森林異変-日本の林業に未来はあるか (平凡社新書)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582855838

作品紹介・あらすじ

二一世紀に入り、日本の森は一大転換期にある。国産材の需要が高まる中、現場には大型機械が導入され、一〇〇ヘクタール以上の大規模な伐採も行われている。しかし造林がなされず、荒地となった林地も少なくない。さらに林業従事者の減少と高齢化に歯止めがかからず、これで打ち止めにするための伐採も散見される。国際森林年を契機として、山の人も街の人も、日本の森の未来をじっくりと考えてみよう。

感想・レビュー・書評

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  • 652-T
    小論文・進路コーナー

  • [まとめ]
    ・外材は国産財より高い。
    ・吉野杉というブランドを活用した産地偽装
    ・国産木材業界の怠慢が林業不振の理由
    ・伐採禁止国の増加による世界的な木材需要の拡大
    ・合板業界の国産材へのシフト
    ・林野庁のB材利用促進策
    ・伐採が進む理由 再造林すると赤字になる。
    ・木材を高く売るための努力が必要

  • 1950年代に外材の輸入が次々に解禁されて木材の供給が増えたことにより、価格は売り手側から買い手側に移って下落した。伐採・搬出、加工、流通ではコストを下げられなかったため、下落した価格に合わせて立木価格は下げられた。また、植林や下刈り、間伐などに補助金が支出されたことによって、作業方法や販売方法の見直しの努力が行われず、採算度外視で伐採して価格が下落するという悪循環を引き起こした。

    外材の輸入解禁に合わせて、営業から建材の調達まで一貫して請け負うハウスメーカーが登場した。建材を大量に仕入れて価格を下げるために、プレカットを利用したため、外材が木造住宅の主流となった。国産材は和室用の役物や集成材の化粧張りに利用されていたが、壁にクロスを張る大壁構法が進んだことで役物の需要は失われた。

    2001年にスギB材(間伐材など)を用いた合板づくりが始められ、表面に外材を用いたサンドウィッチ工法も開発された。2004年、国内の合板・集成材メーカーに国産材用の機械を導入する助成制度が設けられたことによって、杉材を用いた合板や集成材を大量・高速に製造できる機械が17の工場で導入された。2000年から数年間は18%台だった木材自給率は、2005年から上昇し始め、2009年には27.8%まで回復した。

    京都府南丹市の日吉町では、森林整備を請け負うための企画書を森林所有者別に作成して、作業を集約化する「森林プラン」を作成する事業を進めている。長野県上田市のNPO法人フォレスト工房もくりは、森林と共に暮らす仕組みを構築する活動の一環として、地域の木を使ってつくったベンチや格子を設置して街の風景を向上させる景観木工品設置プロジェクトを実施している。

    家具などを製造・販売するワイス・ワイスは、商品の材料調達において合法木材と国産材に見直すプロジェクトを実施している。

    資金面や後継者不足の理由から、伐採しても再造林を放棄する事例が増えている。森林面積のおおよそ5%が無立木地と推測されている。伐採直後は木の根が土壌を掴まえているが、5〜10年経過すると根が腐朽してくるので土砂崩れの危険が出てくる。

  •  日本林業の実情を捉え、一大転換期であることを示す本。
     本書を読むまで林業に対して持っていた認識は、日本の森林面積は有史以来、最大となったものの、国産材が売れなくなったため、放置された森林の適切な管理のために間伐が必要、という程度だった。著者は、現場の実態を調査した上で、もっと大きなライフサイクルの視点で林業と我々との関わりを示し、林業が経済活動であることを再認識させてくれる。

     書かれている中でいちばん驚いたのは、世界的な木材需要の高まりの中で、国産材が引っ張りだこになっており、特に合板業界では自給率が急上昇していることだった。これは驚きでもあり、嬉しい事実だった。

     また、林業がいかに川上から川下のあいだで分断されており、他の業界に遅れをとっているかも明らかにされている。農業であれば、今やスーパーマーケットの売り場で農家の顔写真入りのPOPなど、生産者と消費者を結びつけようという試みはあたり前であるが、林業ではどの市場でどんな木材が望まれているかもわからないまま山主は伐採し、流通業者の言うがままの価格で売っているという。これでは、採算がとれないのも仕方ない。
     これら旧態依然とした慣習を打ち破る経営者や政策が徐々に現れ始め、新しい息吹が吹き込まれているのは良い兆候だが、一巡するのに人の一生を超えるほどの長い期間を費やす林業においては、伐採と造林をセットで考えることが何よりも重要なポイントだと感じた。

  • 客観的事実に基づく分析と示唆。

    ・国産材の量と質を確保すること
    ・外材の国際市場の変化

    政策の力点?
    ・境界線明確化等の基盤
    ・伐採ではなく再造林
    ・バイオマス利用促進ではなくカスケード化の交通整理
    ・研修の促進
    ・木材の価値啓発
    ・認証取得支援

  • 山や森のお話と思って読み始めましたが、
    林業そのものについての内容でした。

    身近な日吉町のことや、twitterでフォローしているトビムシさんのこともかかれていました。

    なかなか知らなかった事柄(日本の林業が抱える問題)が沢山あり勉強になりました。

  • これ一冊で、ここ数十年の林業の歴史と経緯が良く分かります。
    なぜ、国産材が消え、そして復活したのか?
    そして、今、日本の森林に起きている異変とは何か?
    林業の「今」を知るために最適の一冊だと思います。

  • 林業の歴史、問題点、改善点、また林業の大きなながれについて具体例を紹介しながらまとめられている。
    大規模業者による、中小企業への圧迫や、木材管理の適当さは、他の業界でもよく目にすることである。
    特に、農業に携わる人は学ぶべき点が見つかるであろう本。

  • おもしろい!高校地理で習う、外材は安く、そのせいで国産材は押されているという通説をきちんと覆してくれる。現場の動きも多く取り上げられており、勉強になる。京都日吉の森林組合の運営手法が有名だなんて知らなかった。これらに対する反論が見てみたい。

  • 林業のような長期産業にこそ、長期ビジョンが要るけれど、短期産業でさえビジョンが無い中では難しいのかもしれない。
    山を歩く中で、よい植林地に出会うことはあまり無いと感じる。環境保全のための良い森づくりのコストを今から「後づけ」することの難しさも思う。そこのとこの仕掛けを何か作れないか、アイデアをもう少し考えていきたい。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部を卒業後、出版社、新聞社等を経て、フリーの森林ジャーナリストに。森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『虚構の森』『絶望の林業』『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』 (イースト新書)、『森林異変』『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『樹木葬という選択』『鹿と日本人―野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』(ごきげんビジネス出版・電子書籍)など多数。ほかに監訳書『フィンランド 虚像の森』(新泉社)がある。

「2023年 『山林王』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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