四十九日のレシピ

著者 :
  • ポプラ社
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感想 : 611
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591115350

作品紹介・あらすじ

熱田家の母・乙美が亡くなった。気力を失った父・良平のもとを訪れたのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子・井本。乙美の教え子だったという彼女は、生前の母に頼まれて、四十九日までのあいだ家事などを請け負うと言う。彼女は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を、良平に伝えにきたのだった。家族を包むあたたかな奇跡に、涙があふれる感動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 『死者の魂は四十九日の間はこの世にあり、その法要が終わるとあの世に旅立つという』。

    人は自分の人生が当たり前に続いていくことを前提に生きています。身近な人とケンカをするのもやがて仲直りをどこか前提に考えた上での行為だと思います。また、例えば『釣りに出かける』に際していつもの如く『妻が弁当をこしらえてくれた』という場面があったとします。それが当たり前に繰り返されてきた日常の中では、弁当を作ってくれたということに対する感謝よりも『弁当の袋にはソースがしみていた』という些細な問題についつい気持ちがいってしまうことだってあるかもしれません。そんな時、『ビニール袋に入れて持っていく?』と言ってくれた妻に『もういらんよ』とその場の感情だけでムキになって家を後にする夫、などということもあるかもしれません。しかし、『もういらんよ』などと冷たい言葉を投げかけられ『寂しげな』妻の顔を見たとしたら、それは夫の心の中に響くものがあるはずです。帰ったらなんと謝ろうか、仲直りのお土産を買って帰ろうか、そんな風に考えるのが普通だと思います。しかし、そんな風に当たり前に続いていく日常が突然に断ち切られてしまったとしたらどうでしょう。ケンカをして家を出た朝の光景、そして、

    『それが生きている妻を見た、最後だった』。

    そんなまさかの未来が待っていたとしたら夫はその先の人生に何を思い、何を考え生きていくのでしょうか?

    この作品は、妻の不慮の死を前に『なぜ、あのとき怒鳴ってしまったのだろう』と後悔の念に苛まれる夫の物語。そんな夫に妻が遺してくれた『レシピ』の存在に、遺された夫がこの世を生きていくことの意味を感じる物語。そして、それは『四十九日』という儀式とは誰のためにあるのかをしみじみと感じることになる物語です。
    
    『二週間前』、『釣りに出かけると言ったら、妻の乙美が弁当をこしらえてくれた』と、その時のことを思い出すのは主人公の熱田良平(あつた りょうへい)。しかし、弁当の袋に滲み出たソースを見て『おい何やってるんだ、ソース、袋にソースがしみてるじゃないか』と不満を言う良平は、『カバンが汚れる。いらない』と言って家を後にしました。『寂しげな顔をした』というその時の乙美。そして、『それが生きている妻を見た、最後だった』というまさかの未来が待っていました。『自宅で心臓発作を起こし、一人で世を去った』乙美。『なぜ、あのとき怒鳴ってしまったのだろう』と涙が込み上げる良平は、最期に見た寂しげな乙美の顔を思い出し『乙美は、幸せだったのだろうか』と考えます。そして『この二週間、まともなものを食べていな』いという日々を送る良平は、一方で『東京で姑と同居をしており』『数日おきに電話をくれる娘の百合子に』は、『困っているとは言いたくない』と考えます。『このまま食事を絶ったら乙美のあとを追えると思う』ものの『死ぬ度胸もない』という良平。そんな時『ごめんください』『おじゃましまーす』という声と共に『部屋の戸が開』きました。『うわ、クサッ』と声を出すのは『極限まで日焼けしたと思われる褐色の肌に黄色い髪、目の周りを銀色の線でふちどった娘』でした。『「井本」と名乗った』十九歳というその女性は『乙美がボランティアで絵手紙を教えていた福祉施設の生徒だと言』います。『あたし、乙美先生から頼まれて』と切り出した井本は『家の片づけとかダンナさんのご飯とか法事とか、そういう細々したのヨンジュウ、クニチあたりまで面倒見て欲しい』と言われたと語ります。『しじゅう、くにちだ』と指摘する良平に、井本は乙美の机の場所を訊くと、勝手に引き出しを開け『分厚い冊子』を取り出しました。『暮らしのレシピ、と書かれたその冊子』には、『料理、掃除、洗濯』…と項目ごとにカードが分かれ、『料理の作り方などがイラストで描かれてい』ました。『もし何かあったらこれを見てもらいたいって』と説明する井本は、『料理のカードをめくって差し出し』ます。そこには、『「葬儀の日のレシピ」、続いて「四十九日のレシピ」と書いて』あります。『葬儀も四十九日も読経や焼香』は不要で『レシピの料理を立食形式で出して、みんなで楽しんで』欲しいという記述を読む良平。そんな良平に『たぶんお葬式は無理だから』、その次、つまり四十九日には『明るくて楽しい大宴会みたいなのができればいい』、『それが夢』と乙美が願っていたと話す井本は、『一日五千円の四十九日分』のお金を乙美から既にもらっていると説明します。そして、『あたし、働きます』と『スポンジで浴槽を磨』きだした井本に焦る良平。『背中流すよ』と言い『ピンク色のシャツを脱ぎ、下着一枚』となった井本に『いいから早く服を着ろ』と怒鳴る良平。『早く脱ぎなよ、服、洗うから』と迫る井本。そんな時、『お父さん、昼間から何をしているの?』と『下着姿の井本の向こうに、娘の百合子が青ざめた顔で立ってい』ました。そして、『百合子の居場所を作ろう。そして乙美のために盛大な宴会をぶちあげよう』と、妻の『四十九日』へ向けて、立ち直っていく良平の姿が描かれていきます。

    「四十九日のレシピ」という書名のこの作品。『四十九日』というと命日から49日目に行う大切な儀式のことが思い起こされます。この作品が取り上げるのも正にその『四十九日』のことです。そして『それが生きている妻を見た、最後だった』と、全く予期せぬ妻の逝去から『四十九日』までの期間に『このまま食事を絶ったら乙美のあとを追える』とまで傷心した夫が落ち着きを取り戻していく日々が描かれていきます。

    そんな物語に登場するのが妻が残してくれた『暮らしのレシピ』という冊子でした。『料理、掃除、洗濯、美容、その他、の項目に分かれてい』るその内容は『洗濯や掃除のコツや、料理のレシピ』がまとまっているものです。その中に、この作品の主題とも言える「四十九日のレシピ」の記載がありました。自分の『四十九日』には、『読経や焼香はいらず、ここに書かれているレシピの料理を立食形式で出して、みんなで楽しんでもらえればうれしい』という内容に戸惑う夫・良平。そして、そんなレシピの存在を伝えてくれた謎の女性・井本の突然の登場。物語は冒頭から一気に動き出します。そんなレシピの内容を二つほどご紹介しましょう。

    ・『料理』→『パトカー、プラス信号でOK』: 『パトカーの白と黒、信号の赤、黄、緑、この五色のものを食べると、身体に必要なものがそろう』というもので、例えば『黒い食べ物』は『黒ゴマとかひじきとか黒砂糖』を指し、買い物の際に意識すべしと示唆している。

    ・『掃除』→ 『掃除機は重いから週に一、二回で十分。毎日、軽く不織布のモップで拭くだけでOK』: 『毎日の掃除』ですべきなのはこれだけで大丈夫と示唆している。

    上記の通り『レシピ』の内容は決して特別なものではありません。いずれも生活の知恵といった面持ちであり、日常の生活で当たり前に実践されている方もいらっしゃると思います。しかし、この作品の主人公である良平は、妻の生前そういったことに関わることなく生きてきました。突然現れた井本が『家の片づけとかダンナさんのご飯とか法事とか、そういう細々したのヨンジュウ、クニチあたりまで面倒見て欲しい』と妻から託されたあたり、もし自分が先に亡くなった場合に、遺された夫や娘の生活を思いやる妻の深い愛情が感じられます。

    一方で生前の妻の生き様にあまりに無関心だった夫・良平には、妻が生前携わっていた事ごと、人との繋がりの広さに驚くのは無理ありません。この作品では、興味深い固有名詞が多数登場します。その一つが『リボンハウス』です。『アルコールとか、…セックスとか、いろいろな依存』から抜け出すのを支援するという目的で設立された組織で先生をしていたという妻・乙美は、『料理とか口のきき方』、『服の畳み方とか洗濯とか買い物の仕方』を井本たちに教えていました。『マジですぐ役立つことばっかりで、ぶっちゃけ学校の勉強よりすごく?役に立ちました』という井本の感想にある通り、人が一人で生活していく中で必要なことを学ぶ機会はなかなかにはないものです。掃除が必要だから掃除機を買ったとしてもどのように使っていくのかは、それぞれの生活の中で少しずつ適切なやり方を見出していく他ありません。”ヘルシー嗜好”と言われて久しいとはいえ、健康を維持していくにあたっての食材の選び方を含めた自炊が自分の中でしっくりくるようになるにはやはり一定の時間が必要です。妻・乙美が『リボンハウス』で、生活する力のない女性たちにそういったことを指導していく中では、逆に身近な存在である夫・良平の先行きに不安が募るのはある意味必然だったのかもしれません。また、この作品では『テイクオフ・ボード』という考え方も登場します。まさしく『飛び箱の踏切板』に光を当てるその考え方は、『親が子を支えるように、みんな、誰かの踏切板になって、次の世代を前に飛ばしていく』という役割を『リボンハウス』に、そして乙美の生き方に重ね合わせるものでもありました。『板を踏み切って箱を飛んだら、もう思い出さなくていい』という通り、先に進んでいく者にとってはその『テイクオフ・ボード』は一つの通過点に過ぎません。一見、淋しい考え方にも感じますが、人の世はこの組み合わせで成り立っています。誰もが『テイクオフ・ボード』を利用し、その先には今度は自らが『テイクオフ・ボード』の役割を果たして次へと時代を繋げていく。思った以上に深い考え方を描く物語に、「四十九日のレシピ」という作品タイトルが改めて響いてきます。

    人はこの世に生まれた限りいつかは死を迎えこの世を後にします。これは誰にも避けることはできません。一方で、それは自らと共にいる身近な人についても同じことです。人は生きている中で”予定”というものを立てます。来月の二十日に一泊二日で温泉に行こう、来年にはもっと広い家に引っ越そう、そして定年したら田舎暮らしをするぞ!といった”予定”の数々は、その時点まで自身の人生が続いていることを前提にしたものです。そんな”予定”に、自らの大切な人、例えば夫や妻が関係するのであれば、そんな”予定”の数々は、そんな伴侶の人生も続いていく前提のものです。そして、私たちは日常を過ごす中で親しければ親しいほどに喜怒哀楽を共にします。まさか、もう二度と会えないと分かっている人に冷たい言葉を投げかけて終わりにするなんてことはしないでしょう。しかし、人の世は無情です。そんな冷たい言葉を投げかけた瞬間が振り返れば今生の別れの瞬間だった…となることだって可能性としてはあり得ます。この作品では、そんなまさかの不慮の別れの後にも続く夫の人生に妻・乙美が遺した想いに光が当てられていました。

    人が亡くなると古来よりさまざまな行事が予定されてきました。しかし、今の世の中、宗教的感覚も希薄になり、『四十九日』と言ってもなかなかピンくるものではないように思います。実は私も『四十九日』などというものは”お坊さんを儲けさせるためだけ”の形式的な行事という印象しかもっていませんでした。それが、父の死を経験してその思いが変わりました。まだまだ元気だった父親の不慮の死、それは突然に訪れました。父とは同居していたわけでもないですし、そんなにしょっちゅう会話をしていたわけでもありませんでした。しかし、いざ亡くなってみてその存在が自身の中に占めていた大きさを知ることになります。特に人との関係について私は思った以上に父親に相談していたことに気づきました。もちろん父親の一言ひとことに従っていたわけではありません。時には反発もしました。しかし、自分の視野からは見えなかった側面からのアドバイスは自分の考えをまとめる中で大きな支えとなっていたことに気付かされました。一方で人は思った以上に新しく置かれた環境に慣れる生き物だとも思います。例え環境が変わっても生きていくしかない私たち、その新しい環境下で生きなければならない私たちは、やがてその環境に順応していきます。この作品が光を当てた『四十九日』、それは、夫・良平が、妻・乙美の不慮の死を乗り越えて新たな人生を力強く生きていくための助走期間、そして、その『テイクオフ・ボード』を『四十九日』に重ね合わせていくものでした。そう、『四十九日』とは、死者のためではなく生者のためのもの、父の死を経験した私は、この作品を読んで改めてその認識を強くしました。

    『四十九日』へ向けて『レシピ』を遺した妻・乙美の深い愛情を感じるこの作品。伊吹さんらしい優しさの感情が凝縮されたどこまでも優しさに満ち溢れたこの作品。『四十九日の間、誰もが答えを探し続けていたのだ』というその先に、この世に遺された者たちが、その先へと続く人生に力強い一歩を踏み出していく様を見るこの作品。『私ね、思い出した。レシピってお父さん、処方箋って意味もあったね』と『レシピ』という言葉に込められた妻・乙美の深い愛情に胸が熱くなる、そんな素晴らしい作品でした。

  • 乙美さんが亡くなり気力を失った夫のもとに
    金髪の娘が現れるところから始まる物語。

    金髪の娘井本は乙美の働いていた施設の人間で
    生前から頼まれていたと言って
    夫の身の回りの手伝いを始めます


    そこへまた傷を負った娘百合子も現れ
    共に生活をすることに。


    母が残したレシピや
    生前付き合いのあった人々との関わりの中で
    少しずつ気力を取り戻していく話。


    こういう、人が再生していく物語は好きです
    こちらまで元気になってきます!

    話が進むにつれて
    乙美さんのとても素敵な人柄がわかってきて
    余計亡くなってる事実が辛い。。

    でも残されたものは生きていかないといけないんですよね



    にしても!!!
    浮気相手がすごすぎる!ひどすぎる!

    なんなんだあれは!!!


    普通にしてれば浩之もちゃんとしてるように見えるのに
    なんであんなのに引っかかってしまうんだー!
    浩之の家族も嫌すぎる!!
    もう百合子のことは放っておいてって感じなのに!
    離婚一択!!!

    そして浮気相手の子供のことも気になる…


    なんか丸く治った感はあるけど
    すっと終わってしまった感があって
    モヤモヤが残るー



    あとは親戚の物言いもちょっと酷いかな
    私だったら最後の感じで帳消しにできないなー
    ああいう物言いをする人だったとしても
    もう少しあるだろうって気がするけど…



    そういうモヤポイントがいくつかあったので
    星は4つ


    でも素敵な四十九日でした(^^)




  • 伊吹有喜さんは雲を紡ぐから二作目。

    タイトルから、誰かが亡くなって四十九日の間のお話なんだろうなぁとは思い、また装丁が穏やかなのほほんとした感じだったことに…騙されたっ。。

    熱田家の母、乙美さんが突然の死を迎えます。家はゴミ屋敷、抜け殻のようになった父と、事情を抱えて帰省した娘の元に現れたのは、乙美さんの元教え子だという金髪ギャル(←年代)の井本さんという女の子。
    自分の四十九日までの間、家を整えて法事の代わりの大宴会をするために、生前乙美さんにお願いされたと(契約金支払済)あれよこれよと世話を焼いていきます。
    最初は困惑する父と娘も、イモちゃんの人柄や乙美さんの思いを理解していくうちに…。

    人が亡くなった時、あの時ああしてれば、こんなこと言わなければ。これが最期だとわかっていれば…と思うものです。
    父の後悔と妻への想い、娘の母への想いと現在の家庭の問題。そして、乙美さんが生前お手伝いに行っていた施設でしていた事。
    それぞれの思い出の中の乙美さんしか出てきませんが、生前の乙美さんの落とした水滴が波紋となって周りの人へ、亡くなった後も受け継がれていく、そんな物語でした。
    そしてまた、女性としての生き方、家族の意味、特に子どもについては物語の重要なキーワードでした。

    『レシピ』に込められた本当の意味。

    悲しくて、苦しくて…はらはらと涙が溢れる、というよりも咽び泣いて化粧が全てハゲ落ちてしまった一冊。
    悲しかったけど、すごく人を大切にしたくなるお話でした。

  • 伊吹有喜さんは初読みの作家さんだった。
    『四十九日のレシピ』
    可愛い装画とあらすじの続きが気になり手に取ったが、これが大当たり!もの凄く良かった!!
    久しぶりに何度も温かい涙が溢れた。

    【内容】
    妻を亡くしたばかりの良平の元を訪れた「井本」という黄色い髪の娘は、妻が遺した「四十九日のレシピ」の存在を教え、生前の妻から四十九日あたりまでの諸々の面倒を頼まれていたという。
    この「四十九日のレシピ」には亡き妻 乙美の料理の数々に、日々の暮らしの掃除・洗濯・美容といったエトセトラが、自作のイラストと共にカードでリング式に綴られていた。
    ちなみにレシピには処方箋という意味もあるという・・・

    一方、東京で義母と夫婦で暮らしていた良平の一人娘 百合子は、夫の浩之の浮気が発覚し、あろうことか相手の女性が妊娠しているという。相手の女性 亜由美は2人に離婚を迫り、百合子は今後の人生の岐路に立っていた。


    【感想】
    後妻である乙美に素直に愛情表現を出来ていなかった良平が、不器用だけど温かくて実直で、これぞ昭和のお父さんだなぁと思った。
    百合子がまだ2歳の時に病死した前妻の死後、再婚を全く考えていなかった良平に会いに来た時の乙美が意地らしくて愛おしかった。きっと妻になった後も、乙美の良平を慕う気持ちは色褪せること無く、百合子への愛情もたっぷり注いでいたのだろう。なんてったって、「ダーリン熱田」と「ユリっち」なのだから。

    そして少女達のシェルター施設であるブルーリボンでの乙美の存在は、彼女達の人生を前に進める大きな力になったに違いない。作中で触れられた「テイクオフ・ボード」の話には、思い当たる節があり私も勇気づけられた。

    一方、東京で暮らす百合子の置かれた境遇には、何度も胸が詰まり張り裂けそうになった。同じ立場だったら、きっと生まれて来る子と、父親になるチャンスを得た夫の為に、私なら新しい道を選ぶだろうと思う。夫婦の不妊治療を経た後での事情だけに、深刻さが一層迫って来る。
    でも夫婦のことは夫婦にしか分からない。結論を出す前に、お互いがきちんと本音で話し合う時間が絶対に必要だろう。こういうのを避けて通ると、後々絶対皺寄せが来るんだよなぁ。

    本作では、避けて通れない辛い場面に向かう時、一緒に寄り添ってくれる井本や、さりげなく気遣ってくれるハルミの存在がじわじわ響いた。実生活でも、こういう存在って貴重だ。仮に姿が無くても、胸に思い出せる存在がいることで乗り切れる時だってある。
    ラストで良平が川岸で一人ごちる場面で涙腺崩壊。こりゃダメだ、外出先じゃなくてホッとした。

    釣りの出かけに乙美が作ってくれた大好物のコロッケサンドを、弁当袋にソースがしみているからと、意地を張って持たずに出掛けた良平。
    「カバンが汚れる。いらない」
    弁当の包みを手にして、乙美は寂しげな顔をした。
    それが生きている妻を見た、最後だった。

    はぁぁ〜リアルだ、切ない。
    生きていると、時として前触れなく、最後の別れが訪れることがある。
    だからせめて家族の行ってきますの際には愛情たっぷりのキスと抱擁、友人との別れ際にはハグまたは握手♪
    いつの頃からだろう・・・
    過去の経験からこんな文化を実践している私
    ふふふっ、結構いいもんですよ。
    欧米か!?笑

    余談だが、声が大きくて怒鳴っているように聞こえる良平に対して、井本が教えてくれたヒントには目から鱗だった。
    「語尾にニャンとかつけると
     誤解されなくていいかも」
    「ニャンがイヤなら、ダベはどう?」
    私も夫婦喧嘩でこじれそうになったら、この案を採用させて貰おうと思う。
    きっと喧嘩が阿呆らしくなって仲直り出来るに違いない。そうなればこっちのもんなのだ。
    なのだ?どっかで聞いたような笑

    温かな読後感で、気持ちが晴れて来るような余韻に浸ることが出来た。
    本当に素晴らしい作品に出会えた。
    是非、伊吹有喜さんの他の作品も読んでみようと思う。

    • hibuさん
      はなちゃんさん、こんばんは!
      四十九日のレシピ、素敵な作品ですよね!
      伊吹さんの作品ですと、「風待ちのひと」もいい作品ですよ♪
      ぜひ、手に取...
      はなちゃんさん、こんばんは!
      四十九日のレシピ、素敵な作品ですよね!
      伊吹さんの作品ですと、「風待ちのひと」もいい作品ですよ♪
      ぜひ、手に取ってみてください^_^
      2024/02/19
    • はなちゃんさん
      hibuさん、こんにちは!

      いつもお世話になっております
      「風待ちのひと」ですね♪
      嬉しい情報をありがとうございます
      また楽しみが1つ増え...
      hibuさん、こんにちは!

      いつもお世話になっております
      「風待ちのひと」ですね♪
      嬉しい情報をありがとうございます
      また楽しみが1つ増えました(*´꒳`*)
      どんどん読んで頭の整理が追いつかない私…
      本当ブクログさまさまです笑
      2024/02/20
  • 題名から何か毎日新しい料理でも出てくるのかと思っていたら違った。亡くなった母親が皆の明日を生きていけるために用意したレシピだった。
    テイクオフボード、そんな生き方が出来れば良いし自分も誰かにしてもらっているのだろうな。
    亡くなった母親を皆でそれぞれが思い、一緒にも思い過ごす49日。
    母親の愛情は皆に届いた素敵なお話でした。

  • 伊吹さんデビューしました☆
    研修ロスでロンリーな私はいま読んじゃいけなかったかもしれないけど、Cちゃんが「いい本だった」と教えてくれたので読み終えることができました。

    ひとりの女性、乙美さんが71歳で発作で亡くなるところから物語ははじまります。
    女性の夫である良平には最初の奥さんとのあいだの娘、百合子がいました。ふたりは彼女をとても大切に思っていたのに亡くなるまで素直になれず、感謝や想いを伝えられなかった。
    191に自立と自律という言葉があるのですが、これがテーマなのではないかなぁと思いました。
    百合子の夫もその不倫相手もまったく自律していなくて、百合子の不妊をなじり勝ち誇る女は、自立すらしていない。
    後妻である自分を拒み続けていた百合子の兄弟を生むことはなかったけど、たくさんの困難に悩む女性たちのために、リボンという施設でテイクオフボードという跳び箱の踏切板になろうとしたふたりの女性のうちのひとりが乙美さん。前へ進もうとする女性たちが踏み切ったら忘れられてもいい、いずれ美しく咲くタンポポの綿毛を飛ばすための大切なきっかけを生む存在だった乙美さん。
    乙美さんは、生前、友人に夫と娘のためのフォローを頼んでいて、次々と彼らは沈むふたりの前に現れて、49日の大宴会までの間の日々を一緒に過ごす。ハルミ、イモト、そして同志の聡美さん。乙美さんが書き残して、残された夫の生活を助けるレシピ帳は、残された二人だけじゃなく、苦しみながらも頑張っていたたくさんの女性たちの日々も助けていった。その暖かな愛情は、彼女の大切な人にもしっかり連鎖。

    246の「馬鹿だったらよかったのに、無神経であれば、生きやすいのに、人より聡くて優しいゆえに、この子はいつも多くを察して前に出られない。」という娘、百合子への良平の言葉に涙が止まらなかった。良平や百合子と対称にいるのが叔母の珠子。
    宴会の再登場があっても到底許しがたい女性。

    良くも悪くも、日本の日常が描かれています。
    この本を読むことで自律に届く、きっと揺蕩う川を超えてゆく聡く優しい人のための日常でもあります。

  • 亡くなった後にこそその人がどのような人生を送ったのかがはっきりと分かる気がします。

    これだけ多くの人に愛されていた乙美さん。
    彼女の作る料理は間違いなく温かな味で美味しいのでしょう。


    一方で、百合子の夫の不倫についてはもやもやが残りました。
    不倫相手気持ち悪すぎ。

    卵子凍結について母と話していたタイミングだったので、真剣に可能性を考えないとなと思いました。


    She left not only many recipes but also a lot of things about how to live.

  • 食べ物をおいしそうに食べる人っていいよね。多分幸せになれるよね。
    最後にもめちゃうと、後からいろいろ後悔してしまうだろうけど、毎日の積み重ねが今に至るわけだから、最後の場面だけじゃなくて今まで寄り添った気持ちすべて、奥さんの気持ち旦那さんに、旦那さんの気持ち奥さんに、最後ちゃんと伝わってたらいいなぁ。

  • 2010.9月に、この「四十九日のレシピ」で伊吹さんデビューをしていたく感動しまって、伊吹さんがファンになり追いかけてきた。
    感動した本ベスト3に入っていたが、再度読み直してビックリ!11年前の自分と今の自分の感想が全然違う。

    11年前の自分は、「最高に爽やかで心温まるいい本!黄色いビートルも素敵すぎる!」
    とこの本に救われたが、

    今は、亜由美の女として生きたい宣言とその自己顕示欲強さや我儘な行動が気持ち悪くて仕方ない。放任されて育ってきた環境を考慮しても、カイト君がそう扱われていい理由にはならないと思う。

    亜由美もカイトもハワイで幸せに暮らしていることを願う。(あまり深く考えずにいたい。)
    エピローグがなかったらうまく消化できなかったなぁ~。

    これからも伊吹さんの作品は追い続けると思う。
    それぞれ持っている人の弱さが、嘘っぽくなくていい。さすが伊吹さん。物語に温かさがあるのもやはり好きだ。

    10年後自分がどう感じているのか楽しみにしつつ、これからも読書ライフを楽しみたい。

  • 5歳の娘がいる男性に38歳で嫁ぎ、それから33年間家族を大切にして必死に生きてきて、そして誰からも愛された女性が亡くなってからの、残された家族の感動の再生物語です。
    女性の名前は熱田乙美、男性は熱田良平、娘は百合子。娘は大学時代の恋人で今は塾を経営する男性と結婚していて遠藤百合子という名前になっている。
    良平は乙美の葬儀後、生きる気力を無くし、百合子は離婚の危機にある。そんな二人を再生すべく、二人の若い男女が現れる。女性は乙美がボランティアで料理や家事一般を教えていた施設の生徒で井本幸恵といい、男性は近くの自動車工場で働く日系ブラジル人でカルロス矢部と言うらしい。この謎の二人が乙美の49日の法要まで関わっていき、百合子も良平も新しい生きる力を得ていく物語なんですが、どう考えてもこの二人が謎なんです。
    その謎は解明されませんが、読み終えると自分の人生に置き換えて、人生を後悔しないようにしなくてはと、あらためて思うような身につまされる物語でした。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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