3・11後の建築と社会デザイン (平凡社新書)

  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582856125

感想・レビュー・書評

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  • まったく対抗するものでもないであろうが、東北大学で展示されていた「3.11東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展よりも、よっぽど有益な本だと感じた。

    問題は、これをどう実践していくかなのだが。

    まあ、本書で共感できた部分で、自分にもやれることはありそうだ。

  • 東日本大震災は、他の震災と違って日本のシステムそのものの見直しを迫っている。

    [more]<blockquote>P18 都市の根幹に関わる発電所や送電網【中略】等のインフラストラクチャーは国の責任でつくり、その逆にインフラに接続される住宅は個人の責任において作る。それを前提として国家が運営されてきました。それは非常に巧妙な方法でした。国家が住宅に対して一切の責任を負わないというシステムを作ったわけですから。【中略】「一住宅一家族」システムと呼んでいますが、それは単に住宅の供給システムに留まらず、日本の国の運営システムそのものなのだと思います。だからこそ、個人の責任で住宅を作った人たちが今回の震災では最大の被害者になってしまったわけです。

    P32 あいている住空間をシェアする発想で活用することで、公か市場の二択しかない住宅供給のオルタナティブ、第三の選択肢として「仮住まいの輪」の活動があるのだと確信できました。

    P33 関東大震災の後、同潤会によって仮住宅が2000戸あまりつくられました。【中略】80年以上も前の先輩たちは、人間が居住する地域が、住宅のみによって成り立つなどとは考えていなかったということです。【中略】少なくとも同潤会の時代は、医職住の機能がなければ居住環境は成立しないということが暗黙の前提だったということです。

    P47 難しいのは、昨日までのまちや暮らしへの<復旧>と、現在の状態からの<復興>と、明日からの<再生>(概念崩し)という互いに矛盾することもありうる三つの動きを同時に進めなければならないところです。

    P114 今でも国の出す資料、白書は「市民」という言葉を使いません。どれも「国民」です。ですがなぜか「庶民」という言葉は使っていいという不思議な習わしがあります。

    P115 消費のあり方が変わっているのに行政のコンセプトが変わっていない。あるいは経済のあり方が変わっているのに政治のコンセプトが変わっていない。

    P122 単に政策をやりやすい、レポートが書きやすい、予算を立てやすい、人を説得しやすいという、「やすい」ことだけですべてを決めて行く理屈なんですね。こうした発想をいかに乗り越えるかが問われているのだと思います。

    P146 非常時への対応は日常性の延長線上にしかないということです。

    P172 「よそ者、若者、バカ者」が地域に入って行ってどういうことができるのか。そして地域に住み着いてどんな生活を新しく生み出すのか。そうしたソフトの部分がまだまだ考えられていない。

    P189 コミュニティというのは好きか嫌いかではないと思うんですね。コミュニティというものはそこにあるものだと思うんです。嫌いだと言って家に閉じこもっている人を無理やり外に出す必要はないかもしれませんが、それでもそこにコミュニティはある。

    P195 これから10年の間に、1700もの集落が消えてしまいます。この中に僕らがほしかったノウハウは本当にないのかということはすごく気になるところです。

    P230 「風景という知」は風景に関する知識のことではない。逆である。風景が当たり前の日常として、その日常生活、日常的実践(労働)の結果として存在しており、特に風景を論じようなどという人間がいなかった時代には、それにもかかわらず、むしろそれだからこそ「風景という知」が存在した。【中略】風景が希少なモノになると、我々は言い訳をするように風景を論じ始めた。私たちは風景を抹殺しながら、むしろそれだからこそ、風景の重要性について語り、風景を保存しろというようになった。しかし、そこにあるのは「風景についての知」であって「風景という知」ではない。

    P250 これからの日本社会はモノだけにお金を払うのではなく、モノを生み出すまでのストーリーにお金を払う社会に変えていかなければならない。</blockquote>

  • 近代日本人の居住観の問い直し。

    ・一家族=一住宅システム。国家が住宅に責任を負わない
    ・仮住まいの輪:使用貸借契約
    ・戦前は地方自治体がエネルギー政策を積極に行っていた。今も大分県は25.2%自給している。
    ・建築家が建築費の数%もらうと支払いシステムはおかしい。知恵代にすべき。
    ・自殺者3万人と震災死2万人を比べるとマスコミの扱いに差がある。柵を作った大学の話しも示唆的。カウンセラー云々は過剰評価だと思うが。
    ・アイデンティティは他者との関係性の中にある。
    ・地方も自給ができなくなっている。郊外スーパー化。

  • 東日本大震災後のパラダイムシフトについて、主に住宅という観点から有識者が語った本。シンポジウムの内容を書き起こしているために、対話形式となっており分かりやすい。

    20世紀型の家族という最小単位を細分化していき消費を創造していった結果、単身世帯が最大多数という家族構成が主流となり、コミュニティは崩壊していった。そんな中で激甚災害が発生し、多くの日本人がコミュニティの在り方について疑問を持つようになっている。

    従来のような地縁・血縁ではなく、ソーシャルメディアや趣味嗜好の合う仲間といったコミュニティが顕在化しているが、だからといってそれが災害時などの緊急事態に即応できる体制となっているかどうかは別問題である。

    やはりその辺りはある程度公共が関与して、地域や職場といったクラスタでの仕組みづくりも必要であろう。一方で、日本の統治システムでは平常時には上に立つ人間ほど無能であるという意見ももっともであり、緊急時におけるリーダーシップの重要性が認識される体制づくりが急がれる。

    とはいえ、消費ドリブンな都市生活者が多数派である今の時代において、大量生産大量消費社会からの脱却は被災地をはじめとした辺境から始まることは自明である。

  • さまざまな提言、アイデアに溢れた本だった。

    また、それが、すべてを反省し、すべてを新しく作り直そうという極端な方向に走らず、課題は深く認識しながらも、漸進的に少しずつでも変えていこうという地に足の着いた対談になっているところも良かった。

  • これが発刊されたのは昨年の11月。震災から8ヶ月後。私が読み終えたのが、16ヶ月後。本の中では今後の展望が語られ、ひいては日本の行く末がおぼろげながらも明示された。そして今現在、原発は再稼働されつつある。このトンネルはいつ抜けるのだろうか。。。

  • 3.11後に開催されたシンポジウムのまとめ。「1住宅=1家族」の脱構築、解決策としてのコミュニティづくり(生活者視点からの街づくり)をまとめた一冊。戦後の応急処置で展開され、経済政策の文脈で語られてきた「1住宅=1家族」というモデルは1世帯=2名以下、単身者、高齢者がマジョリティーの時代には既に論拠が無い。「助け合って住む」為の互助関係、リノベーションという知恵を通じて、所有から利用を促していくことが大事。換言すると、プロダクトからプロセス、ストーリーでケアしあえる関係を作る為の作り過ぎない、閉じない「アーキテクト」が必要。

  • 3.11を経てはっきりとした形で目に見えてきた社会の歪み、矛盾、構造的な限界を整理し、そこに建築がなにができるのか、を話し合うシンポジウム。
    総論は建築は街づくりであり、社会を作るものであり、といったところは共通認識で、各論まで行くといろんな意見が出てくる。ただシンポジウムを本にした、ということで、個々の議論がそこまで深まりきらない印象があった。

  • 請求記号・518.8/Mi 
    資料ID・310006093
    平成24年3月『震災を忘れない』

  • 2012.02.29 わずか1冊の本の中に圧倒的な量の「知」が満載されていた。これだけの人が一つのテーマを議論した時に起きる「知」の連鎖に身震いした。
    今、日本社会は大きな曲がり角に差し掛かっている。経済の成長局面で出来上がったインフラや社会制度や価値観などがすべて現状とのGAPで機能不全に陥っている。すべてに再定義が必要だと思う。そのうえで新たな社会づくりに向けた行動を起こしていくべきだろう。もちろん自分自身も実践していくつもりだ。

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著者プロフィール

三浦展(みうら・あつし)
1958年生まれ。社会デザイン研究者。カルチャースタディーズ研究所代表。家族、若者、消費、都市、郊外などを研究。著書に『 「家族」と「幸福」の戦後史――郊外の夢と現実』 (講談社現代新書) 、 『ファスト風土化する日本――郊外化とその病理』 (洋泉社新書) 、 『東京は郊外から消えていく!』 『首都圏大予測』 (光文社新書) 、 『愛される街』 (而立書房)などがある。

「2022年 『中央線がなかったら 見えてくる東京の古層』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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