きつねの窓 (ポプラポケット文庫 51-1)

著者 :
  • ポプラ社
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  • / ISBN・EAN: 9784591088814

感想・レビュー・書評

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  • 不思議な話、幻想的な話、ちょっと怖い話、そういう空想力を刺激するような短編が10こ収録された児童文学小説。語り口のやさしい雰囲気や、”無茶な方向”には進ませず、この世界の中における規律を守る展開、そういう手堅い物語が多い印象です。あとどの話も悪い方向に転がる可能性みたいなものが常に残されていて、そんなところにも惹きつけられました。また途中途中ではさまれる挿絵がかわいく魅力的。総じてとてもいい短編集でした。
    以下で、気に入った作品のメモ書きのような感想を。

    『きつねの窓』
    失われた時を求めてしまう人のさがについて、おとぎ話として描いた物語なのかな、と思いました。指をそめ、ひし形を作ることで、いまはもう会うことのできない大切な人の姿を見ることができる「きつねの染め物屋さん」。正しく「きつねに化かされる」話なわけですが、読後の印象はとても切なく、さみしさとか哀しさが込み上げてきます。
    つうかきつねくん優秀だな。化けることも出来るし、軽くマインドコントロールも可能だし、猟銃を手に入れたしで、1狐で戦争でも始めるつもりでしょうか?(もっとちゃんと読め)

    『だれも知らない時間』
    副題をつけるなら「夏まつりを享受せよ」でしょうか。漁師の若者がしゃべる亀と出会うという導入や、「時間」という要素が重要となる点は「浦島太郎」に近いです。寓話における亀の役割って「時間」と関連するものになりがちってことですかね。でもこの話が進む方向は予想していたものとはちょっと違い、最後はそれぞれの人たちが満足する、そんな落とし所へと辿り着きます。ラストの夏まつりの場面が好きだなあ。ひとつの場所における幸福で引き延ばされた時間。懐かしいなにかを思い出すような、切なく、美しい物語でした。

    『緑のスキップ』
    メモ:端役でコーヒーを淹れてくれるきつねが出てくる。

    『鳥』
    これ私の推し短編です。ふしぎなことが割と平然とした様子で起こるって世界観は好いですね。主人公は耳のお医者さん。彼のもとに訪れた女の子の患者さんは、耳の中に”ひみつ”が入ってしまったのでこのままでは大変なことになる、と言い出します。女の子の耳の中を除くとまっさおな海と砂浜、白いかもめが見えるという情景の面白さ。気づくとお医者さんもその中に入っていたりと現実と虚構の境界線があいまいなのが素敵です。こんな不思議な出来事が起こってもお医者さんは平然としてるので、この病院にはよくこういった患者さんが来るのかもしれませんね。

    • たけうちさん
      傘籤さん、こんにちは
      こちらの短編集『きつねの窓』読んで下さったんですね
      推し短編も含めて、感想いろいろ伺えて嬉しいです
      “悪い方向に転がる...
      傘籤さん、こんにちは
      こちらの短編集『きつねの窓』読んで下さったんですね
      推し短編も含めて、感想いろいろ伺えて嬉しいです
      “悪い方向に転がる可能性”という文に、まさに! と感じます
      そこがえもいわれぬ魅力がありますよね
      『きつねの窓』の猟銃の下りは自分もそう思った(が感想には書かなかった)ので、傘籤さん書いてる…!! って震えました
      推し短編は耳のお医者さんのお話なんですね
      実はそちらも捨てがたかったです、僅差でした
      耳のお医者さんが耳の中から戻れんのではないかと案ずる程に、情景が美しくてたまりませんね

      こちらでも引き続き、きつねさん本の感想書いていきますね
      2024/03/21
    • 傘籤さん
      たけうちさん、こんばんは。
      こちらこそきつね本のご紹介ありがとうございます。いろんなきつねの本を読みたいなーと思ってるので助かります。
      基本...
      たけうちさん、こんばんは。
      こちらこそきつね本のご紹介ありがとうございます。いろんなきつねの本を読みたいなーと思ってるので助かります。
      基本的にいい話や物悲しい話ばかりなのですが、その過程が「悪くなりそうな文脈」に沿ってもいるので読んでてドキドキしますよねー笑
      『きつねの窓』のきつねくんもまた然り。やつはやる気ですよきっと……!(何をだ)
      たけうちさんの書かれた短編ごとの感想が的を得ていてわかりやすく、参考になりました。伊藤潤二や諸星大二郎の例えもそうですし、それぞれの短編を楽しんでいるのが伝わってきます。
      次のきつね本もお待ちしてますね〜。
      2024/03/21
  • きつねさんが登場する絵本を探すシリーズですが、今回はいわゆるジュニア小説の文庫レーベルの作品を選んでみました
    ちょうど絵本一冊分ほどのボリュームの作品が10編収録された短編集なのですが、表題作のきつねさん作品にとどまらず、いずれもとても面白く、しかしちょっと怖くて、悲しくて、でもとびきり美しい話が取り揃っていて、すごくうれしくなりました
    10編どれもが、独立した絵本の形でも読んでみたい作品ばかりです
    ちょっと込み入りますが、各話感想を書いてみます

    『きつねの窓』
    孤独な猟師の青年が、森の中の不思議な力を持つ染め物屋さんに迷いこむ話
    そのお店は青年と同じく、天涯孤独の身の上のきつねの少年が人間に化けて営んでおり、桔梗の色の藍紫に染めた指には、失った大切な存在を見ることのできる力が宿る…という作品です
    指を染めた代価に、きつねの小さな店主が求めた品物も、その染まった指の結末も、不吉さと儚さに満ちていて、余韻の寂しすぎるお話でした

    『さんしょっ子』
    山椒の木の妖精の“さんしょっ子”が幼馴染みの人間の子どもたちを思い慕うのですが、子どもたちはどんどん大人になり、友達だったさんしょっ子のことなどすっかり忘れてしまうのです
    さんしょっ子は寂しい気持ちをこらえ、幼馴染みにしてあげられることはないかと懸命になります
    それがすごく痛々しくて辛い、さんしょっ子の真心が伝わらない、でも大人になった人間はそういうものなんだよな…と、大人である自分は思うのです
    きっと自分にも、さんしょっ子の声は聞こえないのだろうとも、分かります

    『夢の果て』
    伊藤潤二さんにコミカライズしてほしいような、美しい少女が怪異に誘われるホラー寄りの作品です
    そして作中における色彩の使い方の美しさが、より恐怖を煽ります
    ここまでの3作とも、色彩の描写に情熱を感じるなとも思えて、そこに作家さんの個性を感じました

    『誰も知らない時間』
    この話集における最推しの作品
    あまりにも長く生き過ぎて、しかしまだまだ余命の長い亀が、人間の青年に自分の時間を毎晩少しだけ分けてやる契約を交わす話
    その契約の内容や禁忌事項に、亀自身が実は恐ろしい存在なのではないか、という危惧を抱きますが、そこから二転三転する物語の展開と亀への印象の変化が実に面白く、切なく、しかし生命力に溢れた清々しい物語です
    亀は契約者である彼の真心が本当に嬉しかったんだな、幸せだったんだなと納得がいく結末でした

    『緑のスキップ』
    森の奥の桜林の番人のミミズクが、桜の花の精を偏愛して、決して花を散らすまいと懸命に番をする話
    森の中で偏屈に、己が愛する存在を盲目的に守ろうとするミミズクですが、季節の移ろいを押し留める事が出来るはずもなく、ある日ついに桜は…というやるせない話なのですが
    途中で“きつねの奥さんに淹れてもらった濃いコーヒー”を飲んで桜の番をしてるシーンが出てきて、お前仲良くしてる動物おったんかい! という驚きと、そのコーヒー美味しそうだなあというよだれが一緒にわいてくる独特な味わいのお話でした
    めっちゃ排他的思想の攻撃的なミミズクが、きつねの奥さんとだけは仲良くしてて、奥さんもコーヒーを差し入れてあげるのって、どういう経緯でそんな関係になったのか気になってたまりません
    ミミズクときつねの奥さんの番外編ストーリーがあればいいのに

    『夕日の国』
    なわとびをつづけて100回飛ぶと、夕日の国に行ける…
    不思議な女の子となわとびで遊んで、夕日の国という異世界の内緒話を教えてもらえる男の子の話です
    その不思議な女の子の素性は解釈が分かれそうですが、男の子の感じた解答が真実であって欲しいと願いたい作品です
    現実的な解釈をすると、かなりしんどめの作品です
    しかし、女の子の語る夕日の国の情景が何とも叙情的で美しいのです

    『海の雪』
    幼い頃に別れたきりの母親に会いに、雪の降り積もる海辺の町にやってきた少年が、不思議な少女に出合う話
    その少女がひょっとしたら妹かも知れないと少年は疑うのですが、その正体は意外なものだったのです
    話の芯の方向こそ違いますが、これはひょっとしたら『雪女』の後日談の話かも知れません
    雪女が人として暮らしていた頃に生まれて居なくなった母を求める息子、のような存在がこの少年だったのかも

    『もぐらの掘った深い井戸』
    とても賢いモグラの子供のモグ吉が、畑で拾ったお金を元に、庄屋さんから土地を買い、井戸を掘り、とても美味しい水を汲み上げる事に成功し、それを元に商売を始め、多額の蓄財を行うようになる話
    賢い子どもだったモグ吉がわりとえげつない守銭奴になるのが切ないけど、でもこれは人間であれば真っ当な立身出世ものだと感じました
    お金だけが大事ではないけど、お金を稼ぐ力を極めるモグ吉が見てみたかったように思う

    『サリーさんの手』
    大量生産のお人形の工場で働くまだ若い女性が、仕事の辛さや鬱屈した思いに、眠れぬ夜を過ごしていた時に見た、不思議な電車のお話
    働き者で努力を惜しまない、健気なひとの話は実に泣けてきますし、そんな人だからこそ出会えた奇跡の電車だったのだろう
    彼女たちが手を振ってくれていたのは、他ならぬ、あなただったからなんだよね…って涙腺にきます

    『鳥』
    腕のいい耳のお医者さんのところへ急患でやってきた女の子は、私の耳の中には“秘密”が入ってしまった、急いで取り出してもらわないと大変な事になる…と訴え、耳を診察してみるとそこには……という導入の、不気味さと情景の美しさのコントラストがたまらない作品です
    『海の雪』とのリンクが感じられつつ、こちらは生々しい怪奇譚の風味もあり、どこか諸星大二郎さんの漫画のような印象も受けました

  • きゅっと気持ちが締め付けられる。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「きゅっと気持ちが」
      この話は、とっても切ないですね。。。
      「きゅっと気持ちが」
      この話は、とっても切ないですね。。。
      2012/11/08
  • 表題作の「きつねの窓」は、とても心に残るお話でした。
    出会えて良かったです。

    私はこのお話を、哀しいとは感じませんでしたが、寂しいなぁ…と、思いました。
    指で作った窓から見えるもの、それは見えても今は決して手に入れることは出来ない、昔の幸せな記憶…これが、“寂しかった”のです…。
    こぎつねは、今でも指を青く染めているのでしょうか…。
    読んでいる最中、今は亡き祖父の優しい笑顔など、自分自身の昔の思い出が頭をよぎり、胸をギュッと掴まれたようで、少し苦しかったです。
    そして、桔梗の青色も、優しく又印象的でした。

    「きつねの窓」だけでなく、他の短編もとても興味深く読ませて頂きました。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「今は決して手に入れることは出来ない」
      きっと、スイッチが指から心に移って、いつでも思い描ける、手に入れるコトが出来るようになったんじゃない...
      「今は決して手に入れることは出来ない」
      きっと、スイッチが指から心に移って、いつでも思い描ける、手に入れるコトが出来るようになったんじゃないかなぁ~と前向き?に考えています。
      2012/05/24
    • モランさん
      nyancomaruさん、コメントどうもありがとうございます。
      そうですね、そう考えると何だか笑顔になれますね。
      nyancomaruさん、コメントどうもありがとうございます。
      そうですね、そう考えると何だか笑顔になれますね。
      2012/06/01
  • 少しふしぎな物語10編収録。
    幻想譚というべき美しくも切ない物語たち。美しく楽しいものを失くしてしまう。
    しかしそこにあるのは哀しみでなく、ほんのりと温かいなにか。物語のおもしろさを伝えてくれます。

  • 人生で出会った本の中で、1番好きかもしれない!
    小学校低学年の時に初めて手に取った。当時1番好きな話は夕日の国で、ドキドキしながら校庭で縄跳びを飛んでいたのを覚えている。
    ファンタジーと現実が絶妙に溶け合っている。読み終えた後、想像した物語の世界の空気が、しっとりと頬に残る。それほど自然に、入り込んでしまう。
    言葉選びがすごく丁寧で優しいところも良い。
    将来私の子どもにも読ませたい!

  • 優しさが、溢れてるわ、安房直子さんの作品は

  • 懐かしくて思わず買ってしまいました。安房直子さんの作品は優しい余韻の残るものが多くて子供の頃から大好きでした。大人になった今、再読して昔とは違った意味で少し涙腺がゆるみました。

  • 安房直子さんの物語は、哀しいけれど温もりを感じられるお話が多くて、昔から何度も読み返している。
    子どもたちと3人でくっついて本を読んでいる今の暖かな時間。この子たちもいつか、青く染めた指の中に、この瞬間を見つけてくれるかな。

  • ほっこりとした話から、ちょっとミステリアスな話、ひたむきな話。
    珠玉の短編集といっても過言ではない。

    教訓めいた話も、丁寧な表現で四季の彩りを織り交ぜながら、心に染みるように描かれています。

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著者プロフィール

安房直子(あわ・なおこ)
1943年、東京都生まれ。日本女子大学国文科卒業。在学中より山室静氏に師事、「目白児童文学」「海賊」を中心に、かずかずの美しい物語を発表。『さんしょっ子』第3回日本児童文学者協会新人賞、『北風のわすれたハンカチ』第19回サンケイ児童出版文化賞推薦、『風と木の歌』第22回小学館文学賞、『遠い野ばらの村』第20回野間児童文芸賞、『山の童話 風のローラースケート』第3回新見南吉児童文学賞、『花豆の煮えるまで―小夜の物語』赤い鳥文学賞特別賞、受賞作多数。1993年永眠。

「2022年 『春の窓 安房直子ファンタジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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