- 本 ・本 (356ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582859676
作品紹介・あらすじ
かつて中国東北部に建てられた日本の傀儡国家・満洲国。その実態は謎が多い。しかし、最新の研究に基づき、中国大陸における漢民族と満洲族、そして日本の軍部と政治派閥それぞれの立場、満洲国の存立基盤そのものである経済の実態、満洲国内の新聞・文芸・映画などの活発な活動に光をあてることで、ついに、その詳細な全体像が明らかにされてきた。
異なるナショナリズムの交錯が生んだ国家とは。東アジアに存在した異形の国の実態に迫る。
感想・レビュー・書評
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よくまとめられた良書と思います。
手に取ったきっかけとしては以下:
・小国として中国(や日本)から様々な作用を受けた国または存在であること、いわば翻弄されたポジションであること
・満州国、引き揚げ、については祖父が一番遅い引き揚げ船で日本(舞鶴)に降り立ったと聞いたのですが、終戦後一体むこうで何があったのか今となっては確かに語れる人がおらず、何かヒントやきっかけがないかと思い手に取りました。
あと、ハッキリ言って私自身が右とか左とか何々主義とかよく分からない為、自分と反対の考えを持っている人が書いている可能性もあり手放しで褒めることは難しいのです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦前〜戦中の日本を考えるにあたって、外してはいけない、というか、最重要キーワードの一つは満州。
2021年に出版されているので最新の研究も織り込んだものになっているのではないかと思って、読んでみた。
たしかに、満洲について、軍事、政治、経済などに加えて、文化的な側面からアプローチしていて、全体像に近づける感じもある。また、満洲の傀儡的なところは当然あるとしつつ、そうしたなかにもあった溥儀側のイニシアティブとか、一部の人たちには多文化共存的な素晴らしい場所であったという側面とかも紹介してある。
著者の専門は、文学のようで、満洲における文学状況に加え、「内地」から訪問してくる文学者の満洲についての文章なども紹介していて、この辺が他の満洲本とは違うところかな?だが、その辺は、知らないことが多すぎて、今ひとつ理解は進まなかった。
あらためて、満洲について読むと、ロシアのウクライナ侵攻とかぶさってくる。日本、関東軍はいかに無茶苦茶なことをやっていたのだなと驚き、当時の国際社会から孤立したということもよくわかる。
全体として、さまざまな視点から満洲について書こうという意欲は伝わってくるのだけど、フォーカスが定まらない感じもしてくる。まあ、読者というものは、気まぐれなものだな、と思った。 -
そういえば満洲国については今までちゃんと調べてなかったなと思って読んでみたものです。満州国自体は15年ほどの期間しかないので本書も細かい内容まで記載されているように思えます。とはいえ、全体に軸が時系列なのか分野別なのかが見えにくくて、そこが読みにくかったかなと(それでも見えてくる日本軍と政府の戦略性のなさが、逆にすごいですが)。もうちょっと基礎知識を仕入れてから読み直したい本です。
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222-S
閲覧新書 -
軍国日本の実験場であり、戦後日本の経済発展の雛型にもなった満洲国は、傀儡国家としての欺瞞と、五族協和の夢がない混ぜとなり、滅亡後、総括が放置されてきた分、その評価もいまだ定着していない。満洲国をめぐる人物や事項、成立前夜から崩壊までの経緯が包括的に纏まってはいたが、新書一冊でまかなえるテーマでない読後感。5ヵ年計画がソ連のそれを下敷きにしたという話は、経済大国日本と繋がるだけに、経脈が面白い。主に軍部の場当たり的な方略に振り回され、結局短命に終わったが、今もし満洲国が存在していたら、アジアの様相も相当異なっていたはずで、そこが「日本人」にとっては魅力なのだろう。だけに中国人を除くアジアの人々に、今日どのように捉えられているのかは、一興に思った。
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建国前夜から終戦、戦後への影響まで満洲国の総合的な通史。文化史の記述が多いのが特徴。
序章では、傀儡国家性は否定しないが、抑圧・非抑圧の関係という単純化を戒めることや、満洲国「でっち上げ」は当初からの関東軍ましてや日本の国家意思の計画だったわけではない、との著者の問題提起が見られる(独立国家建国案には宇垣一成・建川美次ラインの影響が示唆されている)。
文化面の記述は、租借地大連への都市文化移植、満映(内地での評価は低かったそうだ)、建国大学、文壇、1941年からの文化統制の強化など。満洲国の日本語文壇はほとんど内地の出版社から刊行されたというし、そもそもほぼ日本人対象だったろう。それをどこまで「満洲国」の文壇と言ってよいのか疑問に思った。朝鮮の尹東柱に相当するような存在は満洲国ではいなかったのか。
本書は通史としては幅広いが、それ故に散漫な印象も受ける。著者の思い入れや専門性がある分野は話が脱線したり、事実(文芸出版物)の羅列だったり。文体はところどころエッセイ風になる。副題「交錯するナショナリズム」という視点はよく見えない。分野か視点を絞った方が締まった本になったのではないか。
なお、新書の通史という事情はあるも、張作霖爆殺後の田中義一と満洲事変後の南次郎の記述、張作霖を「権力欲が暴走」と断じる、十月事件を軍部(全体?)の姿勢を示すためとする、など誤りとは言わずとも、単純化が気になる箇所があった。石原莞爾と二・二六事件の関わりも、本書のように叛乱抑え込みの指揮の戦闘に立ったと断じてよいのか。
著者プロフィール
鈴木貞美の作品





