菅原伝授手習鑑 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(3))

著者 :
制作 : 岡田 嘉夫 
  • ポプラ社
3.92
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本棚登録 : 37
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (52ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591099537

作品紹介・あらすじ

『仮名手本忠臣蔵』『義経千本桜』と同じ作者たちによって書かれた『菅原伝授手習鑑』は、「天神さま」として祀られている菅原道真を主人公とした物語です。学問の神さま、菅原道真が、悪魔のような藤原時平にだまされて、怒った末に雷になって復讐をします。さまざまな人間達が活躍する、とてもおもしろい物語です。どうぞ体験をしてください。

感想・レビュー・書評

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  • 2007年に出版された、絵本風のジュニア向きの歌舞伎紹介シリーズの一冊。だ、そうなんですが、これ、ジュニア向きと言えるかどうか(笑)。
    絵柄といい、ざっくりばっくり快刀乱麻な語り口といい。ジュニア向けの仮面をかぶった大人向け…と思えるんですけどね。

    橋本治さんが文章を書いています。
    歌舞伎の名作たち。
    それも、どれもこれもエライコト大河ドラマな長い物語を、絵本にしてみました、という趣向です。
    なんだけど、絵本と言ってもけっこう文字が小さくて、ちゃんと書いてある。面白い。
    でも、確かに、絵本になってるから読み易いし、なんとなくビジュアルイメージがついてくるから、迷子にならない。なるほど、という作りの本ですね。

    菅原伝授手習鑑、というおはなしは、「すがわらでんじゅてならいかがみ」である、ということと、「菅原道真の話である」、ということ以外は知りませんでした。
    この本を読んで、演劇的な旨みが想像付きます。そして、なんていうか、「小説的」「文学的」ではなくて、「演劇的に、どんなふうに面白いのか」ということが浮かんできます。
    面白い本でした。

    ###########備忘録に、ざっくり言うと。###########


    ●●●三兄弟のおはなしです●●●
    梅王丸・松王丸・桜丸、という三つ子が居まして。
    梅王丸は、菅承相(=まあつまり、菅原道真のことですね)に、仕えています。菅承相さんは、権力者で、書の名人で、良い人です。
    松王丸は、藤原時平(=読みが違うけど、実在らしい藤原時平と同じ名前)に、仕えています。この時平さんは、権力者で、悪い人です。
    桜丸は、斎世親王(=架空かな?)に、仕えています。

    梅王丸・松王丸・桜丸、三人はみんな、良い人なんですね。

    なんだけど、仕える人が違うので、悲劇になっていきます。
    ある意味、この三人の物語とも言えます。


    ●●●菅原道真vs.藤原氏の、権力争いのおはなしです●●●

    さて、それから。
    藤原時平は、悪い人で、天皇から実権を奪おうとしています。
    良い人である、菅承相さんと対立しています。

    唐の使者が、絵描きを連れてきて、天皇の肖像画を描きたいという。
    ところが天皇は体調がいまいち。
    時平「俺が代わりに書いて貰おう」
    菅「そりゃないでしょ。弟の斎世親王にしよう」
    みたいな対立。


    ●●●菅原道真と言えば、書道ですね。外伝的に?そんなおはなしも●●●
    菅さんは、有名な、書道の達人なんですね。
    で、書道の奥義を誰かに伝えることになる。
    誰が選ばれるのかな、と思ったら。
    武部源蔵さん、という、かつて仕えていたけど、勘当した男に伝えるんですね。
    この武部源蔵さん、宮仕えしてない、しがない寺子屋の師匠さんなんですね。
    なんだけど、才能と、多分人柄がふさわしい。
    どうして勘当されたかというと、菅さんの家来同士で、義理の悪い恋愛をして駆け落ちかなんかしちゃったんですね。奥さんが戸浪さんという名前。
    で、奥義は伝授するけど、勘当は解かない。


    ●●●恋愛から事件発生、菅さん、失脚&流罪●●●
    斎世親王が、菅さんの娘と恋仲なんですね。
    で、これがまあ、良く判らないけど、まずい関係なんでしょうね。
    密かに付き合ってます。
    手引きを、斎世親王に使える桜丸が、つとめています。
    ところが、逢引きが発覚しそうになって、思わず斎世親王と娘が逃げちゃう。
    で、行方不明の大事件。

    これが引き金になって。
    なんだかんだ、菅さんが悪いこと企んでるぞ、という、でっちあげ。無論、首謀者は時平さん。
    遠い九州の太宰府に流罪確定。
    新幹線の無い時代ですから、大変ですね。

    菅さんと、お母さんの別れ。
    菅さんと、娘との別れ。とか、いろいろ愁嘆場があります。

    悪い時平さん。更に、菅さんを暗殺しようとします。
    なんだけど、菅さんは、ちょっと超能力っぽいのも持っていて、とにかく逃れます。
    菅さんがいるはずの駕篭を開けたら、菅さんの木像がありました、みたいな。

    一方で。前述の三兄弟。
    ●梅王丸=善玉・菅さんの家来
    ●松王丸=悪玉・時平の家来
    ●桜丸=斎世親王の家来
    でしたね。この三兄弟は、みんな、善人という設定。


    菅さんに仕えてた梅王丸。
    そして、斎世親王に仕えていた桜丸。
    このふたりはくやしいから、悪玉・時平さんの暗殺を企画、襲撃します。

    立ちはだかるのが、兄弟の松王丸。
    松王丸は時平さんに仕えていますから、立場上、しょうがない。
    心ならずも善人同士が戦う羽目になる。
    ここのところ、高倉健vs池部良、のおもむきですね。物語の源流は深い。

    ところが、敵もさるもので。
    時平さんも、超能力みたいなものがあって、かなわなかった。

    敵対気味の三兄弟。
    桜丸は、責任を感じて自害しちゃいます。
    三兄弟の親の悲哀とか、あります。

    梅王丸は、大宰府に行って、流罪になった菅さんに使えます。


    ●●●衝撃的な、我が子殺し。「寺子屋」●●●
    菅さんが流罪になって、その子供が、菅秀才。凄い名前ですね。まだ子供、小学生くらいです。
    で、この子供も、時平さんに狙われています。
    それを匿っているのが、市井の寺子屋の先生、武部源蔵さん。

    ここに、悪者の手が回ってきます。
    時平の手下、松王丸がやってくることになります。
    松王丸は、菅秀才の顔を知ってるんですね。首実検役です。写真が無い時代ですからね。不便ですね。

    さあ、困った、という武部源蔵さん。
    なんと、身代りに誰か別の子供を殺してクビを差し出そう、と。酷いですねえ。
    なんだけど。
    「高貴な子供に見えるような子供がいない」
    と、苦悩します。すごい悩みですね。
    そこに、新入生希望者、小太郎くん、という名前の子供がやってくる。
    これが、高貴な顔立ち。
    「この子だ!」

    と、いう訳で。
    やってきました、松王丸と、悪者たち。
    武部源蔵さん、どきどきですが、菅秀才はかくまって。
    そして、かわいそうだけど、小太郎くんを殺害します。酷いですねえ。

    小太郎くんの首を差し出す。
    松王丸は、菅秀才の顔を知ってるんですが、小太郎君の首をみて。
    「間違いない。菅秀才だ」

    で、一件落着なんですが。

    一旦去ってから、松王丸が、奥さんと、寺子屋に戻ってくるんですね。

    なんとなんと。
    殺された小太郎くんは、松王丸と奥さんの子供だったんですね。

    松王丸さんは、悪者の時平に仕えているのが、ほとほといやになってるんですね。
    で、「辞めさせてくれ」って何度も言ってるんだけど、ブラック企業みたいなもので、なかなか辞めさせてくれない。
    やっと、辞めることができる。その最後の仕事が、この、菅秀才殺し、の仕事だったんですねえ。

    菅秀才を殺すのは忍びない。でも首がないと、一件落着しない。
    しょうがないから、ウチの子を代わりに殺してもらおう、と。
    そういう企画だったんですね。モノスゴい企画ですね。ぶっとびです。

    で、松王丸と奥さんが、ウチの子は役に立った、良かった、と喜ぶんだけど、同時に悲しむ訳です。


    ●●●最後は、超能力的な勧善懲悪。時平滅ぶ●●●
    最終的に、悪行の限りを尽くす時平さんを。
    菅さんが、「やっぱりこらしめよう」と、生霊?か何かになって、遠く太宰府から飛んでいきます。
    雷が落ちたり、いろいろあって、とにかく時平さんは死んでしまいます。
    菅さんが、神様に祭られて=天神様、天変地異もおさまって。よかったよかった、となります。


    まあ、というようなお話なんですね。
    長々書きました、「寺子屋」のくだりが、「菅原伝授手習鑑」という大河ドラマの一部なんですが、ここだけ演じられることが多い。
    人気の演目なんですね。

    #################################

    全般的に言うと、このお芝居時代は歴史実録ではなくて、江戸時代につくられたものなので。

    (平安時代に、「菅原道真」という貴族が、藤原氏、「藤原時平」という貴族さんと権力争いをして、負けて、大宰府に流罪になったのは、史実です。
    時代で言うと、空海さんの一世代後ですね。それで、藤原道長さんとか「源氏物語」の一世代前のことです。)

    歴史の縦軸とは別に、横軸として、
    「あるべき範囲を超えてでも、惚れたはれたに身をやつし わかっちゃいるけど身を落とす」
    と、いう男女の物語が、実は流れを作っているなあ、と。

    もともと、斎世親王と、菅さんの娘が恋愛してなければ何もなかったし。
    武部源蔵さんも、恋愛事件で勘当されちゃう。
    結局は、政治ドラマなんていうのは背景で。波乱に揉まれる人々の人間ドラマなんですね。

    そういう人間的な情けの部分の強調が、ある意味「寺子屋」なんだろうなあ、と。
    我が子を殺しちゃう、というのは、あまりにも衝撃的なんですけれど。
    でも、これはある意味、良く考えたら作劇場のケレン、スキャンダラスな見世物とも考えられます。
    その上で、我が子を亡くした松王丸が、建前で毅然としつつも、最後は慟哭する。という、この下りが、まあ、見せ場なんですよね。

    「だったら、はじめから我が子を殺さなければいいじゃん」

    というのは、実は、野暮な話だと思うんですよね。
    なにしろこの演劇、作られたころから、「むかしむかしのものがたり」ですから。

    よくよく考えたら、2014年現在だって、我が子、家族、妻、恋人、親兄弟を犠牲にして、会社の言いなりに残業したり単身赴任したりしますよね。
    (あるいは、会社員じゃなくても、商売とか自己実現とか優先しちゃったりとか)

    それだって考えようによっちゃ、「だったら、会社の命令、拒否ればいいじゃん」ということになるんですね。
    でも、なかなか出来ない。

    「すまじきものは、宮仕え」。
    これ、もともとは平安時代の朝廷仕えの女房さんか何かのコトバらしいんですけど。
    この言葉が、「寺子屋」に出てきます。
    それも、小太郎を殺さなきゃならない、武部源蔵さんの苦悩として出てきます。
    (厳密には、武部源蔵さんは勘当されてるから、フリーな寺子屋の教師なんじゃないのか?という疑問もありますが)

    結局、ソレなんだなあ、と。
    なんだかんだ、浮世の義理で、世の中のプレッシャーで、個人的な幸せの追及っていうのが許されないところの悲劇というか。
    そこの、お涙ちょうだいなメロドラマを、むかしばなしの隠れ蓑の中で、ケレンにケレンに、描いてるんですねえ。
    ケレンケレンではあるけれど、にんげん的といえば、にんげん的な葛藤だなあ、と。
    だから今にいたるまでの人気演目なんだと思います。

    毅然と我が子を殺す松王丸がかっこいい、という話ではないんですね。
    そういうことになっちゃった、松王丸が、毅然としきれず崩壊する、というお話なんですね。


    …と、いうような感じを含めて。

    歌舞伎演劇の粗筋を面白く文章化する、というのは、実に至難のわざなんです。
    ま、だいたい、映画でもそうですけど、パンフレットのたぐいの、日本語的なヒドサって言ったらないですからね。
    (それでもガイドとしてはありがたいんですけどね。義太夫長唄を上手く聞き取れない身としては)

    橋本治さん、さすがのわざで。
    子供向きという仮面をつけて、ざっくりどっかり、「わるものだから」みたいな、身も蓋もないコトバ術で、餡子の面白さと、複雑怪奇な筋運びを、物語ってくれます。
    このシリーズ、なかなか貴重な名作だと思います。
    ほかにも、歌舞伎名作何作か、このシリーズになっています。
    歌舞伎を観る前に、必ず読んでいきたいなあ、と。
    愉しみです。

    なんだけど…この絵本、絵柄はあまり好きではないんですけどね…

  • 色々な人が出てきて、分かりずらい

  • 美しい挿絵でした
    小太郎、千代、松王丸の段の所に、いろは歌が隠されています

  • 今月の花組芝居公演「菅原伝授手習鑑 ~天神さまの来た道~」の予習!絵が美しいのだ。

  • 帯文:"絵本で読む歌舞伎名作" "歌舞伎はじめての人も、もっと歌舞伎を楽しみたい人も…"

  • 松王丸、千代、小太郎親子に注目して考えると、家族の絆の深さに感極まってしまいます!!登場人物がたくさんいて最初は戸惑うけど、読んでるうちにどんどん引き込まれて行きました★

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