激変する核エネルギー環境 (ベスト新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784584123287

感想・レビュー・書評

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    温暖化問題を問題ではないと主張する池田先生が将来のエネルギー供給源について考察していたら、、、地震が来てしまって急きょ再構成された本である、、、と思う。前半と後半ではずいぶん文体が違うというのもその理由だが、特に後半の情報量はものすごく、いくら天才の池田先生でも311以降にこれを全部書くのは無理だろうと想像するからである。

    池田先生のように温暖化問題そのものを否定する識者は多いが(僕の身近にもいるが)、池田先生の語り口が他の論客と大きく異なるのは、ある方法論が絶対的に是であるとか否であるという言い方をしないところにある。原発推進派が原発を絶対安全と主張し、原発反対派が原発を絶対に危険だと主張し、、、両者の「語り口」が原発の安全設計を困難にしたのだと池田先生は主張する。僕も全く同意見だ。そして、ある問題の解決策は複数用意しておいたほうが良い、、、、一つの意見に固執しないほうがよいというのも生物学のエキスパートである池田先生らしいご意見で、臨床医の僕もそれに同意である。臨床医は(少なくともまともな臨床医は)「手術絶対主義」とか「服薬絶対主義」みたいな一方法論への過度の依存を主張しないからである。ある方法論(例えば治療法)を過度に褒めたり、貶したりする輩の言葉は話半分に聞いておいたほうが良い(literally. たぶん、半分くらいは正しいことを言っていると思うし)。

    原発は、確かに統計学的には安全性の高いエネルギー供給源である。リスクはlikelihood とconsequenceの二側面で吟味する。原発事故は、交通事故に比べればlikelihoodは非常に低い。しかし、consequenceは比べ物にならないくらい大きく、それは空間的に、時間的にそうである(広範囲な被害、未来何十年あるいはそれ以上におよぶ被害)。リスクのlikelihoodとconsequenceは分けて考えなければならないが、ごちゃごちゃにされていることが多い。

    というわけで、原発のリスクは311以降の日本人が易々と許容できるような軽いリスクではない。likelihoodが低くても、consequenceが大きすぎるのだ。

    ただし、原発の即座の放棄も池田先生は主張しない。我々が享受しているエネルギーをたっぷり使う生活をすぐには放棄できないからである。我々は急に貧しかった昭和30年くらいにはもうとても戻れない。というか、そこに戻ったら安全リスクはとても高く、腐った食物による食中毒、エアコンがないための熱射病、暖房がないための寒冷曝露、各種感染症など「電気がない故の」様々な健康リスクにさらされてしまうだろう(そういうのは、昭和30年くらいには「日常的」だったのである)。安全を理由に原発を放棄してこれでは、これでは本末転倒だ。

    したがって、このジレンマを解決するために現行の原発はゆるやかに動かしつつ、新しい原発は建設せず、時間稼ぎをしながらあらたなエネルギー源を模索しなければならない。

    池田先生はCO2が増加してもそれが大きな問題にはならないと主張されているから、石油や石炭のような化石燃料の使用は否定しない。ただし、これらの資源には限りがあり、石油は数十年後には、石炭だっていずれは枯渇してしまう。石油や石炭に頼っていたら、僕らの子どもや孫にはエネルギーを使った生活は提供できなくなる。

    かといって、現行の風力、太陽光、燃料電池などのオルタナティブは技術的な問題やコストの問題があってすぐには主流のエネルギー源にはなりえない。したがって、これらを有効活用しようと思えば「イノベーション」が必要になる。

    かつて民主党政権は未来の世代に借金を残さないために「仕分け」をやった。今度は未来の世代にエネルギーのない生活を提供しないために、イノベーションを促す政策を採る必要がある。まあ、僕らの周りにはまだまだ無駄が多いので、事業仕分けそのものを僕は否定しないけれど、それはそれとして。

    イノベーションにはブレイクスルーが必要だが、どの領域にブレイクスルーが起きるかは誰にも予見できない(もしできるのなら、そういうものはブレイクスルーとは呼ばない)。したがって、このようなイノベーションのネタには複数「はっておく」ことが大切になる。いろいろなエネルギー源について可能性を追求し、その将来性を吟味し、より「使える」ツールになるためのイノベーションを奨励するのである。それが、我が国のエネルギー源に未来を得るための最良の策であろうと池田先生はおっしゃるのである。「多様な代替エネルギー」である。

    本書は、僕らの未来の世代が惨めな世代にならないことを希求する人(僕は本気でそう思っているが)にはとても刺激的な本である。

    ときに、震災復興にはお金が要る。エネルギー開発、イノベーションにもお金が要る。お金の出所も「多様」であるほうがよいが、税金もその一つだ。少なくとも税金なし、というオプションはなかろう。

    僕の思いつきだけど、電力税というのはどうだろう。消費した電力に応じて一定の税を課す。電力を使えば、復興の原資となり、それを嫌って電力使用を避ければ節電になる。一石二鳥だ。これなら周波数の違いから電力を東日本に供給できない西日本でも役に立てる。

    もう一つ、思いつきで提案したいのが、原発の安全対策の権利と責任を地域に一部委譲することである。結局、原発のリスクは原発建設地周辺にある。しかし、原発の安全対策は国と電力会社任せであり、都道府県など自治体にはほとんど発言権がない(ように思う)。自治体に十分な情報公開をすることと引き換えに、どこまでの安全対策をとるか、その選択も自治体にある程度任せてはどうか。徹底的な安全対策にはコストもかかるから、そのコストの一部も自治体に肩代わりしてもらう。自分の安全のことだから、どこまで安全にお金を出して津波や地震の対策をとるか、みな真剣に考えるだろう。そして、そのリスクがどうしても許容できない場合は、そこに原発は存在できなくなる。

    結局、原発の安全対策を「原発に問題が起きても痛くもかゆくもない」人たちが立案したところに安全対策のねじれ現象がある。これではコストをかけるインセンティブは生じない。しかし、ステークホルダーである地元であれば、自らがそのリスクの甘受社であるものであれば、それができる。それも常識範囲内でできる(あまりコストのかかる安全対策は、やはり地元にとって苦痛であるから、受け入れられないからである)。僕は2009年のインフル騒ぎの時に、とにかく中央から権利と責任を地域に移行すべきと何度も行っていたけど、原発も同じだと思う。もちろん、地元にとってそれは痛みを伴う決断なのだけど、自分で決めたことであれば、ハザードに対する許容度は大きい。他人が勝手に決めたことで被害に巻き込まれるよりは、ずっとましではないだろうか。

  • (2016.03.28読了)(2013.01.26購入)
    東日本大震災に伴う福島第一原発事故によって、大量の放射性物質が原発の周辺地域にばらまかれました。
    原子力発電は、一度大きな事故が起こってしまうと、広範囲に、時間的にも長く、影響が残ってしまうので、なるだけ早くやめた方がいいだろうということになります。
    そうすると、現代文明は、電力が不可欠ということなので、原発の代わりになる電力をどう確保するかということになります。
    化石燃料を使った発電は、地球温暖化問題との絡みで、減らさないといけないということもあり、自然エネルギーなどを検討しないといけない、ということになります。
    池田さんは、二酸化炭素が温暖化の原因という説に疑問を持っているので、安価なら化石燃料の発電でもいいのではないかと言っています。
    自然エネルギーで、経済的なエネルギーが見つかるまでの間は、原発も稼働させてもいいのではないだろか、とも言っています。
    太陽光発電については、補助金政策で、他の国より先行していたけど、補助金の打ち切りで、あっという間に他の国に、追い抜かれてしまったそうです。
    風力発電は、日本には向いていなさそうだし、やるにしても、日本の風土に合ったものにしないと、うまくいかないようです。
    地熱発電は、国立公園との絡みや温泉との絡みがあるようです。
    波動発電がよさそうですが、実用化には、時間がかかるでしょう。
    とりあえず、これだ、という発電方法は、なさそうです。

    【目次】
    はじめに
    序章 福島原発事故で激変する日本のエネルギー政策
    第1章 温暖化問題より重要なエネルギー問題
    第2章 原子力発電を推進する危険性
    第3章 世界諸外国が行うエネルギー政策
    第4章 日本の新エネルギー開発の希望
    第5章 バイオマスや水素など、代替エネルギーの問題点
    第6章 エネルギー開発が抱えるほんとうの問題
    あとがき

    ●新エネルギー(161頁)
    重要なのは、自然エネルギーを使うこと自体ではなく、石油よりコストの安い自然エネルギーを開発することなのだ。
    CO₂を削減することと新エネルギーを開発することは、別のことなのだ。
    ●地熱発電(162頁)
    地熱発電はCO₂の排出量が少ないのが魅力的だ。同じ発電量で見た場合、地熱発電によるCO₂の排出量は石炭火力の六五分の一、太陽光発電の三分の一と言われる。
    ●コストパフォーマンス(163頁)
    発電単位を比べてみると、一キロワットあたり、原子力が七円、火力が一〇円、火力が一一円、風力が一三円、地熱は一六円だ。

    ☆池田清彦さんの本(既読)
    「さよならダーウィニズム」池田清彦著、講談社選書メチエ、1997.12.10
    「38億年生物進化の旅」池田清彦著、新潮社、2010.02.25
    「「進化論」を書き換える」池田清彦著、新潮社、2011.03.25
    「ほんとうの復興」池田清彦・養老孟司著、新潮社、2011.06.25
    ☆関連図書(既読)
    「私のエネルギー論」池内了著、文春新書、2000.11.20
    「原発社会からの離脱」宮台真司・飯田哲也著、講談社現代新書、2011.06.20
    「内部被曝の真実」児玉龍彦著、幻冬舎新書、2011.09.10
    「原発・放射能子どもが危ない」小出裕章・黒部信一著、文春新書、2011.09.20
    (2016年4月6日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    原発推進派は絶対安全と言い張り、原発反対派は絶対危険だと主張した。推進派はゼロリスクでなければダメだと言い張る反対派の手前、科学技術的な検証もせずに、絶対安全だと言い張っていたのではないか。絶対反対とか絶対賛成とかは政治か宗教であって、科学ではない。本書は、福島第一原発の事故で白日の下に晒された日本のエネルギー政策の欠陥と、あり得べき将来について考える。
    内容紹介
    1.福島第一原発の事故は防ぎ得なかったのか?
    2.東電・政府の対応は適切だったのか?
    3.「ヨウ素131は半減期が8日間だからそれほど心配ない」は間違い。
    4.これからの日本のエネルギー政策はどうあるべきか。

  • 相変らず小気味よい切り口で、最後らへんで著者自身がふれているように、核の問題を身近に簡単に知るための書物、って役割は概ね果たせる内容になっていると思う。東北地震以前に書かれた部分もあったみたいだけど、正鵠を射ているところもあって、やっぱり物事の本質を見て考えないといかんな、と思い知らされた次第。水力発電の発展に期待、領海をしっかり守りながら、新たなエネルギー資源の活用に期待、っていうことを自分的には強く感じました。

  • 東電が海水を入れたのは危険な行為だった。とにかく一か八かやった。
    政府よりの学者は、まずいと思っても研究予算をもらっているから危険とは言えなかった。
    エネルギーを持つ国が一番強い。21世紀の世界を制する鵜のは新しいエネルギーを開発した国になる。
    温暖化問題を一般に広く浸透させて意識改革を行った人物がアルゴア。

  • 原発のリスクを指摘しつつも、即座放棄を主張しない現実路線には好感が持てる。エネルギー確保の重要性を示し、代替エネルギー開発への積極投資が必要であると主張する。ここまでは、すんなり納得できる内容。
    ただ、温暖化とCO2についての議論が乱暴だと感じた。「温暖化説に根拠がない」とする一方で「新技術を開発することが本当のCO2削減につながる」と主張するなど一貫性がない。温暖化説の是非については私には判断できないけど、世間的に通説となっている事象を否定するなら、もっと丁寧な説明が必要だと思う。

  • ちょっと賢いおじさんが、飲み屋でいい感じのほろ酔い具合になって得意の持論を取り留めもなく展開、それを書き留めて本にした、そんな感じの本。こちらも構えず一緒に飲んでいるくらいの気持ちで読めば、旬なトピックであり、話題も豊富で面白い。

    ただしどうしてもスピード重視で出版した印象が拭えない。少なくとも繰り返し読む本ではない。

  • 原発はリスクが大きすぎる。かといってすぐに廃止してしまったらエネルギーが足りない。人間の活動拡大と必要エネルギーは比例する。
    今、考えるべきは、CO2削減などではなく、残された化石エネルギーを使って、代替エネルギーを開発する活動にエネルギーを注ぐことである。だいたいこれが本書の主張です。

    今回の震災による原発事故を受けて、急ぎ従来からの主張に補筆して出版した印象もありますが、主張される骨子については、あまり反対意見もないと思います(CO2削減に取り組むべきかという点については異論もあるでしょうが)。ただ、もう少し、様々なクリーンエネルギーに関して、より突っ込んだ課題提示と現実的な解決策の考察がほしいと感じました。

    原発はできればなくし、クリーンエネルギーに代えるべき、というだけなら誰もがわかっていますから。。

  • 世界のエネルギー供給事情を纏めたものに今回の福島原発について加筆してあるもの。

    原子力発電に関わらず発電方法はどれも一長一短、あちらをたてればこちらが立たず、今年の夏場はなんとかして乗り越えなければいけませんね。

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著者プロフィール

1947年生。生物学者。早稲田大学国際教養学部教授。構造主義生物学の立場から科学論、社会評論等の執筆も行う。カミキリムシの収集家としても知られる。『ほんとうの環境白書』『不思議な生き物』『オスは生きてるムダなのか』『生物にとって時間とは何か』『初歩から学ぶ生物学』『やがて消えゆく我が身なら』など著書多数。

「2018年 『いい加減くらいが丁度いい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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