の動き、裁判の判断、賛成者/反対者の運動など幅広い。何度も参照したい1冊。

  • 小さい子を持つ親としては、特に過激なエロの「有害」マンガは見てほしくないし、なるべく遠ざけたいと考えている。
    だけどそのことと、権力が規制することはまったく別の話。いつの時代も、自分が悪とみなすものを権力・暴力で排除しようとする人は存在するんだなー、と悲しくなった次第。

    著者の議論に大筋で同意するけど、もうちょっと中立的な書き方でもよかったんじゃないかなあという気がする。
    本書の書き方だと、「規制派」の考えを改めさせるのは厳しいんじゃないかなあ。

    蛇足ながら、「非実在青少年」の話の時に、呉智英さんが「好色一代男」の話をしていたのが笑った。呉さんの得意とする論法。なるほど、確かに。

  • 青少年条例の問題点とその闘いの方向性、また、戦後のマンガ既成の歴史について詳しい本。そういえば昔、駅前に「悪書追放白ポスト」があったのを思い出す。
    貸本マンガ、不健全雑誌のバッシングが、多くのマンガ家や読み手を傷つけていた。しかし、それ以上に今回の「規制」はおかしい。自主規制がおかしな方向に行かないようにしてほしいと思う。

  • 著者:長岡義幸(1962-)ジャーナリスト。
     <https://twitter.com/dokuritukisya

    【目次】
    第1章 ドキュメント「非実在青少年」規制問題――東京都青少年条例改定案をめぐって
    第2章 規制の論理とその仕組み
    第3章 マンガ規制の歴史1
    第4章 マンガ規制の歴史2

  • 14/06/08、一箱古本市で購入。

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著者プロフィール

1962年生まれ。出版業界紙『新文化』記者を経て、現在はフリーランスの記者。著書に『物語のある本屋  特化した棚づくり』(胡 正則との共著、アルメディア)などがある

「2002年 『出版時評ながおかの意見 1994-2002』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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