- Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591114162
作品紹介・あらすじ
駅前商店街のはずれ、赤い鳥居が並んでいるあたりに、夕暮れになるとあらわれる不思議なコンビニ「たそがれ堂」。大事な探しものがある人は、必ずここで見つけられるという。今日、その扉をくぐるのは…?慌しく過ぎていく毎日の中で、誰もが覚えのある戸惑いや痛み、矛盾や切なさ。それらすべてをやわらかく受け止めて、昇華させてくれる5つの物語。
感想・レビュー・書評
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『ここはね、なんでも売ってる不思議なコンビニなんだよ。このコンビニにくる人は、なにか大切な探しものがある人なんだ。大事なものを探していて、それを心の底からほしいと思っている人だけが、この、たそがれ堂にたどり着くのさ』
いつでも開いていて、なんでも置いてあって、そして誰でも気軽に利用できる街中のお店、コンビニエンス・ストア。日本初のコンビニはどこか?と諸説入り乱れて話題になるくらいの歴史をすでに持ち、全国津々浦々まで行き渡り、この国にしっかりと根を張ったコンビニ。恐らく誰にでも”行きつけ”のお店がある、日々の生活の導線の中に組み込まれ、もはやなくてはならないもの、それがコンビニだと思います。そして、村山早紀さんの作品に当たり前のように登場するのが『風早(かぜはや)の街』。そんな街にもコンビニはもれなく存在します。『見慣れない朱色に光る看板には「たそがれ堂」の文字と 稲穂の紋』があるというそのお店。『この世で売っている すべてのものが並んでいて』、『この世に売っていないはずのものまでがなんでもそろっている』というそのお店。そんなすぐにでも行ってみたくなる夢のようなお店は、実は『行ってみたくても、行けなかったのです』という不思議な存在でもありました。この作品はそんなコンビニに縁あって訪れることのできた人々が『大事な探しもの』とめぐり合う物語です。
『この本の元本は、子どもの本、児童書です』と語る村山さん。単行本化を機に『ここぞとばかりに、あちこち描写とか増やしてます』というその作品は、児童文学の作家でいらっしゃる村山さんが『心まで描写できる喜び。改行できる喜び』を感じながら『大人の読者さん向け仕様』として刊行されました。そんな大人のための優しい物語、大人にこそ滲み入る物語に、涙もろい私は、じんわりと涙してしまいました…。元が児童書ということもあって、恐らく多くの方は途中でそれぞれの短編の結末が予想できると思います。この世には、全く予想できなかった結末に驚き思わず涙する作品があります。一方で、途中でこうなるんじゃないか、こうなるんじゃないか、と予想させつつ、その予想通りに結末する作品もあります。この作品はそんな後者です。派手な涙は出ませんが、身体の内面からじんわりと湧き上がってくる涙、それはとてもあたたかいものだと知りました。
そんなこの作品は五つの短編から構成されています。元々は児童書ということで、大人向けになったとはいえ、全体のページ数も少ない中に熱いものがじわじわとこみ上げてくる要素が満載です。共通するのは冒頭でご紹介したコンビニ『たそがれ堂』がキーになる物語、いや、『たそがれ堂』がキーを与える物語です。とにかく短いので深く作品紹介に入りすぎると一気にネタバレになってしまうために、紹介がなかなかに難しいこの作品ですが、雰囲気を感じていただくために一編目の〈コンビニたそがれ堂〉をいつものさてさて流でご紹介したいと思います。
『秋のその夕方、アスファルトの道をけとばすようにしながら、歩いていました』というのは主人公の雄太。『胸の奥が苦しくて重たくて、なにかを壊してしまいたいような、自分を殴りつけてやりたいような、そんな気分』で歩く雄太は突如『コンビニエンス・ストアにでくわし』ました。『夕暮れの赤い空の下、ぽつんとそこに』あったという『稲穂のマークの看板』のそのお店。『最近できたのかな?…いや、それにしては、なんか古くねえか?』と思いつつ『ドアをくぐ』る雄太。『いらっしゃい。どうした少年、元気がないな』と『レジのお兄さんに声をかけられま』す。『長い髪は銀色で、目は光る金色』というお兄さん。『おいおい。そんなにひくなよ。雄太くん。取って食いやしないからさ』といきなり名前を言われ、『…おい、兄ちゃん。おれの名前、なんで知ってるんだよ?』と聞く雄太。『そりゃ知ってるさ。だってきみは、この界隈の有名人だからね。街でうわさの、正義のヒーローじゃないか』と言うお兄さんに『自分の耳を疑』う雄太は『おれはただの小学生だぞ?』と不思議がります。しかし『気がつくと、店にいるほかのお客さんたちがみんな、雄太のほうを見たり、振り返ったりしている』という光景。思わず『雄太はあとずさりして、店を出よう』とします。そんな時、『雑誌のコーナーに、お気に入りの猫の雑誌を発見』した雄太。『うわ、これ、大きな本屋さんにもめったにない』と驚き『超マイナーな雑誌なのに、どうして近所のコンビニなんかにあるわけ?』と思わず声を上げます。それに対して『そりゃあ、このたそがれ堂が、お客さんのほしいものは必ずある、不思議に便利なコンビニだからさ』と上機嫌で語るお兄さん。『動物が大好きでした。とくに猫が。夢は獣医になることです』、そんな雄太は、『去年の冬』、『河原で年老いた猫をいじめていた中学生に、それをやめさせようと飛びかかって』いった時のことを思い出しました。『最初の日は、ほとんど寝ないで猫を見守』った雄太。元気になったあと河原に放すと『猫は何度もお礼を言うように、雄太を振り返りながら、川の周囲に広がる草の波の中に、消えて』いったというその時の記憶。そんな雄太は雨が降る中捨てられていたもう一匹の子猫のこと、そして『かわいそうと泣いていた』ひとりの女の子のことも思い出します。そして、そんな女の子との思い出が奇跡に変わっていく、そんな物語が展開していきます…というこの作品。『たそがれ堂』についての導入部を兼ねながら、その不思議な世界、優しくあたたかな感情に満たされた世界の魅力を存分に味わわせてくれた作品でした。
『風早の街の 駅前商店街のはずれに
夕暮れどきに行くと
古い路地の 赤い鳥居が並んでいるあたりで
不思議なコンビニを 見つけることがある』
と続いていく冒頭文だけですっかりその世界に魅了されるこの作品は、『まるで「狐につままれた」みたいだ』という雄太の感想そのままの世界が広がります。これぞファンタジーといういわば夢物語ですが、その根底に流れるストーリー自体は決して特異なものではありません。『たそがれ堂』というファンタジー世界から一歩出た外の世界は『夕暮れの街を行く人々は、ある人は急ぎ足で、ある人はゆったりとして。ひとりの人もいれば、子どもの手を引く人もいて。笑顔の人も。口をむすんだ人も』という、あなたの暮らす街でも普通に見られる光景です。そんな日常の光景を見ても何か思うことはないのかもしれません。でも、そんな人々は『そのそれぞれが、同じ時の中を、同じ街の同じ場所で交差しながら、それぞれの思いを抱いて、生きて』います。かつての何かしらの後悔の念に苛まれている人もいるでしょう。遠い過去に忘れ物をしてきてしまった、そんな風に感じて生きている人もいるでしょう。そして、何かに悩み何かしら前に進むためのきっかけが欲しい、そんな風に感じながらも決断を下せないでいる、そんな人もいるでしょう。『たそがれ堂』は行ってみたくても誰もが行ける場所ではありません。一方で選ばれた特別な人だけしか行けない場所でもありません。『夕暮れの街を行く人々』の中から今日も誰かが、引き寄せられるように辿り着く場所、『たそがれ堂』。『大事な探しものがある人がくる店』。そんなお店は、辿り着いた人たちにとって、『心の奥で、自分の人生が、まるで線路が切り替わったように、行き先を変えた』と、心のどこかに引っかかっていたことに、過去の自分に区切りをつけ、次の未来へと向かってゆくためのきっかけを与えてくれる場所でもありました。
もし、私自身が『古い路地の 赤い鳥居が並んでいるあたりで 不思議なコンビニを 見つけることが』あったなら、そんなコンビニに行くことができたなら。そんなお店の棚の上に私は何を見つけることになるのだろう。何が私を待っているのだろう。そんなことをふと考えてしまう読書。なつかしさとせつなさに包まれる読書。そして読後に包まれる、人の優しさとあたたかさを感じる読後感。
今の世に、こんなにも素朴な愛に満ち溢れた物語があるんだ、と、ある種の驚きを感じた傑作でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
夕暮れの風早の街はずれの古い路地。
赤い鳥居が並んでいるあたりにあるというコンビニ「たそがれ堂」。
ドアを開けるとぐつぐつ煮えるおでんとお稲荷さんの甘い匂い。
にっこり迎えてくれる店員のお兄さんは銀の長い髪に金色の瞳。
この世で売っているものが何でも並び、
この世に売ってないはずのものまでそろっている。
大事な探しものがある人は必ずここで見つけられる。
心からの探しもののある人しかたどりつけない不思議な魔法のコンビニ。
もとは児童書だったという5つのお話が収録されている。
コンビニたそがれ堂
探しもの:猫のメモ帳。
猫をきっかけに仲良くなった雄太と美音のお別れと再会の約束。
手をつないで
探しもの:リカちゃん人形。
大好きなのに子どもをうまく愛せないママと、ママが大好きなえりか。
ふたりの想いとふたりのリカちゃん人形。
桜の声
アイテム:桜の花びらが入ったようなガラス玉のストラップ。
ラジオパーソナリティの桜子が出会った不思議。
古い大きな桜を通して時を超えた桜子の「大丈夫」とケツメイシの♪さくら。
あんず
探しもの:不思議なキャンディ/赤いちりめんの首輪
寿命を悟った子猫の一度だけの願い。
“見えなくなっても、会えなくなっても、きっと、『どこか』には、みんな、ちゃんといるっていうことさ。消えてしまうわけじゃない。誰の魂も、どんな想いもね”
あるテレビの物語
探しもの:古い小さなテレビ
小学一年生の女の子が産まれたときに買われたテレビ。
機械が死んだら、心も魂も地上から消えてしまうの?
読んでいて、わたしにはたそがれ堂で探したいものがあるだろうかと考えた。
欲しいものはたくさんある。
いくら収納してもいっぱいにならない本棚とか(笑)
無くしたものもたくさんある。
若さとか、記憶力とか(無くしたというより劣化・・・悲)
いずれも「心からの大事な探しもの」というのとはかなり違う気がする。
でも考え始めると、心の奥底に忘れているなにかがあるようで、思い出せずなんだかもどかしい。(これも劣化した記憶力のせいか)
忘れてしまった探しものもたそがれ堂で探せるかしら。
本編だけでなく、あとがきでも村山さんの優しそうなお人柄が出ている。
解説に村山さんが子ども時代を振り返った言葉が引用されていて、わたしも似たようなことを思う子どもだったのでとても共感した。
残念ながら、村山さんのようにおとなになっても優しいまま、ではないけれど。
たそがれ堂の続編はもちろん、風早の街でつながっているという他の作品も少しずつ追いかけて読んでみよう。-
stargazer7さん、こんにちは♪
コメント、ありがとうございます!
こちらにまで来てくださって、わたしのほうこそ嬉しいです♪
...stargazer7さん、こんにちは♪
コメント、ありがとうございます!
こちらにまで来てくださって、わたしのほうこそ嬉しいです♪
うわあ、「たんぽぽ娘」もうお読みになったんですね!
わたしは河出版を読む予定ですが、
復刊ドットコム版の表紙もステキですよね。
思い入れたっぷりのstargazer7さんのレビュー、楽しみにしています(*^-^*)2013/06/26 -
こんにちは。
カフェかもめ亭へのコメントありがとうございます。(もうだいぶ前の話で恐縮ですが・・・)
私の一番のお勧めは九月猫様もお読みに...こんにちは。
カフェかもめ亭へのコメントありがとうございます。(もうだいぶ前の話で恐縮ですが・・・)
私の一番のお勧めは九月猫様もお読みになっているこの「コンビニたそがれ堂」シリーズです。
村山早紀さんの作品はどれを読んでも心が温まりますよね。
自分まで優しくなれたような錯覚(?)に浸れるので大好きです。
読み終わった後は自分も優しくなろうと毎回心に誓い、そしていつのまにか忘れてしまうダメな私ですが・・・(笑)
風早の街でつながっている他の作品、どれも最高ですよ!!
2013/07/27 -
kumi110さん、こんばんは!
コメントありがとうございます。
村山さんのおススメは「コンビニたそがれ堂」シリーズですか。
...kumi110さん、こんばんは!
コメントありがとうございます。
村山さんのおススメは「コンビニたそがれ堂」シリーズですか。
この一作目が、もうとにかく大好きな作品になったので、
続きが楽しみだけど、読んでしまうのがもったいない~!と
出し惜しみ(笑)していたのですけれど、早めに読みますっ!
あああ、楽しみ~(´∀`*)
おススメ、ありがとうございます♪
村山さんの作品は本当に優しいですよね。
読み終わって、自分も優しく・・・と誓っちゃう気持ち、わかりますっ!
毎回そう考えることのできるkumi110さんはきっと充分優しい心を
お持ちなんだと思いますよ(*^ー゚)b2013/07/28
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あとがきを読んで、元は児童書だった事を知った。
子供の頃に、出会っていたら夢中で読んだのかもしれない。
ファンタジーで癒される短編集。 -
ちょっと物足りないなと思ったら児童書だったと納得。
それでもほっこりするいい話が多かった。
個人的に【あんず】が好き。
現実にもこんな素敵なコンビニあったらいいのにな〜 -
大事な探し物がある人だけがたどり着けるコンビニ、たそがれ堂。そこを訪れる人たちと、彼らが探し物をしている理由を描いた物語。
なんだか、童話っぽいと思いながら読み終えたら、元は児童書だったと後書きに書いてあり、納得。
子ども向けながら(だからこそ?)、どれも、優しい気持ちになれるストーリー。 -
夕暮れ時,探し物が見つかる不思議なコンビニたそがれ堂が開く。日々の問題を受止め切なさに寄り添う話。
「あんず」だけ人間でなく病気の白猫が主人公。人間になるキャンデーを買う。”星の海で待ってる”が切ない。 -
大事な探し物が見つかるという
コンビニを舞台とした心温まる5つの物語集。
心に沁み入る優しい物語だった。
元本が児童書ということがあってか、
語り口が優しく、とても読みやすかったです。
子供の頃に読んだ童話を思い出し、
懐かしい気持ちになった。
近頃は、探すことに費やす時間や手間を、
煩わしく思い、簡単に買い直す事が増えたように思う。本当に物を大切にし、見つけた時の喜びを、久々に思い出したように感じた。
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この作家さんとの出会いは、広島の本屋。
夜行バスで東京に戻る前に、ふらりと入った全く知らない街の本屋で「桜風堂ものがたり」と出会った。
普段から本を絶えず読んでいる関係で、本屋に行く時は大概目的の本があって、行くことが多く、「桜風堂ものがたり」は本当に久しぶりに「本屋で出会った本」だった。
優しい作風なのに、決して人生が甘くないこともきちんと描かれ、そんな中で登場人物がお互いに思いやりにあふれる人たちで、涙が止まらなかった。今では好きな作品の5本指に入るほど。
そんな出会いだったので、もともと児童文学の作家さんだったことも知らず、この「コンビニたそがれ堂」というシリーズが9作も出ていることも知らず、最近、最新刊が出たことで、今更ながら読んでみることに。
何の情報もなく、読み始めると、文体に違和感。でも、悩みを抱えて、大事なものを求めて、たそがれ堂にたどり着く人々を温かく迎えてくれるコンビニの主人とのやり取りを読んでいると、心の奥が温かくなって来るのが分かる。
あとがきを読んで、元は児童書であったことを知る。
だから、あんなに優しい文体だったのだと…
優しい物語だけど、きちんと人生における悲しみ、どうにもならない運命もきちんと描かれ、子供の頃にこの作品と出会っていたら、どうだったんだろう?と考えずにはいられない。
発売から結構年数が経っているので、刊行が古い作品を見つけるのがちょっと大変だけど、少しずつ読んでいこうと思う。
もしかして、この作品がこの作家さんの代表作なのかしら?だとしたら、これまで知らずにいた自分が少し恥ずかしい… -
最近読んでいる本が自己啓発系やビジネス系ばかりになっていたので、久しぶりにほっこりしたいなーと思い、SNSで紹介されていたのを思い出して手に取りました。
著者の本は初めて読んだのですが、目的を十分満たす、心休まる時間を過ごせました。著者は児童文学賞を受賞していることからも、とても読みやすく、普段、頭を使って読むことが多くなり、どことなく本を読むことが疲れる感じになっていましたが、これからもこういった本が読みたい、読書ってやっぱりいいなーと思い出せた、いい時間でした。 -
元々児童書なのもあり、とても綺麗な言葉が多く心を打たれる言葉が多かった
手をつないで を読んだ時は、涙を堪えるのに必死でした
桜子さんの声の話も素敵だった
是非子供にも読んでもらいたい
全部が心温まる話です
たくさんの人にお勧めしたい本です!
著者プロフィール
村山早紀の作品





