幻想のさなかに―幻想絵画試論

  • 法政大学出版局
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784588420016

作品紹介・あらすじ

幻想とは何か。その所在の探求と明確な定義づけを試み,絵画,錬金術書・初期解剖学書の図版に及ぶ古今の資料を駆使して,象徴と寓意と謎のカオスに照明を当てる。

感想・レビュー・書評

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  • 絵を視ることについて久々に考え中。
    そのきっかけはバーバラ・スタフォードか。高山宏によって邦訳されてるスタフォードの5冊を、過酷な日本語に苦しみながら読み通したのに、日本語が読み辛くって不完全燃焼で終わってしまった。ところが、やはりあの濃いスタフォード節の影響は大きく、いくつかの偶然が重なって、よし、もう少し踏み込もう、と思った。

    で、まずは、J.J.ショイヒツァーの「神聖自然学」を部分的にではあるが蘇らせた荒俣宏のファンタスティックダズンを読んだ。眺めた。スタフォードの引用してた図版でも圧倒的であった「神聖自然学」に惚れたのだった。ファンタスティックダズンの荒俣宏による紹介のなかで引用してあったのが、本書。
    で、「斜線」が積読のままになってるカイヨワへ、斜めに入ることになった。

    さて、本書。まず、幻想絵画であるからには、幻想が喚起されないといけない。「幻想を描いている絵画」ということではなく、ちゃんと幻想を喚起させる「幻想そのものである絵画」でないといけない。
    感動する映画というのは、「感動してる人」を映してるのではなく、そこにいる人に、観衆が「感動する」という反応をつくるものだ、と、むやみやたらに絶叫して泣いてる人を映して「感動作」と言ってる日本映画にいつも突っ込みたいのだけど、同じようなことである。

    そのうえで、ボッシュ(「カナの婚姻」を除く)や、アルチンボルドは全く幻想的ではない、というのには至極同意。アルチンボルドはどうみても技巧的な絵にしか見えない。
    ボッシュは幻想的絵画ではないというのには同意をするが、1人の人間が想像しうる幻想的ビジュアルのアンソロジーとしての価値があるとは思う。そう意味で「快楽の園」はやはり破格だと思う。

    では、、、と、カイヨワはストイックに幻想の範囲に入らないものをバッサリと切り捨てていく。その際はあくまで個人的好みとしているので、その基準を否定はしないが、錬金術の絵画やシンボル的な絵画も僕の個人的には同じような理由で切り捨ててよいように思う。まぁ、カイヨワの話に耳を傾ける。

    ベルリーニの「煉獄の寓意」を幻想絵画の最高峰として評価している。そういうことから、何を幻想絵画としてカイヨワが考えているかがよくわかる。

    でも、幻想とは何か、というところはなかなか曖昧である。もちろん、曖昧だから幻想になれるのだけども、少なくとも、主題ではなく主題の扱い方であること、など、いくつか幻想の理由をあげているが、まぁ、曖昧である。いや、それは悪いことではない。まったくもってその通りと思う。
    そしてまた、スタフォード節の影響ではあるが、幻想的であるということが、主題ではなく主題の扱い方であるのであれば、つまりはアレゴリーではなく、アナロジーにあるのだろう、というように考えたくなる。

    自分が幻想絵画を選ぶとすると、どうなるだろうか。
    個人的には、「明恵上人樹上坐禅図」をあげたい。今、僕の中で一番鳴り響く画面だ。

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著者プロフィール

(Roger Caillois)
1913年、フランスのマルヌ県ランスに生まれる。エコール・ノルマルを卒業後アンドレ・ブルトンと出会い、シュルレアリスム運動に参加するが数年にして訣別。38年バタイユ、レリスらと「社会学研究会」を結成。39–44年文化使節としてアルゼンチンへ渡り『レットル・フランセーズ』を創刊。48年ユネスコにはいり、52年から《対角線の諸科学》つまり哲学的人文科学的学際にささげた国際雑誌『ディオゲネス』を刊行し編集長をつとめた。71年よりアカデミー・フランセーズ会員。78年に死去。思索の大胆さが古典的な形式に支えられたその多くの著作は、詩から鉱物学、美学から動物学、神学から民俗学と多岐にわたる。邦訳に、『戦争論』、『幻想のさなかに』(以上、法政大学出版局刊)『遊びと人間』、『蛸』、『文学の思い上り』、『石が書く』など多数。

「2018年 『アルペイオスの流れ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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